第6話 覚醒への最短経路は自分をよく知ることです
『ブフォフォフォ! 軽イ! 遅イ! 弱イ! オ前ジャ、妖魔ノ俺ハ倒セナイ!』
「うるせぇ! 俺の躍進への第一号トロフィーをお前の毛皮で作るつもりだから覚悟しとけ!」
『俺、毛皮ナイ』
「誰しも心に毛皮を被ってんだよ! 意味わかんねぇよクソがッ!」
「自分でツッコむ余裕があるなら、もっとするべきことがあるでしょ」
ガルドの銀閃が蜘蛛の脚を狙って低空飛行を続ける。体躯の大きい牛鬼は低所で動き回るガルドに難色を示しながらも、体格に似合わぬ機敏な動きで回避していく。
(自傷にビビるな……! 俺の攻撃が同調によって自分を傷付けるからと言って、受け一辺倒じゃ勝てる訳がねぇんだ……!)
己を鼓舞するガルド。しかし自分の斬撃によって同等の裂傷を受けると分かっていながら、人はそう簡単には割り切れない。
故に剣筋は甘く、攻撃は簡単に見切られてしまう。
『逆襲ノ時間ダ』
牛鬼の角が赤く染まり、右腕が金棒と化す。膂力が増した牛鬼は、足元に張り付きながら連撃を見舞うガルドへと金棒を振り翳した。
飛来する強撃を目の前に、ガルドは自身と金棒の間に短剣を潜り込ませ、大きく吹き飛ぶ。
「うお――っぶね!? あぁー!? 俺の愛刀が防御によって折れちまったぁー!? おいてめぇコラ!! どう弁償してくれんだ!?」
「武器屋でも一番グレードの低い安物でしょ。しかも売れないからって三十%割引されてたやつ」
「何で知ってんだよ!? いやでも剣豪は使う武器を選ばないって言うだろ!?」
「選ばないじゃなくて選べるだけの資金がなかっただけの癖に」
「ごもっともです!!」
自身の得物を折られたガルドは益々窮地に。膂力が増しても速度が衰えない牛鬼の攻撃を回避するしか手立てがないガルドは次第に多量の汗を撒き散らしていく。
「全く……見てらんないわね。シルフィ・ランスロットを超えるって言ったのは一体どの口?」
「ちょっと、待てよっ……! 開花した俺のっ、大逆転劇を、見せてやるからよっ!」
「開花、ね……ガルド・エクスカリバー、今のアンタは蕾すら出ていない事に気が付きなさい」
「あぁ!? どういう意味だってばよ!」
「開花なんて烏滸がましいって言ってるの。いい? アンタの現状は能力の自覚があるだけの発芽状態。今のアンタは開花――つまり強くなることを意識するより、
「強くなるより弱くならない方法……? 俺の馬鹿な脳みそでも理解出来るように言ってくれ!」
切羽詰まりながらも精細な動きを衰えさせずに雪豹の助言に耳を傾ける。
対する雪豹はゲーミングサングラスを装着して妖艶に脚を組み、ガルドと牛鬼の戦闘そっちのけで目の前にモニターを展開した。
「
「戦闘に置ける弱点……? 同調で自傷しちまうことか?」
「どうして自傷してしまうの?」
「そりゃ能力が常時強制発動しちまうからじゃねーの?」
「本当に常時?」
「ん? 間違いねぇよ」
「じゃあ私と戦った時――決着の瞬間を思い出してみて」
「いい尻だった」
「死ね」
「うおっ!? ペイントボール蹴飛ばしてくんな馬鹿!? うっ!? ちょ……牛鬼さん!? あのぉ! ちょっと待って貰えますか!? 横槍が止まないんですよ!?」
牛鬼の攻撃の回避で精一杯のガルドは辛うじて雪豹の着色弾を受け流すが、立て続けに蹴り狙われては堪らず休戦の申し出を叫ぶ。
当然ガルドのその願望が叶うことはなかったが。
「ほんとにっ、雪ひ――っ!? うぎゃっ!? 右眼がぁぁあ!?」
容赦のない連弾に遂にガルドの右眼に一発のペイントボールが着弾した。
「デクズカリバー、左から牛鬼」
「なんだってんだどいつもこいつもッッ!」
本能的に牛鬼の一振りを低姿勢にて躱したガルドは、自傷も厭わずカウンターの回し蹴りを牛鬼に叩き込んだ。
『グボォッッ!?』
「クソッ! 反射で攻撃しちまったじゃねーか! 打撃だから良かったものの、これが剣戟だったら死んで――あれ? 痛くねぇ……」
「もう一回聞くよ。アンタの強制発動能力『同調』は本当に
腹部を抑えながら起き上がる牛鬼の事など既に頭にはない。
