龍見有栖2

洋館の中は外見とは違い綺麗なものだった


ただ、想像していた絵画やら豪華な装飾品なんてものは一つもなかった


おそらく彼女の趣味の問題だろう


僕らは執事らしき男に連れられて洋館を歩く


押し黙っていた光がしびれをきらし彼に話しかけた


「いや~こんな時間に押しかけてすみません。研究所みたいなとこがあるって聞いてつい出来心でして~」


それらしいことを言っているがこのあとが本題だろう


「ここってなんなんすか?いきなりぱっとこんな立派な洋が現れるなんてびっくりしましたよ!」


光にとって多少の恐怖など抑えきれない好奇心によって塗りつぶされる


これが小南の性ってやつなのだろうか


それまで押し黙っていた執事が立ち止まってこちらに振り向いた


「すべてお嬢様自身が話すとおっしゃられていました。知りたいことはなんでも聞くといいでしょう。久方ぶりの対話ですのでお嬢さまも心待ちにしておりました」


それだけ言って手前のドアを開いた


そこは応接室のようではあったが奥にバカでかいソファがあるだけでほかは何もなかった


貴様らは地べたにでも座っていろと言わんばかりに


そして目の前にあるソファに彼女がいた


美しい金色の髪


血のように真っ赤な瞳



龍見有栖その人が


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


龍見有栖を見上げながら僕らは地べたに座っていた


床には絨毯がしかれていたため冷えることはない


やさしさと受け取るべきなのか、これは


光は案の定驚いていた。間抜けにも口を半分開きながら


南方にすらなかった情報の主が自分のクラスメイトだとは思いもしなかったんだろう


僕は、まあそうだろうなと思っていたからそんなに驚きはしなかった


ただあの真っ白だった肌が健康的な色になっていたのにはちょっとびっくりした


「さて、まずはようこそ我が屋敷に、そしてさっきぶりだな二人とも。いやさっきと言ってもかなり時間が立っているか・・・まあなんにせよ、よくぞ来た。歓迎してやる」


龍見有栖が喋った。めちゃくちゃ喋った


高圧的な態度でソファにもたれかかり僕たちを見下ろしながら


だけど彼女のそれになぜか気品を感じた


僕は自分の知っている彼女とは別人なんじゃないかと疑った


光は半分口を開いたまま目を丸くした。さっきより間抜けに見える


「なんだ?なぜ喋らないんだ二人とも、せっかく歓迎してやっておるというのに・・・これでは屋敷に入れた意味がないではないか」


また喋った。


このまま黙っていると何かされかねない


「まさか、ここの主が龍見さんだったなんて思いもしなかったよ」


とりあえず無難な感じに話しかけてみた


「そうなのか?お前は気づいておるとばかり思っていたぞ。昨日の夕方の件もあった、てっきり私に会いに来たのだとばかり・・・違ったのか」


ちょっと残念そうにしているの気のせいだろうか


昨日の夕方と聞いて光がそんな話聞いてないぞとにらんできた


すまん。昼に話そうとしてたんだがいうタイミングを逃した


「いや昨日のはほんとに自分でも何がなんやら・・・なんでついていったのかもわからないんだ、ごめん」


「そうかそうか、まあいい。それに謝罪なら昼に受け取った。なにやらプロポーズでも始まりそうなものだったな」


ニヤ付きながら見下ろしてきた


やっぱりそう受け取られるよなぁ


光はまたもやこちらをにらんだ


いや、昼のは呼び出された光が悪い。僕は悪くない


「だったらなんのようでここまで来たのだ?ここまでくるのも楽ではなかっただろうに」


「それについては・・・


僕は都市伝説のことと趣味のことを話した


彼女はうなずきながら何も挟まず聞いてくれた


「なるほどな。わたしに会いたかったのではなく。ただの興味本位で近づいたというわけか。私がここの主だと知る前から計画していたとは・・・はぁなんだかやるせないな」


彼女はため息をついた。久しぶりに自分を訪ねてきたものかと思えばただ洋館が気になってここまで来たというのだから落胆しても仕方はない


「まあいい。私に聞きたいことがあるのだろう。話してみろ

 答えられるものなら答えってやってもいい」


ソファに寝転がりながら話す彼女に罪悪感が湧いてきた


今の彼女に気品も威厳も一ミリたりとも感じない


本当に申し訳ないことをした。失礼にもほどがある


彼女は人との対話を心待ちにしていたと執事の人は言っていた


ならば、飽きるまで何か話をしてあげよう


無駄話なら華蓮とのあれで慣れている


それにここには好奇心の獣がいるのだから


「じゃあ質問だ。龍見さんあんた何でこんな辺鄙な場所に住んでんだ?」


それは僕も気になっていた


学校に通うのにこんな不適切な場所は他にない


なにせ片道一時間はかかるのだから


「うーん。そうしないといけない理由があるとしかいえないな」


特殊な体質のせいかと思ったがそれでもここまで山の中じゃなくてもいいと思う。真意は僕にもわからない


「んじゃ二つ目。あんたいったいなにもんだ?」


「クラスメイトだよ。君たちの。辺鄙なところに住んでる変わり者だけどね」


はぐらかしているのは僕でもわかる


馬鹿にされてるとしか考えられない彼女の言動のせいか光の頭に青筋が見える


あれはかなりイライラしてる時に出てくる奴だ。久しぶりに見た


「んじゃ三つ目だ。馬鹿みたいに変な時期に転向してきたよな。だがここに住み始めたのは最近の話じゃない。お前の目的は何だ。学校になんの用がある」


光の声は震えていた。殴りかかったりしないよな。まあ華蓮じゃないんだから大丈夫か


「そだなーまーあーあれだ、あれ。ほかの学校に行ってたんだがーえーそうだなーまーこっちの学校のほうがいいかなーってな、だから転校してきた。目的も何もないよー」


答えにすらなってない


僕は今に殴りかかりそうな勢いの光を必死で抑え込んだ


なんで僕はこんな役回りしか来ないんだ


サーカスの調教師じゃないんだぞ


光は拳を下した


「帰る」


「そうかー天津(あまつ)ー送ってやれー」


彼女は僕らの後ろに立っていた執事に伝えた。この人、天津っていうんだ


憤った光は足早に部屋を出ようとして止められた


「おいそこのやつは持って帰れ。他人の家にそんなものおいていくな」


彼女が指さしたもは小さいクリップだ


それくらいならいいと思うが、光の異能力はそれを媒介にして行使することができる


なぜか彼女は知っていた


だが気のたった光はそれを疑問に思うことなくクリップを拾って部屋を後にした


僕もあとは挨拶だけして帰ろうとしたが


「あなたももう帰っちゃうの?」


とよわよわしい声が聞こえてきたのでもう少しいることにした

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る