第16話 仲良くなってもらうために
ランスに町に行ったことを問い詰められて、なぜか告白まがいの発言を受けてしまった翌朝。
私は今日も着替えを手伝ってくれているペトラに、昨夜からずっと考えていた悩みについて打ち明けてみたのだけれど。
「もっと他にいい案はないの? ランスと町のみんなに仲良くなってもらいたいの」
「ですから、お嬢様が旦那様と仲睦まじくお過ごししていればいいのですよ」
「えっどういうこと?」
昨日ランスに町に出たことを問い詰められた私は、ベッドの中でとてもいい案を思いついてしまったのだ。
ランスは「誰かを傷つけてしまうかもしれない」と言っていたけれど、町の人たちは彼が魔物たちを退治してくれたことを感謝しているようだった。
だから、ランスが町の人たちと関われるようになってくれたら──世界は彼が生きているというだけで傷ついたりしないと分かってくれたらいいと思ったのだけれど。
「ランスには私とではなく、町の人と仲良くなってもらいたいの」
「ですから、お嬢様が旦那様と町の皆との間に入ってくだされば、それだけでも効果的だと申し上げているのです」
「本当に?」
私はペトラについジト目を向けてしまったけれど、仕方がないと思う。
昨日、私は町の皆からものすごく疑いの目を向けられたのだ。
そんな私がランスと仲良くしていたところで何になるのだろう? 逆に、町の人たちのランスへの信頼がなくなってしまいそうだ。
「それでは私がご一緒しますから、今日も町に行ってはみませんか?」
「! 二日続けて外に出られるなんてっ。でも本当にいいの?」
「旦那様のことは私が説得いたしますので、お気になさらず」
ペトラの提案に、先ほどまでランスと町の人たちのことを考えていたはずの私は、一瞬で今日のお出かけに浮き足立ってしまったのだった。
そんな約束をして食堂に向かった私たち。私の席の向かいには、いつものようにランスが座っていた。
「おはよう、レスティ」
「ランス、お願いがあるの」
「どうしたの? もしかして、また町に出たいとか?」
どうしてこの人は勘が鋭いのだろう。
「お願いペトラ」と私が言えば、ランスの視線は部屋の隅に控えていたペトラの方を向く。
「本日、レスティ様は私と共に外出することをご所望です。旦那様、レスティ様は昨日一人でお出かけになったことを反省しておいでですので、どうか」
「……レスティ、本当に反省してる?」
私は小さく頷いた。反省しているように見えるかな。
これはランスの、ひいては私自身のためなのだ。
彼は町の人たちとの交流を恐れているのではないだろうか。そしてその理由は、町の人たちがランスのことを恐れているように見えたから。
優しい彼のことだ。町の人たちを怖がらせないために、自分から交流を絶つという考えになってもおかしくない。
「今日は絶対に一人で行動しないわ」
「ペトラ、決してレスティを一人にしては駄目だからね」
「もちろんでございます」
朝食を終えると、ランスは今日も竜の姿になって遠くへ飛んで行った。
私もペトラに動きやすい服に着替えさせてもらうと、玄関を出る。門のところまで来た私たちは、そこに誰かがもたれかかっていることに気づく。
「ニール君? どうしてここに?」
「朝食の席でお話しになっていましたが、出かけるんですよね?
ニール君は今日もランスのことを思ってくれていたらしい。
ランスが一人ぼっちではないことに、安心してしまう。
「心配してくれてありがとう。けれど、お勉強はいいの?」
「はい。
けろりと笑うニール君。
それなら大丈夫、なのかな。でもランスが怒ったりしないかな……?
けれど、私は「ランスのために」と一瞬だけ浮かんだ疑問をなかったことにすると、三人で町へと繰り出した。
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