第11話 一人でお出かけ

 闇魔法で屋敷を抜け出した私は、久しぶりに町に出た。


 石造りの町はあちこちから楽しそうな声が聞こえてきて賑わっている。

 馬車の中から見ていた時はガラス越しだったからか、見るのは二回目のはずなのにとても色鮮やかに見えてしまう。


「これが町……! 王都と雰囲気が違っていて素敵だわ……っ!」


 もちろん、王都もとっても綺麗な場所だった。

 けれどこの町はどことなく雰囲気が温かくて、住んでいる人たちの幸せが伝わってくる気がしたのだ。


 でもそう思ったのはほんの少しの間のことで、歩き始めて少しすると、だんだん周りの人たちの様子が見えてくる。


「ねえ、あの子……」

「魔女かしら。同じ黒髪をしている領主様はお優しい方ではあるけれど……」

「おいおいおい。どうして魔女なんかがこんな町にいるんだよ。町ひとつ壊すのなんてわけないんだろ? やべぇって」


 ミスティと一緒に町に出たあの時と同じだ。声は楽しそうだったのに、私の方を見ている人はみんな、私のことを恐れているような……面白おかしいものでも見た時のような話し方をしているというか。


 もしかして私、嫌われてる? そう思ったちょうどそのとき、後ろの方から声がかかる。


「お、おい。そこのお嬢さん」

「え、私のこと?」


 私が後ろを振り向けば、そこにいたのはお腹から上を守る鎧に腕章わんしょうを身につけた大柄な男性だ。

 けれどその声は心なしかふるえている気がする。


「アンタ以外にだ、誰がいるってんだ? 見慣れない顔だが出身地の証明書は?」

「え、なにそれ?」


 はじめて聞いた言葉に私が首を傾げると、男性の顔が一気に険しくなる。


「持ってないんだな。それならついて来てもらうぞ」

「えっどこに?」

「とにかく、ついて来るんだ」

「……わかったわ」


 状況が理解できていないけれど、ここはランスが領主をしている町なのだ。


 ここでトラブルを起こした日には、一生外に出してもらえなくなる気がする。

 穏便おんびんに済ませるためにも、彼について行った方がいいのだろう。


 そう判断した私は、男性について行くことにした。

 彼の後に続いて歩くことしばらく。たどり着いたのは、大通りに面した一軒の建物だ。


「入れ」


 中に入ると、中は吹き抜けになっていて、上の方にある大きな窓から光が入ってきている。

 ここに私を連れてきた大柄な男性と同じ服装に同じ腕章わんしょうをつけた人たちが働いているようだった。


 その中の一人、メガネをつけた細身の男性が私たちに気づいたらしく、声をかけてきた。


「ケン? もう昼休憩の時間だったか……ん? どうしておとぎ話の魔女なんか連れている!?」

「ああ。町に被害が出てからでは遅いと思って連れて来た。身分証明になるものも何も持っていないようだったから安全のためにな」

「そういうことだったか。お嬢さん、悪いけれどこちらに来てもらいますね。……お嬢さん?」


 ポンポンと肩を叩かれて振り返ると、私は後ろにケンと呼ばれた男性が立っていたことを思い出した。


「今から話を聞かせてもらうぞ」

「? わかったわ」


 ケンたちに連れられてふたたび「入れ」と言われた部屋はものすごく殺風景だった。

 けれど新鮮な光景だけにしっかりと目に焼き付けたくなってしまう。


「おい、さっさと……そんなにじっと見てどうした? この部屋の中にあるのは見ての通り椅子と机ぐらいだぞ。……聞いているのか?」


 あの塔の上の部屋の方がまだ生活感があったぐらいで、部屋の中には大きめの机がひとつとそこに向かい合うように椅子がふたつ。

 それから、少し離れたところに小さな机と椅子がひとつずつだけという、本当にシンプルな部屋だ。


 あとは壁の上の方に小さめの窓がついているぐらいだろうか。


「あっ、ごめんなさい。こんな部屋を見るのははじめてだから、つい……」

「そこの椅子に座るように」


 私が席につくと、向かいにはケンさんが、少し離れたところの椅子にはもう一人の男性が腰を下ろした。


「まずは名前と出身地を聞かせてもらうぞ」


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