第8話 白と黒

僕が彼女の家に行ってから一週間後のことだった。


今僕の目の前には、彼女の遺影が置かれ、その周りには多くの花々が飾られていた。彼女は塾からの帰宅途中で、車に撥ねられ亡くなってしまったそうだ。


「………。」


彼女のクラスメイトは皆、彼女の葬式に参列させてもらえた。あちこちから、すすり泣く声が心に響いてくる。彼女は人気者であるが故に、この死を悼むクラスメイトは多い。しかし一方、クラスの中にも、人気者である彼女を嫌ったり、彼女との関わりが薄かったりする少数派だっていた。僕だって、彼女と付き合わなければあっち側にいた。そして、彼らはそこまで悲しむ心は持ち合わせていないだろう。


…ならば、なぜ彼女の親族は、生前仲良くしていた者だけでなく、クラスメイト全員を呼んだのか。彼女の親族は、一体何を考えているのだろうか。

彼らの方に目を向ければ、何やら難しい顔で話し込んでいるようで、この悲しみに満ちた雰囲気に少し似つかわしくない気がした。ただ、大人の事情に突っ込んでも別に得なことはない。


それよりも。


___なぜ彼女は死んだのか。


この件は、ただの事故だったのか、彼女が自分から飛び込んだ自殺だったのか、よくわかっていない。実際にことが起こったのは人気のない細道で、車が来ることは滅多になかった。そんな中、不運にもその道を通った車の運転手は、彼女を撥ねたことにすぐに気づき、救急に連絡してくれたそうだが、彼女の命は助かることはなかった。


あの日に、僕が何かをしていれば何かが変わっただろうか。何か違う、他の言葉をかけたりしていたら、…………。


「あの……姉の、彼氏さん、ですか?」


不意に声をかけられ後ろを振り向けば、小さな彼女がいた。否、少し彼女に似ている容姿を持つ少女がいた。姉…?


「えっと…君は…?」


「あっ、妹です。生前、姉がお世話になりました。」


妹……?彼女には妹がいたのか。……そういえば、彼女からは家族の話を聞いたことがなかった。それなのに、僕は彼氏だなんて言って……。


「昨日、遺品整理のために、姉の家に行ったんです。そしたら…、これが、机の引き出しにしまってあって…。」


そう言って僕に差し出されたものは、一通の手紙だった。真っ白な封筒に、彼女の整った字で、僕の名前が書いてある。


「これ…僕に…?」


「…どうぞ。色々伝えたいことがあるのかもしれません。姉は…複雑な事情を抱えていますから。」


「え…?」


複雑な事情…?なんだそれは……?


「それでは、そろそろ母に怒られますので、これで失礼します。……何かあったら、この番号に連絡をください。」


彼女の妹は、小さい紙片を僕に握らせ、大人たちが集う方へ、去ってしまった。


礼儀正しい子だった。ただ、僕と一度も目が合わなかったような気がする。少しの違和感を覚えたが、それよりも、と僕は手元の封筒に目を移した。こんなものを遺していたと言うことは、やはり彼女は自殺だったのだろうか。それは………僕のせいで?そう思うと同時に、どす黒く底の見えない罪悪感が僕を襲った。それに飲み込まれそうになったが、手元の白い封筒が視界に入り、彼女の手紙を読んでからでも遅くはない。そう思うことができた。


いつの間にかクラスメイトはほとんど帰っていて、まだ残っていたのは僕くらいだった。彼女の親族の邪魔になるのもいけない。しかし、だからといって、家に帰る気にもなれない。少し考えて、僕はあの公園で、この手紙をじっくり読むことにした。

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