エピローグ

 友人と映画を見に行った。


 それはアニメ映画で、戦争で道具として扱われていた少女が、戦後に手紙を代筆する仕事をするという話だ。


 それはアニメ本編の続編で、僕は本編を見に行ってないのでよく分からなかったが、それでも楽しめた。


 上映中、僕は売店で買ったウーロン茶を飲みながら周りをちらりと見る。


 暗闇の中、一緒に見に来た友人たちは皆泣いていた。

 友人だけではない、周りの観客も目に涙を浮かべていたのだ。


 そのときは、物語のクライマックスで確かに感動的なシーンだった。

 周りが皆感動で号泣しているのに、僕だけがウーロン茶をひたすら飲みながらそれをぼんやりと眺めていた。


 まるで僕だけ仲間外れになっているような、そんな疎外感を勝手に覚えた。

 僕も泣いておくべきなのだろうかと思ったのだが、涙は出てこない。


 結局、そうこうしているうちにエンドロールを迎え、劇場内は明るさを取り戻した。


「いやぁ面白かった」


 友人の隼樹が目を腫らしながら、僕に言う。


「いい話だったー」


 幼馴染の橙花ちゃんも目にハンカチを当てている。


「つぴ、お前はどうだった?」


 隼樹が僕に問う。


「えっ? あー……面白かったよ。すごく」


 歯切れ悪くそう話す僕を、隼樹は呆れた顔で僕を見る。


「ほんとにそれだけか? もっとこう――感動したとかそういうのは無いのか?」


 僕は答えに詰まって押し黙る。

 そんな僕に助け船を出したのは橙花ちゃんだった。


「つぴちゃんは、この作品全く知らずに見に来たんだから仕方ないよ。ねっ、つぴちゃん」


 橙花ちゃんの言葉を聞いて、隼樹は納得したような表情を見せた。


「確かになぁ。お前見てないから何も分かんないよな。とりあえず腹減ったし飯でも食いに行こうぜ」


 そう言って、2人は出口の方まで歩き出した。

 僕はその場から動く事ができなかった。


「つぴちゃん。どうしたの?」


 橙花ちゃんが振り返って、僕の方を不思議そうに見る。


「いや、なんでもないよ」


 僕は2人の方まで早歩きで向かった。



 ◇

 すべての生命は、いつか死という終わりを迎える。

 何人たりとも例外はない。


 僕は、たまに怖くなる。


 じいちゃんやばあちゃん、母さんや父さん、弟。

 そして友人や知人。


 もし、いつの日か僕の関わりのある人が亡くなった時――その時のことが。

 そのとき、僕はどんなふうにしてその人を見送るのだろうか。


 もし、そのときに泣けるのなら良い。

 すごく自分本意な考えだが、それは壊れていないという証拠だからだ。


 でも、人の死に対して何も思わず、涙も流さないような冷徹な人間に成り果てていたのなら――。


 願わくば、その日が来るのが1秒でも遅れ、僕がちゃんとその人の死を受け止められることを切に願う。



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僕がうまく泣けるその日まで 不労つぴ @huroutsupi666

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