第18話 親しげに声をかけられたけど誰だかわからない時どうするのが正解?

『七十名の徒党を組んでも最強勇者の前には意味をなさず……! 驚異の七十五人斬り! Cブロック勝者は勿論この方! 階級勇者【湖の精】ことシルフィ・ランスロットォォォ! Aブロック同様、一回戦単独通過ですっ!』

「む……勝者は一人ではなかったのか……それは悪い事をした。すまなかったな」






「シルフィお姉様の優勝ロードは誰にも邪魔はさせませんわーっ! Dブロックはワタクシが全て排除いたしますっっ!」

『Dブロックでは大波乱~~~! 【護衛官】コレット・ランスロットがなんと階級『上騎士』のビスケ・トノカオーリを撃破ぁ! 四十四人斬りのルトラ・アーサー、そして七十五人斬りのシルフィ・ランスロットには劣りますが、二十五人斬りとインパクトは残せたのではないでしょうか!』

「あんな化物達と一緒にしないでくださいませ」






「お兄さん、全ブロックの結果が出ましたよ。アーサーさんと姉スロットさんという実力が突出したお二方の一回戦単独通過もあり、通過者は六名。明日の二回戦の個人戦は変則的な組み合わせとなりますが、Bブロック二位通過のお兄さんはAブロック一位通過のアーサーさんと対戦になります」

「天の女神様が中指立てて煽ってきやがる……これじゃあルトラちゃんの思う壺じゃねぇか……はー、対策練らないとな……レインお前は?」

「アーサーさんが大暴れしてくれたおかげでAブロック二位がいないので私はシードです」

「おいずりぃぞ!? 代わってくれ!」

「やーですよぉ。私だってあの完全無欠のアーサーさんに勝てる気がしませんし。お兄さんには犠牲になって貰います!」

「恋がどうとか結婚がどうとか言ってたのに慈悲なしっ!?」



 初日のコロシアムが幕を閉じ観客達が大満足で帰路に着く中、レインとガルドの二人は闘技場から少し離れた路地裏にいた。

 というのも。



「それにしても二ブロックが単独通過なんて前代未聞ですよ。観客達はもう既に、姉スロットさんとアーサーさんの頂上決戦で盛り上がってますし、私達なんて端役もいいところです。まぁ、一回戦を勝ち抜けば階級は昇格しますし、当初の目的は果たしたのでいいのですが」



 コロシアムの空気が居心地悪かったから。

 観客達の興味は既に無傷の大型新人と最強の勇者の激突へと移っている。そこにBブロックで何とか勝利を手にした二人が入る余地などなかった。



「にしては不満そうな顔だな?」

「そりゃあ有名になりたいのは人として当然の性じゃないですか? アーサーさんが居なかったら、姉スロットさんが居なかったとすれば、もしかすれば優勝候補で話題に上がっていたのは私だったかもしれませんし」

「……現実ってのは意外と非情なもんだぜ? って言ってもまだ小さいお前には理解出来ねぇか……とりあえずその姉スロットって言うの気になるから止めね?」

「えーいいじゃないですかぁ! というか恋人である私の前で他の女の呼び名を一々気にしないで下さい!」

「勝手に恋人認定しないでくれる?」



 腕に引っ付くレインを振り払うことも既に面倒臭いと。何なら自称Cカップを堪能したいまであると、ガルドは小さな吐息を宙へと放ちながら冷静を装う。



「えらく好かれたわね。でも良かったじゃん、念願のロリ彼女が出来て」

「雪豹、誤解しないでくれ。俺はロリコンじゃない」



 腰に手を当て重苦しい軽蔑の半眼を向ける雪豹に、ガルドは真っ先に弁明を口にする。

 そんなガルドの足元から、更に剣呑な視線がガルドの悪寒を誘う。



「お兄さん、この女誰ですか? 敵ですか? 仕留めてもいいですか?」

「お前独占欲強いな……ただの仲間だよ」

「仲間……? お兄さんクラン入ってないですよね? 仲間とは? この女はお兄さんにとっての何なんですか?」

「面倒臭ぇなオイ! あー、幼馴染! 昔からの知り合いってだけだよ!」

「あんたと幼馴染なんて反吐が出るから冗談でも止めて」

「状況が悪化するの目に見えてるんだから、せめてこの場くらい合わせてくんない!?」



 レインに詰め寄られ、雪豹に縋りついては振り払われる。散々なガルドは一人で戦うしかなかった。

 二人の関係性をレインはとことん追究するつもりだったが、ガルド同様クラン無所属で、友達の一人もいないかと問われればそうでもないレインは渋々嫉妬の刃を収めた。



「お兄さん――いやガルド様にちょっかい出してるなら許さないけど、ガルド様がこんな小娘の色目にほいほい靡くとは思えないし今日の所は引き下がってあげる」

「どの口が小娘って言ってんだ。何なら雪豹は俺より歳う――」

「頭吹き飛びなさい」

「うおっ!? 容赦なく撃ってくんじゃねぇよ!? 俺が避けれてなかったら同調で最悪ここにいる全員死んでるぞ!?」



 失言を一早く反応した雪豹は躊躇いなく電子銃を発砲し、ガルドは転倒しながら回避した。

 仲間とは言え、雪豹の迷いのない攻撃にレインは。



(ぐぬ……ガルド様の反射神経を信じてなければ笑い事じゃ済まない攻撃……何という信頼関係……! この女、中々強敵!)



