華蓮との休日1

 僕は華蓮と共に天津さんに自宅に飛ばしてもらった


 ありがたいことに、リビングにまでというおまけつきだ


 場所まで指定できるとはとんでもない異能力もってるんだなあの人


 もちろん僕は正座のままである


 華蓮が怒っているときは大抵正座させられるから最近は何も言われずともこうしている


 いつなにが飛んでくるかわからない


 身構えながら僕は待った


 しかし何もとんでこなかった

 

 怒るどころ


 「体冷えてるでしょ。お風呂入ってきなさいよ」


 「へ?」


 なぜかめちゃくちゃ優しい


 「それからさっさと寝なさい。でも昼には起きて」


 「あ。はい」


 僕の睡眠の心配までしてくれた。もうわけが分からない


 逆に怖い。何なら殴ってもらった方がすっきりする


 華蓮はそのまま自分の部屋に入って行った


 とりあえず言われた通りに風呂に入って眠ることにしよう


 正直もやもやして気持ちが悪いけど、家に帰ったとたん眠気が襲ってきた


 華蓮には起きた後にでも聞いてみるか


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 午後十二時


 すんなりと眠りにつけたからか疲れもほとんどとれている


 起きて気づいたけど、華蓮の朝食を作るのを忘れていた


 もしかしたら今頃あの猛獣はお腹を空かせてリビングで唸っているかもしれない


 さっきは怒られなかったけど今回はさすがに何かとんでくる


 僕は早急に着替えてリビングに向かった


 

 リビングに着いた僕はまたしても信じられない光景を目にした


 華蓮が昼食を作っていた、それも二人分。僕の分まで


 「おはよう。よく眠れた?」


 「え・・・あ、うん」


 怖い。シンプルに怖い。

 

 あの今まで何もしてくれなかった華蓮が料理をしているんだから


 簡単なものではあったけど、それでもここに来た三年で初めての出来事だ


 「華蓮って料理できたんだ」

 

 そういったら華蓮はムスッとした


 「これくらいできるわよ。馬鹿にしてるの?」


 「あ、いや珍しいって思って」


 学校で家庭科の授業受けてるもんな。これくらいできてもおかしくないか


 「朝も作ったのか?」

 

 「何よさっきから。なんか文句あるの?」


 ぎらりとこっちをにらんできた

 

 いえ。ないですごめんなさい。僕が全部悪いです


 「ほら、突っ立てないで食べなさいよ」


 恐る恐る席について箸をとった


 ごはんに味噌汁、それに卵焼きあとは作り置きしてあった大根の煮物


 卵焼きは形は悪いが味付けはちゃんとされている。がんばって作ったんだろう


 「ねえ。美味しい?」


 「おいしいよ。これくらいできるんなら毎日手伝ってほしいくらいだ」


 「そう。よかった・・・考えておくわ」


 やっぱり何かがおかしい。こんなにしおらしい華蓮は初めてだ


 怒っている様子もみじんも感じない


 屋敷の外で仁王立ちしていた華蓮とは別人だ


 天津さんと有栖がなにか口利きしてくれていたのだろうか、それなら納得いくか・・・


 「ご馳走様でした。ありがとう華蓮助かったよ」


 「・・・ええ。洗い物ものは流しに置いておいて私が洗うから」


 やっぱりおかしい


 これはほんとに華蓮か?別人の可能性は・・・


 「あ、ああ。わかった」


 僕は流しに食器をおいて、あまりに気味の悪いこの空間から立ち去ろうとした

 

 「ちょとそこでまてって」


 「は、はい」


 あ、多分ここからが本番だ


 飴と鞭ってやつだ、とんでもないやつが飛んでくる予感がする

 

 取り合えず異能を使って受け流すことに集中しよう

 

 直撃は避けなければ。体の一部が吹き飛びかねない


 とりあえず僕はリビングのソファに座ることにした


 洗い物を終えた華蓮がこっちに近づいてくる


 表情はうつむいてて見えない

 

