11.舐めて溶かすように

 リカさんと2人で山頂へ。そのまま直ぐに小屋の中に入った。


「よいしょっと」


 中に入るなりリカさんが布団を敷き始めた。俺は気まずさから堪らず目をらす。


 すんっと鼻を鳴らせば木と炭の香りが。あれ? 全然ほこりっぽくないぞ。むしろめっちゃ綺麗に片付いてる。


 何でだ? 女中猫又’sだってここには入ってこれないのに。


「……そっか」


 リカさんって、掃除も洗濯も出来るんだな。滲み出るから、そのあたりはポンコツなんじゃないかって期待してたんだけど……当てが外れた。


「ふふっ、何を考えているの?」


「っ!?」


 溜息をつきかけたところで顔を覗き込まれた。背中がバカみたいに跳ねる。


「別に……」


「ん~~?」


 じーーっと見つめてくる。目を逸らしても追っかけてきて。


「~~っ、分かりましたよっ! 言います!」


「やったぁ♡」


 俺は観念して白状することにした。


「……リカさんの弱点について考えてました」


「私の?」


「はい。苦手なこととか、嫌いな食べ物とかでもいいんですけど……何かありませんか?」


「おやおや、悪巧みかい?」


「もっと近くに感じたいんです。リカさんのことを。もっと近くに」


「なるほどね」


 正面から抱き締められる。嬉しい反面、今更ながらに気恥ずかしくなってきて。伸ばしかけていた手をすっと引っ込めた。


「苦手な食べ物は……ネギ、かな?」


 思わず笑ってしまった。うどんに乗ってるネギをそっと避ける。そんなリカさんの姿を想像してしまって。


「じゃあ、俺がネギを食べたら接吻? はしてくれないってことですか?」


「そうだね。ちょっと厳しいかな?」


「ははっ、分かりました。気を付けます」


 和んだからか、手が自然と伸びていった。リカさんの背中にそっと腕を回す。


「他には? 苦手なことはないんですか?」


「……


「えっ……?」


 一層強く抱き締められる。


 驚きは納得へ。物凄くに落ちた。献身の根底にあるのは恐怖心だったんだ。失うのが何よりも怖いから頑張れる。身を削ることもいとわずに。


 どうしようもないぐらいに優しくて臆病な人だ。


 前の俺だったらどうにもならなかっただろう。けど、力がある。この人を支えるだけの力が。


「神様には感謝してもし切れないですね」


「君は優しいね」


「えっ? 怒ってくれてるんですか? 神様のこと」


「当然さ。君が赦しても私は決して赦さないよ」


 ありがたいけどノーセンキューだ。


「ダメです。怒らないでください」


「そうは言ってもね」


「俺、幸せなんで」


 気付けば笑ってた。鏡を見なくても分かる。今の俺の顔はとろっとろにとろけてるだろう。キモいけど笑えたぞ。笑いたいから笑えた……ような気がする。


「君には敵わないな」


 リカさんが肩をすくめる。矛を収めてくれたってことでいいのかな?


