龍見有栖3

しばらくして執事の天津さんが戻ってきた


「あいつは?」


「彼の部屋に送っておきました」


「そっか」


あの山道を一人で帰らせるのはまずかったか


次あったら絶対嫌味言われるな・・・


まて。彼の部屋?玄関から見送ったじゃなくて光の部屋に?


「光の部屋ってどういうこと?」


僕の疑問に彼女はすんなり答えてくれた


「天津の力はそういうことに特化してるの。あなたも一昨日体験してるでしょ?」


家の前に転移したのはそういうことだったのか


光のやつも怒りを忘れて驚いているだろうな


というか


「話し方さっきと違うくないか?」


声の圧もなくなっている。心なしか輝き放っていた髪も赤い目も落ち着いたように見える


「初対面がアレだったでしょ、髪の毛ぼさぼさで一言も話さない変な奴。だからイメージ変えてもらおうと思ってちょっと演じてみたらつい調子乗っちゃってね。あんなかんじになっちゃった」


ソファから降りながら彼女は髪留めで髪をまとめた


さっきの気品と威厳はどこへ行ったのか僕の眼の前にはただ小さくてかわいらしい女の子がいた


「天津。部屋元に戻しておいてくれる?」


「かしこまりました」


「あなたはこっち来て」


僕は誘われるがまま別室についていった


「僕も片づけ手伝わなくてよかったの?」


「あなたは客人だし、いたところで天津の邪魔になるだけ」


「そ、そっか」


天津さんってもしかしなくてもすごい人なので


というかもうすぐ三時なんだけど


僕も従者としてこの人の事見習わなければ


僕たちが別室に入ろうとしたときには天津さんが仕事を終わらし部屋からできていた


目があった僕に対して軽くお辞儀をしてくれたので僕はそれを返し部屋に入った


そこは屋敷の外観に似合わない現代のリビングとダイニングキッチンだった


「あなたはそこに座ってて、あったかい飲み物とってくる」


僕は近くにあった椅子に座って部屋の中をみわたした


「別にみても何もないわよ、面白くもないでしょ」


「いやごめん。外見に似使わない部屋だったからさ」


「まあもともとこんな風じゃなかったの。だけど不便だったから天津に頼んでリフォームしたんだー」


「こんなところに来てくれる業者なんかいるんだね」


彼女は頭にはてなを浮かべて首を傾げた


「よんでないよそんなの?天津に頼んだって言ったじゃない?」


だから何者なんだよ天津さん


見習おうとしたけどむりだ。次元が違いすぎる


「紅茶飲めるよね。飲めないっていっても紅茶しかないけど」


いろいろ特殊だなあ。この家


僕はありがたく彼女がいれたお茶をすすった。おいしい


「紅茶の入れ方には自信があるの。どう?おいしい?」


「紅茶に詳しいわけではないけど、こすごくおいしいよ」


そうでしょと彼女はご満悦げだった


学校での彼女からは想像できないほどに表情豊かだ


「学校と家じゃ全然違うよね龍見さん」


彼女は紅茶をすすりながら僕から目をそらした


「あー。あれにはちょっとした理由があるの」


さっき光に答えられなかったにこれも入るのか


気になるけど聞くわけにはいかないか


「何と言ったらいいか。簡単に言うなら体質的なものかしら」


彼女はなぜか答えてくれた


「さっきは答えなかったのに急にどうしたんだ?」


「あれはあの人を追い出すためにわざとよ。南の人間は総じて適当に返事すれば怒って出ていくの」


まさかの理由だった


「最初からあなたはいずれ呼ばなくちゃって思っていたのよ、でも今日は二人できたでしょ?」


彼女は急に赤面した


「長い間天津意外と話す機会がなかったから。だから・・・ほかの人と会話するの楽しみにしてたの・・・南の人間だったとしてもとりあえず話し相手になってくれるなら歓迎しようと思ってね。まぁ・・・ちょっとやりすぎたんだけど」


たしかにあの威圧的な態度は後々後悔してただろうな


彼女は机に乗り出した。僕はびっくりしてちょっと後ろに下がる


「だけどひどいじゃない。私を訪ねてきてくれたと思ったのに目的は都市伝説だかなんだか!ひとの趣味は否定しないわ、私にも趣味くらいあるもの」

 

彼女はまた自分の席に腰を下ろした


「でもねほんとに期待してたの、人と話すことはすごく好きだったから。だから裏切られた気分になって、もともと好きじゃなかった南の人間にいたずらしちゃった」


いたずら?僕は彼女が光に何をしたのか全く分からなかった


というか彼女に何をしたんだ南の連中・・・


「でもやっぱり、挑発しすぎたかしら」


「まあたぶん次あったら睨まれるか舌うちくらいは覚悟しておいた方がいいかもね」


「その心配はしてないの。あの人の今日ここに来た記憶全部消してあるから大丈夫」


記憶を消した?龍見さんはそんな異能力を持っていたのか。


「じゃあ僕も今日のことはをすっぱり忘れるのか」


「そんあことしないわ。初めてできたお友達なんだもの、消えちゃったら困るじゃない」


こんな貴重な体験を忘れたくはなかったから安心した


んあれ?


「友達?」


彼女はまた赤面した


「あ、そうだよね!今さっきまともに会話したばかりなのに友達なんて勘違いしちゃったら困るわよね!初対面も変な感じだったし、謝ってるあなたの腕に急に噛みつくし、期待して見つけた家の主がこんなのだし!さっきあった時もなんかよくわからない態度しちゃったし、そんな子に友達なんて思われたくないわよね・・・それにそれに」


「まってまってちょっと落ち着いて!」


「う、ごめんあさいいい・・・」


彼女がこんなに喋るなんて予想だにしていなかった


初めて会ったときはなんだこの変な子はなんて失礼な思いを抱いてしまっていた


昨日の昼だって急に噛みつかれてなんなんだこの子はって思った


僕の間違った見解で人間ではないなんて思いもした


でも今目の前に居るのはどう考えてもただの少女だ


どこからどう見てもかわいらしい女の子だ


「嫌だってわけじゃないんだ!でも急なことだったし、僕にも後ろめたいことがあったから・・・」


「後ろめたいこと・・・?」


「あ・・・イヤナンデモナイヨ」


彼女からの視線が痛い


すべて白状することにした

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