後編

 おばあちゃんが死んでから、約1年後。

 おばあちゃんの後を追うように、おじいちゃんも亡くなった。


 元々認知症が進行しており、ここ数年はずっと入院していた。

 最後に会ったのが半年前。


 面会に行った時、僕はおじいちゃんの姿を見て驚いた。

 髪は全て白髪になっており、扉を開けて入ってきた僕たちを、ベッドに横たわりながら物珍しそうに眺めていた。


 そのときのおじいちゃんの瞳が僕には、まるで純粋無垢な子どものように見えた。

 鼻にはチューブが繋がれており、腕にも点滴が刺されている。


 この頃のおじいちゃんは、すでに認知症がかなり進行しており、会話がままならない状態だった。

 また、家族であっても誰が誰だか分からない――自分が誰かも分からないような状態だったらしい。


 あの僕たちを優しく見守るおじいちゃんの面影はそこにはなかった。

 おじいちゃんから見れば、そこにいたのは血がつながっているだけの他人だったのだから。


 ◇

 おじいちゃんの訃報を聞いても、僕は何とも思わなかった。

 なんとも思わなかったというと少し語弊がある。


 確かに悲しかったと思う。

 でも、おばあちゃんが死んだときのほうが悲しかったような気がする。


 だって、おじいちゃんは人格を失った時点でもう死んでいるのではないか。

 残酷だけれども、当時の僕は思った。


 ただ、辛うじて生きているだけの死体。

 高校生の僕には、おじいちゃんがそのように見えた。


 僕や弟の記憶がなくなるならまだいい。

 僕たちは1年に1回会えればいいほうだったのだから。


 でも、母は違う。

 自分の娘だろうに。

 それを忘れてしまうなんて、あまりに残酷すぎる。


 病気なのだから仕方ない。

 それは分かっている。


 でも、どうしても割り切れないのだ。

 神様はどうして母をこんな酷い目に合わせるのだろうか。


 もし、神様がいるのなら、その人はきっとすごく残酷な性格をしているのだろうなとこのときの僕は思った。


 葬式には弟と母が行った。

 僕はまたしてもタイミングが悪く、参加することが出来なかった。


 おじいちゃんが死んだのは悲しい。

 でも、涙は出てこなかった。


 おばあちゃん同様、おじいちゃんがにはとてもよくしてもらったはずなのに。


 僕は自分が心のない人間になってしまったのではないかと怖くなった。

 おばあちゃんのときよりも、何も思わなくなってしまったからだ。


 人の死というものは、もっと丁重に扱わないといけないはずなのに、僕は何をしているのだろう。


 僕は、母と弟のいない部屋で一人自己嫌悪に陥っていた。






 ****

 3話完結って言いましたがゴメンナサイ。

 あと一話エピローグ的な話やって終わります……。

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