中編
祖母が亡くなったのを聞いたのは、夏休みのことだった。その頃僕たちは父方の祖父母宅で一緒に住んでいた(以降、父方の祖父母をじーちゃん、ばーちゃんとする)。
そして僕は、ばーちゃんが夕飯を作るのを手伝いながら、母が帰ってくるのを待っていた。
しばらくすると、母は帰ってきた。
僕は母の下に駆け寄るが、途中で足を止める。
何か母の様子がおかしかったからだ。
母は俯いたまま玄関を動かない。
「どうしたの? 母さん」
僕が話しかけると、母は泣き腫らしたのであろう、くしゃくしゃになった顔を上げて僕に言った。
「おばあちゃん……おばあちゃんが亡くなったって」
◇
おばあちゃんは家の玄関で倒れているところを母の兄、つまり伯父によって発見された。
発見されたときにはすでに手遅れだったらしく、伯父はそのことを嘆いていた。
死因は分からないが、持病を持っていたので、それ絡みなんじゃないかと僕は思っている。
その後、母はすぐに実家に帰った。
母の出身は、だいたい奄美大島の離島出身だった。
僕や弟は、経済的な理由に加え、2人とも部活に生徒会と忙しかったために同行することは叶わなかった。
僕はこのとき違和感に気づいた。
悲しいはずなのに、全く涙が出てこないのだ。
僕は、おばあちゃんが好きだったはずなのに。
距離が離れているので、なかなか会いに行けなかった。とは言え、それまでは年に1回は会いに行っていたし、おばあちゃんにはよく可愛がってもらっていた。
会いに行くと、おばあちゃんは僕を抱きしめてくれて、お菓子をたくさんくれた。
そして、「つぴちゃん。今日は何が食べたい?」と優しい笑顔で聞いてきた。
おばあちゃんが死んだのはとても悲しい。
でも、少し悲しいと思うくらいで、涙が一向に出てくる気配がしない。
まるで、大事なものを何か落としてしまったような――そんな感覚。
自分はこんなにも冷たい人間だったのだろうか。
おばあちゃんにはとてもよくしてもらったのに。
僕は、おばあちゃんの急な死で、まだ状況を飲み込めていないのだろう。
そう自分に言い聞かせることにした。
だが、1年後――僕はそのときの自分の感覚が間違っていなかった事を知る。
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