キャベツ姫
カルカル
第1話キャベツ姫
あるところにキャベツ姫という若緑の肌をした女性がいました。彼女はその肌と同じ若緑の細かな刺繍が施されたドレスと、誰よりも綺麗な青い瞳を持っていました。
キャベツ姫は多くの人から愛されていましたが、子供たちからは嫌われていました。子供たちは彼女を見ると、自分たちが嫌いな野菜の数々を思い出し、嫌な気持ちになったからです。キャベツ姫はそれを知って、深く深く悲しみました。
どうしたら子供達から好かれるようになるだろう。どうしたら私のこの緑の肌を好きになってもらえるだろう。
キャベツ姫が頭を悩ませながら歩いていると、畑にトマトの実がなっているのを見つけました。自分とはまるで違う綺麗な赤色を見て、キャベツ姫はこう考えました。
そうだ。この実をほっぺにくっつけてみよう。こんなにも綺麗な赤色を身につけた私なら、子供たちも好きになってくれるかもしれない。
キャベツ姫はさっそくトマトを身につけて、子供たちに会いに行きました。しかしキャベツ姫の予想と違い、子供たちは大笑いし始めました。
『真っ赤っ赤な変わったほっぺ!キャベツ姫さん!あなたは何に照れてるの?緑の肌が恥ずかしいのかい?』
自分の肌を馬鹿にされたキャベツ姫は、さらに深く深く悲しみました。子供たちから逃げ出して、キャベツ姫は今度は別の畑へ行きました。
そこにはブドウがなっていました。自分とは違う綺麗な紫色を見て、キャベツ姫はこう考えました。
そうだ。この房を糸で吊って、首から垂らしてみよう。こんなにも綺麗な紫色を身につけた私なら、子供たちも夢中になってくれるかもしれない。
キャベツ姫はさっそくブドウを首から垂らして、子供たちに会いに行きました。しかしキャベツ姫の予想と違い、子供たちは大笑いし始めました。
『気持ち悪い紫色の首飾り!キャベツ姫さん!あなたにはよくお似合いよ!その毒々しい緑の肌にぴったりだ!』
自分の肌を馬鹿にされたキャベツ姫は深く深く深く悲しみ、また別の畑へ行きました。
そこにはバナナがなっています。キャベツ姫は思いました。こんなに綺麗な黄色を身につければ、子供たちはきっと私を好きになってくれる。
けれどキャベツ姫がバナナを耳にくくりつけて帰っていくと、子供たちはまたまた大笑い。
『真っ赤なほっぺに紫の首飾り、耳には手のひらみたいに大きな黄色いイヤリング!ピエロだってこんなおかしな格好はしやしない!キャベツ姫さんもうやめな!何をしたって、その緑の肌は気持ち悪い!』
キャベツ姫は泣き出しました。嫌われることが悲しくて悲しくて、ずっと泣き続けました。けれど、どうしても彼女は好かれることを諦めることができません。
また別の畑へ行き、別の実を身につけて子供たちの元へ行き、泣きました。それからまた別の畑へ行き、別の実を身につけて子供たちの元へ行き、泣きました。そんなことが何度も続きました。
そうしてるうちに、彼女が身につけた数々の実が腐り始めました。トマトには白いカビが生え、ブドウは萎み茶色になり、バナナは真っ黒になりました。数々の腐った野菜や果物を身につけた彼女は酷く醜い上に異臭がするので、誰も彼女に近づかなくなりました。かつて彼女を好きだった者すら、1人また1人と彼女の元から去っていきました。
『キャベツ姫は世界で1番汚らしい。あんなに多くの腐ったものを抱え込むのは、性根も腐っているからに違いない。行こう行こう。どこかへ行こう。彼女のそばに近づくと、私たちまで腐っちゃう!』
こうしてキャベツ姫はたった1人になり、前にもまして悲しみに打ちひしがれるようになりました。おまけに腐った植物が身体にくっついて取れなくなったせいで、彼女は一歩歩くごとにぜえぜえと、荒い呼吸を繰り返すようになりました。身体が酷く、重たくなっていたのです。
精神的にも肉体的にも、彼女は疲れ切っていました。腐った物は塵になり、土へと帰ります。彼女は自分も塵にかえりたいと思い、疲れ切った身体を引きずって山へと向かいました。
山の中腹の少し開けた場所へと辿り着くと、そこには1人の男の人が立っていました。青い軍服の上に赤色のマントを羽織り、手には猟銃を持っています。男の人は隣国の王子であり、趣味の狩りをするためにこの山に来ていました。王子はキャベツ姫を見ると、叫び声を上げました。
「なんと醜い化け物だ!こんな恐ろしい生き物が、この世に存在していいはずがない!」
王子は手に持っていた猟銃をキャベツ姫へと向けて1発撃ち込み、キャベツ姫が倒れた後にも3発続けて弾丸を打ち込みました。
王子は倒れ伏したキャベツ姫に近づき、この恐ろしい獣はどのような顔をしているのだろうと、キャベツ姫を仰向けにひっくり返しました。王子は次の瞬間、あっと、驚きの声を上げました。王子が死んで当然の化け物だと思っていた相手は、美しい若緑の肌と宝石のように綺麗な青い瞳をもった美しい女性だったのです。
彼女は既に事切れていました。後に残ったものは血に塗れた若緑の肌と、涙をいっぱいにためたまま見開いてる青い瞳と、彼女からボロボロとこぼれ落ちていく腐った植物だけでした。
「惜しいことをした。これほどの美しい女性を殺してしまうなんて。あんな腐ったガワを被っていなければ、俺は求婚していたに違いない」
王子は彼女を土に埋め、その場を立ち去ります。それから長い長い月日が経ったあと、彼女は塵にかえりました。
おしまい
キャベツ姫 カルカル @tubasa8787
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