第10話 闇魔法の使い道
「
ついさっき、図書館に突然やって来たランス。
彼の一瞬の隙をついた私は、覚えたての闇魔法で屋敷の壁をすり抜けて事なきを得た。
そういうわけで今、私はお屋敷の外の庭に出ていた。
今朝も魔法の練習で出たばかりだけれど、どうやら冬の庭は昼間でも寒いらしかった。
「はあ、はあ……。どうしてランスは私が読んでいた本の中身がわかったのかしら……。たしかに、外に出たいとは思っていたけれど、たまたまそこを読んでいるとばれてしまうなんて」
どうやってランスから逃げよう。南の方に行けば町に出られるはずだけれど、何もないから見つかってしまったらおしまいだ。
けれどそんなことに気を取られながら屋敷の北側を歩いていた私は、彼もまた闇魔法使いだということをすっかり忘れてしまっていた。
「レスティ、見~つけた」
「ひゃぁぁぁ! ちょっと早すぎない!?」
私はもう一度、すぐそばの壁から闇魔法でお屋敷の中に入った。
すぐにばれてしまわないようにそのまま何度か壁をぬけると、不思議な部屋にたどり着いた。
「ここは……?」
それまでの部屋と違って、ほとんど真っ暗な部屋。
思わず気になってカーテンを少しだけ開けてみると、物置きだった。
何があるのかな、と気になって周りを見てみれば、部屋の端の方にある椅子の上には少しシミで汚れたままのクマのぬいぐるみが座っていた。
闇魔法、壊すは壊すでも汚れだけ壊せたりしないのかな? それだったら便利なのだけれど。一度気になってしまったら仕方がない。
「
いけない! うっかり汚れていないところを触ってしまった。
思わず私は、くまのぬいぐるみを床に落としてしまった。
けれど、どれだけ見ていても、ぬいぐるみがぼろぼろになっていく様子はない。
おそるおそる拾ってみれば、汚れていたはずのぬいぐるみはきれいさっぱり新品同様になっていた。
「あれ? もしかしてうまくいった……?」
「レスティ!」
バン、とものすごい勢いで扉が開かれる。
もちろん声の主はランスだった。
「こんなところにいたんだね。町の方に行っていないか心配したんだ」
「行っていないわよ」
私がランスの言葉に首を振ると突然、彼の息を呑む声が聞こえる。
「──なんでそのぬいぐるみを」
「えっと……」
「
突然私に向かって走ってきたニール君を、ランスががっちりと受け止める。
もしかして、このぬいぐるみはニール君のものだったのだろうか。
「クマオ?」
「はい! 昔
「え? 背中?」
まったくそんな感じはしなかった。
けれど二人が言うのだから、きっとそうなのだろう。ランスの大切なものを壊さなくてよかった。
「ニールも勉強の途中だろう。戻れ」
「はーいわかりましたー」
ニール君が帰ってしまったので、またまた二人きりになった私たち。
もちろんランスが逃がしてくれるはずもなく。
「さっきの続き、聞かせてくれる?」
「夕ごはんの時でいい……?」
その日の夕食の席で、私はランスに図書館で話していた続きを口にした。
「しばらくこの家にお世話になっ」
「ずっとここにいて」
ランスから返ってきた第一声は、ある程度予想していた通りのものではあった。
けれど私が話している途中に返ってくるなんて思ってなかった。
「ずっと!? 私は外に出たいの!」
「外は危険だと言っているだろう? 魔法もまだ今日はじめて使ったばかりの君を外に出すなんて考えたくもない」
「じゃあいつになったらいいの?」
ランスはスープを一口飲むと、「そもそも」と話を切り出した。
「君は外に出たいと言っているけれど、外の世界がどれだけ危険な場所なのか知ってる?」
「ランス、嘘ついてるでしょ。とっても綺麗な場所だったじゃない」
「俺が君を危険なところに近づけると思う?」
たしかに。優しい彼のことなのだから、綺麗な景色があったらきっと私にも共有してくれるだろう。
そう納得しかけたところで、「そういえば」とニール君が会話に入ってきた。
「そういえば
「駄目だ。俺はレスティはもちろん、お前にも危険な目には
やっぱり、ランスは優しい人なのだ。
あれ? もしかしてこれはもしかしてチャンスなのでは?
明日は家を留守にするなら、彼の監視もないはず。
「僕、きちんといい子にしています!」
「ああ。レスティ、君は?」
「も、もちろん私も外には出ないわ!」
そうして翌朝。
仕事に出かけるランスを見送った私は、ペトラや屋敷のみんなに見つからないように、闇魔法でこっそりと屋敷を抜け出した。
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