第14話 ランスの思い?
一人で町に行ったその日の夜。
私は、部屋にやって来たランスに尋問されていた。
「どうして町に行ったのか、聞かせてくれる?」
向かいのソファに座っているランスは声も表情も穏やかそのものだ。
けれど、心なしかものすごく怒られている気がしてしまう。
「ねえ、教えてよ。そんなに俺のことが嫌だった?」
「……分かってるでしょ。私は」
ランスは突然ソファから立ち上がると私の隣までやって来て、すぐ側に腰掛けた。
そのまま、私の両手はランスの大きな手にすっぽり包まれてしまう。体温の逃げ場がないせいなのか、だんだん身体が熱くなっていく。
「俺は君に傷ついてほしくないんだ。今日君をあそこまで連れて行ったのは
「それは……」
「君が無事だったことはとっても喜ばしいのだけれど。この屋敷から出なければ、そんな心配をする必要もなかったはずだよ? 君も妹に罠に
ぐうの音も出ない。
それでも、私には絶対に諦めたくない夢があるのだ。
「ランスはどうしていつもそんなことばかりなの──」
「そんなことって? 俺は君に傷ついてほしくないだけだよ。その最適解は君がこの屋敷の中でずっと穏やかに暮らしてくれることだからね」
「私はたとえ傷つくかもしれないとしても、外の世界を見たいの! ずっと家の外に行きたくてミスティと一緒に外に出て、また塔の上に閉じ込められて! それでもランスがそんな私を助けてくれてっ。なのに……また狭い世界だけで生きていくのはもう嫌なの!」
荒くなってしまった息をゆっくり整える。
もうこんな生活、終わりにしたい。終わりにしたかった。
「レスティの夢はとっても素敵だね。昔は俺も外で皆の役に立ちたいと、そう思っていたから君の気持ちは痛いほど分かる。けれどね、俺たちは闇魔法使い。このお屋敷から出ないで、ずっとここで暮らした方が君も世界中の人たちも傷つかない。俺は君には不幸になってほしくないんだ。本当は、最初からこうすべきだったんだろうね。俺だって君を閉じ込めたくはない。それでも、それが最善の答えなんだ」
「わかってよ」。そんな声が聞こえた気がした。
それでも私は受け入れたくない。ここで彼の考えを受け入れてしまったら、それこそおしまいだ。その時は、私は死んでしまったも同然なのだから。
「ランスはバカ王子と一緒で私を閉じ込めたいの?」
一か八か。そう言ってみればランスの息を呑む音が聞こえた。
「ああ、そうか、君にとっては……。正真正銘のバカは俺の方だったわけだ」
乾いた笑いを浮かべるランス。
ちがう。私が言いたいのはそういうことじゃないのに。ランスには私の言葉が届いていないみたいだった。
「俺は一体どうしたいんだ? レスティを守りたいと言いながら、結局一番守りたいのは自分自身じゃないか! ──傷つくのは、俺だけでいい。俺だけが傷つけば、レスティは笑顔でいられるんだ」
「っ、バカなこと言わないでっ!」
「……レスティ?」
私は、一人でブツブツと何かを恨み節のように呟いているランスが見るに
私を見下ろすランスの目は、救いの手を待っているかのようで。
「あなたは私のことを『俺の未来のお嫁さん』とか言っているけれど、私だってもしランスのお嫁さんになったら、あなたが傷ついているところなんて見たくないわ」
「そっか。レスティは俺にはもったいないぐらい優しいね。でも俺、もう決めたから」
突然先ほどまでのなよなよした様子が嘘のように顔が引き締まったランスに、私が首を
「俺は君の身も心も守るし、夢だって応援する。もちろん、俺自身が傷ついて君を心配させるようなことだってしない。──だから、愛するのは一生俺だけにして」
黒曜石のような瞳を見つめれば、彼が冗談で言っているわけではないことは伝わってくる。
それに、ランスは自分が言っていることがものすごく難しいことだということに、気がついていないみたいだった。けれど。
「まだ私たち、会って三日目よ。それなのにそんなことを言って……」
「俺が本気で言ってるってわからない?」
「貴方の気持ちはわかったし、頑張りたいなら好きにすればいいと思うわ。でも、私が貴方のことを好きになるかは知らないわよ」
「……君を幸せにするのが、俺の夢なんだ」
彼はそのまま手の甲に口づけを落とす。
その事実を理解した私は、またまた体温がぐんぐん上昇していく。この人と一緒にいると、人とどんな距離で接したらいいかがわからなくなってしまう。
「君のことは誰にも決して傷つけさせない」
「あ、ありがとう……。でも急にキスされるとどうすればいいかわからないわっ」
「大丈夫だよ。傷つけさせないと、守ると言っただろう?」
まだ出会ったばかりなのに積極的すぎるランスに、私はどんな距離間で接すればいいのか見当もつかなかった。
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