 ごめん有栖。もう会えそうにないよ。せっかくいい友達になれると思っていたのに・・・


 華蓮は僕の真横に座り、そのまま僕のふとももに頭を乗せた


 膝枕だ


 食べた後すぐ寝ちゃいけないよといつもなら言うけど。今回のこれは何かが違う


 確かにとんでもないやつが飛んだ来た。真逆の意味ではあるが


 「か、華蓮・・・?」


 僕の声に反応は示さず、華蓮はちょっとの間そのまま黙っていた


 少しして華蓮が一言つぶやいた


 「あんたは私の前からいなくなんないわよね・・・」


 胸が痛んだ


 華蓮は僕と僕の兄の姿を重ねたのだ


 「いなくならないよ。絶対に」


 僕は絶対に華蓮の前からいなくなったりしない


 そばにいると誓ったのだから


 「何も言わずに行ったのは謝るよ。ごめん」


 やっぱりなにか言ってから出るべきだったか


 嘘は言いたくないけど光の家にでも止まるとか、何か華蓮が安心できるように伝えておけばよかった


 「でも、昨日のはちょっと出かけただけだ。それくらいなら今までもあったでしょ?」


 そうだ、僕はそれなりの頻度で華蓮に黙って出かけていた


 そのたびに怒られたり、けられたり殴られたりしていた


 だけど今のような華蓮は初めて見る


 「出ていくのはいいのよ。いつもつけてるから」


 初耳なんだけど?じゃあそこかしこに華蓮がいたってことか・・・


 別に後ろめたいことはしていないけど


 「でも昨日のはおかしかった。途中であんたが消えたのよ

  姿だけじゃなくてにおいまで・・・あの時の貴央兄の時みたいに」


 彼女の鼻はとんでもなくいい。これも異能力によるものだ


 貴央兄さんがいなくなった時もその鼻を使って探していた


 「だからあんたもいなくなっちゃったんだって」


 華蓮はその時少し涙ぐんでいた


 泣かせないって誓ったのに泣かせてしまった


 僕まで泣いてしまいそうになって寸でのところでこらえた


 僕が泣いてどうする


 「ほら、私いつもあんたに頼りっきりだったじゃない

  家事なんてしないし。あんたのゆうこともあんまり聞いたことなかったし

  それになんかあったらあんたのこと殴ってたから・・・」

 

 嗚咽が混じってきた。僕のズボンも涙でぬれている


 「だからッ・・・っ私の事・・・いやになって出てっちゃたんじゃ・・・じゃないかって・・・

  っそう思って・・・んぐ」


 華蓮がこんなに泣いているのを見たのは僕を頼ってきたあの日以来だ


 あれから華蓮が涙を流しているのを見たことがない


 「安心して華蓮。僕は華蓮のこと嫌いになったりしないよ」


 「ほんと?」


 「ああ、確かにもうちょっとくらいゆうこと聞いてほしいとかは思ったことはあるよ

  華蓮の世話するのって結構大変だから」


 「ごめんなさい」


 こういうのは全部正直に言った方がいい


 華蓮は嘘かほんとかなんてすぐわかる、とにかく僕は華蓮を安心させてやりたい


 「でも嫌いじゃないんだ。というか好きなんだ、そんな日常が。

  痛い思いをするのは嫌だよ?でも華蓮がちゃんと手加減してくれてるのはわかってる

  そういうのって華蓮が僕のことを大切に思ってくれてるからこそでしょ?」

 

 「うん」


 「僕も華蓮の事を大切に思ってる。だから絶対嫌いになったりしないよ」


 「ほんと?」


 「ほんとだよ」


 「そっか」


 安心してくれたようで、涙もいつの間にか止まっていた


 目は真っ赤で顔をはぐしょぐしょだったけど

 

 華蓮は座りなおして僕の肩にもたれかかった


 僕もそれを受け入れた


 「顔、洗ってきたら?」


 「もうちょっとこのままがいい」


 「わかった」


 これからは気をつけることにしよう


 まさかあの館にそんな機能があるとは思わなかった


 ちゃんと視ていればわかっていたかもしれない


 探索系はもうやめることにしよう


 今回みたいなことになる可能性はつぶしておかなければいけない


 あれ・・・そういえば


 「いつもついてきてるって言ってたけど、今日のはどこから?」


 「最初から。あんたが出ていくの聞こえたから」


 めちゃくちゃ静かに出たはずだったんだけどな・・・


 華蓮は鼻もだけど耳もいい


 さすがに聞こえてないと高を括ってたのに


 「じゃあ僕が急にいなくなったのも見てたのか」


 「うん」


 「僕が出てくるまでの間ずっとあそこにいたの?」


 「仕方ないじゃない。どうしていいかもわかんなかったんだもん

  途中で天津さんが出てきていろいろ説明してくれたからちょっと安心した」


 異能力で寒さは感じなかっただろうけど三時間以上あそこに一人でいたのか・・・


 「それは、ほんとにごめん」


 「もう怒ってない」


 館から出て最初に見たとき鬼の形相をしていたけどあれはやっぱり怒っていたのか


 でも安心のほうが強かったから家に戻ったあとは何もしてこなかったってわけか


 「顔、洗ってくる」


 華蓮は洗面所のほうへ歩いて行った


 怒ってないとは言っていたもののそのままにしておくのも気が引ける


 「華蓮ーーこのあと少し出かけようかーーー!」


 洗面所のほうに呼びかけたら、何やらいろんなものが落ちる音が聞こえた


 何もなかったと言わんばかりに華蓮は洗面所から出てきた


 「行く」


 それだけ言って服を着替えに部屋に入って行った


 僕もこのびしょびしょに濡れたズボンを履き替えないと


 華蓮にはなにか美味しいものでも食べさせてあげよう


 僕のこづかいで買える範囲で何か好きなものでも買ってあげよう


 機嫌取りではないけど今はそうしてあげたい気分だ


 さっきまでもやもやしていた気持ちもなくなった


 今日は華蓮のために時間を使うことにしよう


 そう決めて僕も準備のために部屋に戻った

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