第12話 尋問
お屋敷の皆に内緒で、一人で町に出たその日。
町中で大柄な男性──ケンさんに話しかけられてやって来た建物の一室で、私は質問攻めを受けることになった。
「レスティ・フランソワです。えっと……」
「レスティ、フランソワ領出身で容姿は黒魔女のようである、と」
出身地がどこかと言われてフランソワ領と言うべきなのか、王都と言うべきなのか迷ってしまった。
私はフランソワ家の娘だけれど、昨日まで一度も王都から出たことがなかったのだ。なのでフランソワ領出身というより、王都出身と答えた方がいいのかもしれない。
「フランソワ領はかなり遠いけれど、ここまではどうやって?」
「あっ、私は王都からドラゴンに乗って、その後馬車に乗り換えてきました」
「ドラゴンだと!? ペイズ、領主様に連絡を!」
突然焦って領主様──たぶんランスのことだと思う──を呼ぶようにと言い始めたケンさん。まって。
「すみませんそれだけはやめてくださいっ。お願いします!」
「ケン、この子絶対黒ですよ。いえ髪の話ではなくてですね」
「ああ、分かっている。まず若い女性が一人で王都からここまで来ること自体がおかしな話だし、家出だとしてもさすがにドラゴンには乗ってくるはずがない。そもそも着ている服も上品で、普通ならこの町に着く前に盗賊に襲われるのが
この流れは本当にまずい。
もし私が町に出たことがばれてしまったら、何と言われるかわからないし、もしかしたら一生屋敷で軟禁生活が待っているかもしれないのだから。
「そうですね。領主様の前に彼女を引きずり出すのは残酷な話ではありますが」
「ごめんなさい。残酷ってどういうこと?」
ランスが残酷? たしかに、彼は人を閉じ込めたがってはいたけれど、根は優しい人なのだ。まだ出会ってたった二日ぐらいだけど、それは私にもわかった。
二人の会話に割って入った私の質問に答えてくれたのは、大柄なケンさんの方だった。
「昔、この領地に魔物が大量に発生したことがあってな。その時にこの領地を守ってくれたのが今の領主様であるランス・シューバルト公爵様なんだ。だがな……その時の戦いで町の外の森には今でも草ひとつ生えない場所ができてしまったし、それにその戦いの最中、この町から逃げ出そうとした以前の領主様は──」
「ケンやめろ。それ以上は彼女に聞かせる必要もない」
「以前の領主様ってどういうことなんですか?」
私は二人の話を疑問に思って聞いてみたのだけれど、二人とも口を
沈黙が流れた室内でやることがなくなってしまった私は、ふとケンさんの鎧を見てみると。
「ケンさん、その鎧はところどころ欠けてますけれど、使って長いんですか?」
「ん? ああ、俺がこの
「よければ私がタダで直しますよ?」
ケンさんは厳しい顔をしたままだった。
「
「ケン、そんなことを気にする必要はありません。今彼女は『タダ』でと言いましたから。レスティさんのご実家はもしかして
「いいえ。闇魔法は怖くないとお見せしたくて」
私の一言で、部屋の中の体感温度が数度下がった気がした。
冬なのにどこまでも寒くなっていくのが悲しい。
「やっぱり闇魔法使いだったか。まさか自分から白状してくれるとはな」
「ですね。ですがケン、もしかして私たちは今ここで彼女に殺されて──」
「そんなことはしないわ! たしかに、闇魔法は壊す魔法だけれど、シミや傷跡を壊すことだってできるのよ」
闇魔法が恐ろしいものだなんて。
たしかに、私もはじめてランスに教えてもらった時にはそう思っていたけれど、今では「使い方によっては便利な魔法」だと思っている。
そういうわけで私がいかに闇魔法が素晴らしいものなのか力説すれば、二人ともだんだんと口をパクパクしはじめた。
もしかして、私の話が退屈すぎたのかのだろうか。
「とにかく、この鎧も闇魔法で治るんですよ」
「でもあんたが言っていることが本当なら、俺も殺そうと思えば殺せるんだろう?」
「そうかもしれませんが……怖ければ鎧だけ脱いでいただいてもいいんですよ?」
私の提案に震えながら首を振るケンさん。
でも私は絶対に死なせたりしないので安心してくれたらなぁ、と思ってしまう。
「どうせ捨てた命だ。このまま受けてやるよ」
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