 過大解釈していた。



「認識を改める必要があるね……ふん、いいですかガルド様。こんな危険な女より、安全で優しくて可愛い彼女候補がいつでもいると言う事を覚えておいてください」

「戦闘に快楽を覚えるマゾヒストのどこが安全だよ」

「そんな私を知ってもらうためにも今度デートしましょうね! 約束ですから! それではっ!」



 まるで一刻も早く対策を練らねば、とでも言うかのようにレインは短い脚で駆けていく。

 今日が初対面の筈なのにぐいぐい来るレインに、どっと疲れがガルドに押し寄せた。



「で、捜査はどうだったんだ?」

「何人かは犯人の目星を付ける事が出来た。でもあくまで目星だから、捜索は明日も継続だね」

「そんな簡単に見つかる訳もないよなぁ。でも闇討ち犯の狙いが優秀な戦人の芽を摘むことなら、勝者の六人の中から選んでくる可能性が高いんだろ?」

「そうね。でも相手も馬鹿じゃないだろうし、シルフィ・ランスロットと今回圧倒的な実力を見せたルトラ・アーサーは討伐対象から除外するんじゃないかな」


「あの二人は別格だったからな……ルトラちゃんも魔王軍幹部の二人を倒したのは嘘だとか、おこぼれを貰っただけとか言ってる奴等を黙らせる試合内容だったし知名度も広まるだろうな~」

「後はシルフィ・ランスロットを敵に回したくないとすれば、妹のコレット・ランスロットも除外対象になる。とすれば後は三人を見張ってればいいだけだし何とかなるかな。とりあえずデータを纏めて対策を考えたいからご飯にでもしない?」

「……そうすっか! 腹減ったしなー」

「決まりね。行こう」



 雪豹が先導のために前を向き、一歩を踏み出す。

 瞬間。



「ふッッ!!」



 ガルドの右脚が雪豹の後頭部へと肉薄する。

 しかし雪豹はその場に屈み込んでガルドの攻撃を躱し、ガルドの無防備となった腹部へと電子銃を撃ち込んだ。



「あぎゃっっ!?」



 電子砲を貰ったガルドは吹き飛んで痛みに悶絶する。

 電子銃の銃口をガルドへと向けたままの雪豹はやがてくるくるとガンスピンをしながら接近し、呆れた顔をガルドへと落とす。



「ぃった……はぁ、いきなり何? 反抗期なの? 死ぬの?」

「す、すまん……雪豹だったら俺と飯に行こうなんて言いそうにもないもんだから、もしかしたら雪豹じゃないのかもって疑っちまった……」

「コロシアムを勝ち抜いて疲れてるだろうからって優しくすればこれ? 女の子の心遣いもわからないようじゃ、エクスカリバーに彼女なんて到底無理ね」

「うぐ……精神攻撃は一番効くぜ……」

「全く……ご飯行くんでしょ。早く行くわよ」



 何してんだか、と小さく笑う雪豹は電子銃を消失させ、再びガルドに背を向けて路地裏の先へと。

 そんな雪豹の足元をガルドの長い脚が再び迫り、雪豹は跳躍で距離を取りながら怒りを顔に貼り付ける。



「……あんたいい加減にしなさいよ」

「やっぱりお前、雪豹じゃねーよ」

「はぁ? 何言ってんの?」



 ガルドの確信。



「雪豹は俺の事を『エクスカリバー』なんて呼ばねぇし、俺の同調の能力を知ってて自傷ありきの攻撃をも行うなんてありえねぇ」



 レインがいようともお構いなしのツッコミに扮した本気の砲撃。そして先の迎撃。

 雪豹なら――ガルドの能力を知る本物の雪豹ならばそんな安直な対応はしないだろうと。

 つまりそこから結び付けられる結論は。



「お前――――闇討ち犯だろ」



 自身ガルドを狙った刺客。

 雪豹の姿をした何者かは頭をガリガリと掻き、やがて盛大な溜息を衝きながら顔の面を掻き剥がした。



「これだから下等生物は面倒臭ぇ」


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