普段ならば自身にも響く痛みが腹部を襲う筈が、いつまで経ってもこない衝撃にガルドは急速で回路を働かせる。
「あの時も雪豹はノーダメで俺を拘束……同じペイントボールで狙われて被撃……ペイントボール? どうして雪豹はペイントボールに執着して――――視界?」
ガルドは右眼に付着した着色を拭い取り、牛鬼の攻撃を掻い潜っては地面に横たわる折れた短剣を手に取り――。
「言っとくがドМじゃねーぜ」
己の左手に突き刺した。
同時に牛鬼の左腕の刃からも血が噴き出して動きが止まる。
『グブゥッ!? ギギャ――』
「痛ぇだろ? 隙を作るだけならこの程度で十分だ――右眼は閉じたままッ!」
悲痛に叫ぶ牛鬼の眼前には、既に右脚を全力で引ききったガルドが。
そのガルドの右眼は硬く閉じられており。
「――――悪道執行ッッ!!」
『グボ――――』
渾身の跳び上段蹴り。
身を捻じって大きな体を十全に活かした核弾頭のような一撃は、牛鬼の角を凄愴なまでにへし折り、自身の体よりも大きな牛鬼を盛大に吹き飛ばした。
「ヒュウ。
雪豹の称賛は牛鬼の壁への衝突音によって掻き消される。
右眼を開いたガルドは口端を吊り上げながら雪豹へと向き直り。
「雪豹!」
「褒めないわよ。むしろ教えてあげたんだから感謝してほしいくらいね」
「雪豹――――脚に穴開いて血止まんねぇんだけど……」
「………………牛鬼の角を蹴るからでしょ。自傷しなくなったってだけでアンタ自身が強化された訳じゃないんだから」
「うおおおおおお!? めっちゃ痛てぇええええ!? 死ぬううううっ!?」
横たわりゴロゴロと泣き叫ぶガルドに小さな溜息を落とし、雪豹は目の前に開きっぱなしのモニターへと視線を移す。
(オチとしてはエクスカリバーらしいけど、問題はあの威力……情報によれば、エクスカリバーの身体能力は精々B評価。相手の身体能力をもコピーする
モニター越しにもう一度ガルドを眺め、雪豹はモニターを閉じて立ち上がる。
「何はともあれ、見た目好みじゃないけど牛鬼を
『自由……? 不要不要不要! 殺ス! 絶対殺ス! 生ヲ代価ニ皆殺シダ!! 【妖魔鬼門】!』
牛鬼が都合四本の脚を地に打ち付けると背後に巨大な門が出現し、半分開いた門から幾本もの赤色の腕が伸びて牛鬼を捕えた。
牛鬼は断末魔を迸らせながら鮮血を吹き出し、ボタボタと落ちた血が地面に紋を描いていく。
「何だぁ!? 何が起こってんだ!? はっ、もしやここは地獄か!? サンタを毎年信じて待つ俺みたいないい子ちゃんがどうして地獄に!?」
「狼狽えないでエクズカリバー。サンタはいないしここはまだ現実。知能ある魔物は銘々に切札を持ってる可能性が高く、ここまでは全然想定内。さあ本命が来るよ」
「さらっと夢を壊す真実をぶち込まないでくれない?」
元々暗かった部屋はバツン! と照明を失い、血印が怪しげな光を放ち始め――。
『ギャギャア!』
『アビョビョビョ!!』
『ニャハハッ! 外の世界!』
大量の魔物が次々とモニター室へと湧き出て来た。
「嘘だろっ!? 二十、いや三十!? 何十匹いやがんだ!? くっそ……! 脚さえ動けば真の能力に気付いた俺がぶちのめしてやったのになぁー!?」
「別に強がらなくていいっての。アンタは部屋の隅で大人しく見てなさい」
ブォン、と雪豹が指をフリックするとガルドは一瞬で部屋の隅に転送され、外敵から身を護るが如く檻が出現してガルドを包囲した。
「は? ちょ、えっ!? この数を一人でやるつもりか雪豹!? 無理だろ!? 俺も――」
「無理? 誰に言ってるの? この程度何度もゲームで経験してきた」
「ゲームと現実一緒にしたら駄目だと思います」
「……アンタに言われると無性にムカつくんだけど」
会する四十の魔物達の視線。標的は雪豹。
「ふん、じゃあ覚えておきなさい。私は【円卓の悪騎士】の幹部雪豹。現実世界とゲーム世界の境界を跨ぐ者よ」
ガンスピンさせながら両手に生み出すのは二丁の銃。クイッとゲーミングサングラスを一度押し上げ構えを取った雪豹は不敵に笑う。
「少しは楽しませてよね」
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