第3話 音と言葉が出会うとき

日曜日の午後、春山拓也は再び山下美咲の家を訪れた。前回のピアノ演奏が心に深く残り、今日はどんな話ができるのか、どんな新しい発見が待っているのか、期待に胸を膨らませながら彼女の家のインターホンを鳴らした。


「いらっしゃい、拓也君!」美咲がドアを開け、明るい笑顔で迎えてくれた。


「今日はどんな曲を聴かせてくれるの?」と拓也が尋ねると、美咲は少し照れくさそうに笑った。


「今日は、私の作曲した曲を聴いてほしいんだ。」


「え、作曲?」拓也は驚きを隠せなかった。美咲がピアノを弾くだけでなく、曲を作ることもできるとは思ってもみなかった。


「うん、実はね、作曲家になるのが夢なんだ。でも、まだまだ未熟だから、誰かに聴いてもらうのは少し恥ずかしいんだけど、拓也君ならいいかなって。」


その言葉に、拓也は嬉しくなった。美咲が自分を信頼してくれていることが嬉しかったのだ。


「もちろん、聴かせてくれると嬉しいよ。」


美咲は部屋に案内し、再びピアノの前に座った。拓也もその横に座り、彼女の指が鍵盤に触れるのを見守った。


美咲の手が静かに鍵盤に触れると、柔らかなメロディが流れ出した。それは前回の演奏とはまた違った、彼女自身が紡ぎ出した音だった。メロディはどこか物語を語るような、情感豊かなもので、拓也はその音に耳を傾け、心を揺さぶられるのを感じた。


曲が終わると、拓也はしばらく言葉を失ったまま、美咲を見つめていた。


「どうだった?」と美咲が少し緊張した面持ちで尋ねると、拓也は心からの言葉を返した。


「本当にすごいよ、美咲さん。こんなに感情が伝わってくる曲を作れるなんて、君は本当に才能があるんだね。」


その時、部屋のドアが開き、優しい笑顔の女性が入ってきた。美咲の母親だった。


「こんにちは、拓也君。美咲から話は聞いているわ。いつも娘と仲良くしてくれてありがとう。」


「こんにちは、こちらこそお世話になってます。」拓也は少し緊張しながらも丁寧に挨拶を返した。


美咲の母親は、美咲の才能を誇りに思っている様子で、彼女が作曲家を目指していることについて話し始めた。


「美咲は小さい頃から音楽が好きで、ピアノを習い始めてからはますます夢中になっていたの。彼女が作曲家になりたいと言った時、驚いたけれど、心から応援しているわ。」


その言葉に、拓也は改めて美咲の夢を理解した。彼女はただピアノを弾くだけでなく、音楽を通じて何かを表現したいと思っているのだ。


「美咲さん、すごいね。作曲家を目指してるなんて、本当に素晴らしいと思う。」拓也は心からの賞賛を贈った。


「ありがとう、拓也君。でも、まだまだ勉強中だから、これからもっと頑張らないとね。」美咲は少し照れくさそうに笑った。


その時、美咲の母親がふとアイデアを思いついたように口を開いた。


「ねえ、拓也君。あなたも小説を書いているんでしょう?それなら、二人で何か一緒に作ってみるのはどうかしら?」


その提案に、拓也も美咲も驚いた。拓也は小説を書くことが好きで、美咲は音楽を作ることが好き。確かに、その二つが合わさったら、何か素晴らしいものが生まれるかもしれない。


「例えば、拓也君が物語を書いて、美咲がその物語に合った曲を作るとか。そうすれば、言葉と音楽が一緒になって、新しい作品が生まれると思わない?」


美咲もそのアイデアに目を輝かせた。「それ、すごく楽しそう!拓也君、やってみない?」


拓也は少し戸惑いながらも、美咲の瞳に映る期待の光に引き込まれるようにうなずいた。「うん、やってみよう。」


二人の新しい挑戦が始まった。拓也が物語を書くたびに、美咲がその物語に合わせた曲を作り始めた。言葉と音が絡み合い、二人の創作はますます広がりを見せていった。


その日の帰り道、拓也は美咲との共同作業の楽しさを噛み締めながら、自分たちの未来に思いを馳せていた。これからどんな物語と音楽が生まれるのか、想像するだけで胸が躍った。


音と言葉が出会うとき、それはまるで魔法のような瞬間だった。そして、その魔法が二人の心をさらに結びつけ、彼らの夢を輝かせていくのだった。







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