第9話 愛と傷
『拝啓 君へ。
いきなり本題に入るけれど、私は、君にいつか伝えたいことがあって、この手紙を書きました。本当は口で言えたら良いんだけど、そんな勇気が出なかった時用です。
まず、私は君と同じように人間不信です。いつか、私が偉そうに、信じることについて君に語ったことがあるでしょ?あんなことを言っておいて、本当は私がそんなこと言えないくらいの人間不信だった。彼氏なら気づいてて欲しいけど、君と一緒にいる時と友達といる時、私のテンション違うんだ。友達といる時は、なんというか、作り物の私?みたいな感じで、自分を守るために猫を被ってるんだけど…。君といる時は、その仮面も、必要最低限にしかつけなかった。君を、信じてみたくなったから。…君が私を信じてくれてなかったら、ただの片想いになっちゃうんだけどね笑
けれど、君が人間不信を克服して、友達と幸せに生きてくれたら良いなって思ってます。…私も克服できたらなぁ、とは思うけど、難しいかもね。
あと、これ気になってるんじゃない?私が人間不信になった理由。君のエピソード、私も聞いてないけど、いつか聞けたらいいな。
私、小学生の時、中学受験をしたの。それはもう名門の中学校で、本当に、受験が大変で、もうずっと勉強しかしてなかった記憶がある。でもたくさん勉強してたから、成績もそれなりに良くて、親は私のことを、すごく愛してくれてた。結構2人とも給料がいい仕事についてたから、私の勉強環境を整えるために、たくさんのお金を注ぎ込んでた。それに、ちゃんと高得点取れた時は、さすが、とか、偉い、とかって、人並み以上には私のことを褒めてくれた。
…けれど、私は中学受験に落ちた。悔しかった。両親は、私のために一生懸命尽くしてくれたのに。…だったら、高校受験で頑張ろう。もっとすごい高校を目指そう。そう、思ったけど、両親は、許してくれなかった。というより、認めてくれなかった。受験に落ちた私を、慰めてすらくれなかった。むしろ、「あれだけの金を注ぎ込んだのに」って、責められた。…私には1つ下の妹がいるんだけど、それから一年後に、私が落ちた名門中学に受かったの。そしたら両親から今まで私に注がれてた分の愛情も、全部妹の方に行った。
…今まで私は何してたんだろう、って思っちゃって。今まで親が私を愛してくれてたのは、勉強ができるから、ってだけなんだ。そこで初めて、裏切られた、って思った。いや、あの時は、私が親を裏切っちゃったって感じてたのかな。…暴力は受けなかったの。でも、心無い言葉ばかり浴びせられて…、よく耐えられたなって思う。でも、地元の中学に通うしかなくなった私は、知り合いと顔を合わせるのも怖くて、ほとんど不登校だった。学校に行かないと親に怒られるから外には出るけど、そこら辺で補導されないように遊んでたって感じかな。
それがしばらく続いてたんだけど、ある日たまたま家に遊びに来た叔母さんが、この状況を見て、「流石にやばい」と思ったみたいで、いきなり私を「保護」するって言ったの。叔母さんは結婚してるんだけど、子供がいなかったから、そんなことを言えたみたい。私の親は「できそこないを貰ってってくれるのはラッキー」とか言って…。今更な話だけど、私の親って相当やばい人たちなんだなぁ、と。
叔母さんは私にすごく良くしてくれた。正直、私は受験にトラウマを持ってたから、高校受験もしたくなかったんだけど、流石に将来のためには進学した方がいいかな、って思ったの。偏差値高いところは怖かったから、ゆるめの、この高校に来た。(…これで、謎は解けた?)
まあつまりは、私は親に裏切られたことがトラウマになって、人の信頼とか嘘とかが怖くなった。
…叔母さんたちもね、たぶん、私に国立大学に行ってほしいとか、そんな期待を抱いてるんだよ…。私を引き取ってくれたことにはすごく感謝したいんだけど、やっぱり、その信頼が怖い。だから…ちょっと最近ノイローゼ気味なのか、情緒不安定で…。ごめんね。本当は、君を責めたくなんてなかった。突き放そうなんて気はなかった。今も、君を信じたいし、好きだと思ってる。
本当に、ちゃんと直接言いたかった。ごめんね。ありがとう。』
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