君が紡ぐ物語

第4話 アイデアを練り続ける

拓也は、自分の小説「君が紡ぐ物語」のプロットを練りながら、頭の中で言葉を組み立てていた。物語の主人公は、夢を追いかけながらも現実との間で揺れ動く少年。彼自身の姿を投影したキャラクターだ。物語を通じて、彼は自分の感情を整理し、読者に伝えたいメッセージを紡ぎ出していく。

ある日、拓也は学校の帰り道、ふとした瞬間にストーリーの重要なアイデアを思いついた。それが頭を離れず、夢中になって考え込んでいた。

「どうしてこんなにリアルに感じるんだろう？」拓也はふとつぶやいた。その問いに答えることができず、ただ歩きながらアイデアを練り続けた。

しかし、彼の集中力は思いもよらない形で破られることになった。交差点を横断していたその時、彼の目の前に突然トラックが迫ってきた。

「…！」気づいた時には遅かった。強烈な衝撃が体を襲い、彼はそのまま地面に投げ出された。拓也の意識はぼんやりとし、視界が薄暗くなっていく中で、彼は最後に美咲の笑顔を思い浮かべた。

「美咲…、まだ…書き終えてない…」

それが彼の最後の意識だった。

拓也が目を覚ましたとき、最初に感じたのは、全身に広がる鈍い痛みと、鼻腔に感じる消毒液の匂いだった。ぼんやりとした視界が徐々に鮮明になり、自分が白いベッドの上に横たわっていることを認識する。

「…ここは…どこだ？」

薄暗い病室。カーテン越しに微かな光が差し込んでいるが、その光も遠く感じられた。頭に触れると、包帯が巻かれているのがわかった。全身の痛みはひどく、動こうとすると、まるで体が鉛のように重く感じられた。

「俺、どうして…？」

次の瞬間、記憶が断片的に戻ってきた。トラック、交差点、そして衝撃…そのすべてが鮮明に甦ると同時に、意識が再び遠のきそうになる。

「事故…だったんだ…」

その言葉がかすかに口から漏れると、ドアが開き、看護師が入ってきた。

「目が覚めましたか？」彼女の声は優しく、微笑んでいたが、拓也はただ頷くだけだった。

「大丈夫ですよ。しばらく安静にしていれば、すぐに回復しますから。」看護師はそう言いながら、点滴の調整をして、そっと部屋を出ていった。

拓也は再び一人になると、ゆっくりと目を閉じた。これからどうなるのか、彼には見当もつかなかった。ただ、事故に遭ったという現実が彼を覆い尽くし、深い不安が胸に広がっていった。

それからしばらくして、ドアが再び開いた。足音が静かに響き、ベッドの横に誰かが立つのがわかった。拓也が目を開けると、そこには涙目の美咲が立っていた。

「拓也君…」美咲の声は震えていた。彼女はゆっくりとベッドの傍に座り、拓也の手をそっと握った。

「ごめんね…私、何もできなくて…」

その言葉に、拓也は小さく首を振った。彼女がそこにいることが、ただそれだけで、彼にとっては十分だった。

「大丈夫だよ、美咲さん…僕はまだ…こうして生きてる。」

その言葉に美咲は小さく笑みを浮かべ、涙を拭った。「生きていてくれて、本当に良かった…」

その後、美咲は母親とともに病室を訪れ、拓也の怪我の具合を心配しながらも、彼を励まそうとした。美咲の母親は温かい笑顔を見せながら、拓也の回復を祈るように話しかけた。

「拓也君、焦らずにゆっくりと休んでね。君の小説が完成するのを楽しみにしているから、無理せずにね。」

拓也は彼女の言葉に感謝しながらも、自分が今後どうなるのか、深い不安とともに考え続けていた。これまで彼が大切にしてきた小説や、美咲との関係がどうなってしまうのか、彼の心は揺れ動いていた。