「本当に……敵わない」


 顔を上げると金色の瞳と目が合った。優しくて甘い輝きを放つ澄んだ瞳と。


「それは俺のセリフ――んっ……はぁ……」


 キスをしながら体を押してくる。身を任せると布団の上に押し倒された。


 リカさんの匂いがする。薬草みたいな匂い。ほんの一瞬すっと頭が冴えたけど、直ぐに甘く蕩かされてしまう。リカさんの瞳に魅せられて。


「ぁっ……!」


 首筋に顔を寄せてきた。唇で食んで舐められる。ぞくぞくする。甘ったるい声が溢れ出て止まらなくなる。


「あっ! あン……っ、あ……」


 不意に腹の締め付けが緩んだ。帯を解かれてる。しゅるっと帯を引く音がとてつもなくいやらしく聞こえた。


「はっ……はぁ……ンンっ……」


 溝内を、お腹を、リカさんの舌が撫でていく。なのに乳首には触れてくれない。おねだりするようにピンっと尖ってるのに。


「~~っ、あの……りか、さん」


「そこには触れないよ」


「なっ、何で?」


「実を言うとね……君の妖力は私の理性を削ぐ。謂わば媚薬のようなものなんだ」


 思い出した。初めて触られた日――リカさんの耳はピクピクしてた。必死に我慢して、大切にしようとしてくれてたんだな。それなのに俺はバカみたいに浮かれて。


「初めての今日は君を純粋に愛してみたい」


「わっ、分かりました」


「ありがとう」


「いえ……」


 ああ、本当に最低だ。


「獣染みた交わりはまた別の機会に」


「っ!!? なっ……!?」


 耳元で囁かれた。熱っぽく。悪戯っぽく。


 分かり切っていたことだけど、リカさんの方が一枚も二枚も上手うわてだ。


 思惑通りに想像してしまう。奪われるように抱かれる自分の姿を。欲に染まったリカさんの姿を。


「っ!」


 パンツ(半股引)を脱がされた。俺のそれは勃ち上がりかけてる。先っぽからはだらだらと涎を垂らしていて。


「たんまっ!」


「可愛いよ」


「~~っ、リカさん!!!」


「ごめんごめん♪」


 謝りながら着物を脱いでいく。いい体だ。全体的に薄いけど引き締まってて筋肉の輪郭が見て取れる。俺もその内、農作業とか手伝ったりしてたらあんなふうになれるのかな?


「っ!」


 ふんどしに手をかけ出した。流石にガン見するのは気が引けて勢いよく顔を逸らす。


「お待たせ」


 ぐっと引き寄せられて、リカさんの太腿の上に俺の生尻と太腿が乗っかった。


「わっ!? ちょっ……っ!」


 尻の穴がリカさんの目に触れる。自分でも見たことがないのに。


「綺麗だ」


「~~っ! そういうのいいですから!!」


 顔から火が出そうだ。今更だけどセックスってとんでもないな。


 全部暴いて暴かれて。距離が縮まるのも納得だ。これを乗り越えたら、そりゃもう怖いモンなしだよな。


 俺も無敵になれる。……ぐいぐい行けるようになるんだよな?


 ちらりとリカさんの方に目を向けてみる。あれ? 何か手に持ってるぞ。和紙みたいな、あぶらとり紙みたいな。


「それ何ですか?」


通和散つうわさんだよ」


「つう?」


 リカさんは頷くなり口を開けて――紙を食べた。


「え゛っ!?」


 戸惑う俺を他所にもぐもぐし出す。食い物なのか? とても美味しそうには見えないけど。


「わっ……!」


 リカさんの口からどろっとした粘液みたいなものが出てきた。もしかしてあれ……ローションなのか……?


「あっ! ん……っ」


 リカさんはそれを俺の穴に塗り込んでいく。温かくてヌメヌメしてる。やっぱりこれローションだ。


「嫌?」


「いえ」


 むしろ物凄く興奮する。恋人の口で溶かして作るなんて。まさにラブポーションだ。


「あっ!? あぁ……ぐっ!」


 中に入って来た。リカさんの指だ。内側を撫でてゆっくりと押し開いていく。


 異物感が半端ない。背中がムズムズする。肩もビクビクして止まらない。


 嫌じゃないのにこれじゃ嫌がってるみたいだ。体が驚いてる? 抵抗してるのか? 抱かれるために作られた体じゃないから?


「リカ、さん……いい! ……よっ、もっと……きて……」


 無性に抗いたくなった。誰に? 神様に? それは分からないけど、とにかく誰かに示したくなったんだ。


 ちゃんと出来る。この行為は間違ってないんだって。


 そんな俺の胸の内を知ってか知らずかリカさんが小さく笑った。優しく。愛おしそうに。


「っ! まぶ……」


 不意に部屋が明るくなった。見れば火が灯っている。部屋の隅に置かれたろうそく達に。リカさんの力か? 凄いな。何だか魔法みたいだ。


「優太、深く息をついて」


 リカさんの銀色の髪が淡く輝き出す。綺麗だ。一見するとピアノ線みたいだけど、実際に触れてみるとやわらかくって。


「ん……」


「どうかした?」


「いや……」


 ムードは満点だ。でも、リカさんの顔がどうにも見えにくい。逆光になってるせいだ。もどかしい。もっと近くでリカさんを見たい。見つめ合ってキスがしたい。


「あっ……ぐぅ……はぁ………はぁ……」


 指が1本、2本、3本と増えていく。変わらず苦しいけど少しずつ馴染んできているような気がする。


「優太。入れるよ」


「はい……」


 リカさんの指が抜けていく。ローションが伸びてぷつんっと切れたような気がした。エロいな。……何て茶化す余裕は今の俺にはない。


 俺が俺じゃなくなる。


 リカさんと混ざり合って1つになるんだ。


「えっ……?」


 リカさんの――やわらかい。まだ早くないか?


「あの……」


「いいんだ。私達は……妖狐ようこはこれで」


 その一言で今更ながらに実感する。俺は同性の、それも違う種族の人に抱かれようとしてるんだって。


 勿論嫌なわけじゃない。驚いてそんでもって喜んでるだけだ。


 妖狐であるリカさんが俺を選んでくれた。その事実をただひたすらに。


「優太、愛してるよ」


「俺も……あ゛っ!!」


 全身が震えた。リカさんのそれを中で感じて。



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