第15話 言えないこと (ランスSide)
「あっ
「ニール、俺に用事?」
今日、町に行った理由を聞きだすために訪れたレスティの部屋を後にすると、そこにはニールが立っていた。
俺が
そう思ったが、どうやら
「はい。少し難しい課題の解き方が分からなくて。明日もお仕事だと聞きましたが、お時間大丈夫ですか?」
「うん。入って」
俺は血の繋がりも何もない俺のことを「
隣にはレスティの部屋があるが、この部屋の防音構造は高度なものになっているので、彼女に聞かれる心配はないだろう。
さすがに「すり抜け」の魔法を使えるようになったらしい彼女も、さすがに俺の部屋に入ってきたりはしないはずだ。
「ところでその課題とやらは何かな?」
「実はですね」
ニールはこの町の領主であった元辺境伯夫妻の一人息子で、いずれはこの地を継ぐことになるため猛勉強をしている。
彼の父母はこの屋敷に住んでいて、周辺地域一帯を治める辺境伯だったのだが、数年前の夜、町の近くの森で魔物が大量発生した日に逃げだそうとした。
正当な手続きを経ず、利己的な理由で領地や領民を見捨てて逃げようとするのは大罪であり、俺は彼らを王家に差し出すこととなった。
そのため、今は一時的にシューバルト公爵である俺がこの領地を後見している。ニールが領主となるか、シューバルト公爵領に
本来なら
「つまり、ここをこうして──できました!」
「その調子で残りの問題も解いていけば問題ないよ。お前ならできるはずだ」
ニールを見ていると、つい実の弟のことを思い出してしまう。
いや、
「ところで今日も明日も屋敷を留守にするなんて、珍しいですね。今までは『外に出て誰かを傷つけるぐらいなら、閉じこもった方がマシだ』って言っていたのに」
「今回は事情が事情だから、俺が
「そうですね! でもまた
「ごめんね。もう俺は背中にレスティ以外の誰かを乗せたくないんだ」
俺はある種の
──俺にとって一番の呪いは、竜化の魔法だ。
たしかに、俺は竜化の魔法のおかげで、この領地に
しかし、この魔法の代償は非常に大きい。
町の人々はもちろん実の家族からも恐れられ、ついにはリシャール王子の
「すみません。無理を言ってしまって……」
「気にする必要はないよ」
「そういえば
「彼女が塔の上に閉じ込められていたことは、ずっと知っていたよ。今までは彼女をあそこから連れ出すのには力不足だったけれど、昨日はいけると思ったんだ」
当時は顔も名前も知らなかったレスティ。しかし俺の心の中では、次第に「俺のお嫁さん」になっていった。
そうしておとつい。はじめて会ったはずの彼女のことを、俺はずっと昔から知っていた気がしてしまったのだ。
そして馴れ馴れしくも「俺のお嫁さん」と言ってしまった。
それにずっと昔から知っているつもりだったから、今日も告白まがいのことをしてしまったわけで。
やり直しの効かない人生。もう彼女にドン引きされた後だから、引くに引けない。
一生独身暮らしを考えたこともあったが、貴族の体面を考えると、そんなことが認められるはずがないのだ。
そしてそんな未来は、彼女を前にしてしまった今となってはもう考えたくもない。他の女性と結ばれて、国を
「では明日は、
「ああ。彼らの狙いはどうやらレスティのようだからね。本当、今日彼女を見つけたのが
ニールが「本日はありがとうございました。おやすみなさい」と言って退出していったのを見送ると、俺も部屋に鍵をかけて向かい側にある自身の寝室へと移動する。
隣の部屋で今頃、レスティは何をしているのだろう。
俺は彼女が直してくれたぬいぐるみを見つめていたが、当然答えは返ってこない。
気がつけば彼女のことばかり考えている自分自身に気がついた俺は、一人苦笑を浮かべるのだった。
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