第7話 そこに刻まれし勇気①
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(ムービー視聴中)
それは、【勇者フォルゼ】が放ったブレイヴソウルに打たれて寝込んでしまったオルバ村の少年(主人公)が眠りから目を覚ます5日前の事だった。
オルバ村の猟師、ガルザの家では。
「ゴホっ、ゴホッっ。あなた、私の為にごめんなさい」
「最近、どんな病にもよく効く薬草が見つかったと噂だ。きっとマリだってよくなるさ」
「マルユ。父ちゃんが薬草を採りに行っている間、母ちゃんを頼むぞ」
「うん! 父ちゃん、気を付けてね」
ガルザは床の上で横になる妻を寝かしつけると、足早に【旅立ちの祠】を目指して出立した。
【旅立ちの祠】がある森。
魔物がうろつく様な地であったが猟師ガルザにしてみればそれをすり抜けるのは狩りの要領と同じだ。森の中で足下に散らばる枯れ枝を踏まぬ様にし物音を立てず身を潜めるはお手の物。
奮発して魔物を寄せ付けなくする香料も準備してある。そうして幾匹かの魔物をやり過ごして祠に迫ったところで。
「あれだろうか?」
ガルザは物陰から目当ての薬草らしきものを眺めていた。祠の周りの草むらの中、光り輝く霧を噴き出している草が1本だけ。
だが、すぐさま喜び勇んで飛び出すという事はない。目、鼻、耳と神経を研ぎ澄ましてそのすぐ側に何か潜んでいないか探ろうと努めた。
やはり猟師として日頃から心がけている事だった。そして、もうしばらく動けそうもない事を悟り、物陰に更に深く身を屈めていた。
草木が揺れる音が近づいていた。やがて、ガルザが伏せている茂みの前に走り込んで来たのは旅人といった装いの男が2人。
「おぉ! 何と神々しい。これが噂の薬草じゃないか?」
「ああ、確かに。ポルンテの町の商人から頼まれたヤツで間違いなさそうだな」
茂みの陰でガルザはうなだれた。あれだけ騒々しくてよくも無事にここまで来れたと思いつつ、強運に恵まれる事があるのも猟師であればよくわかっていた。
2人組の1人が輝く草の根元に手を伸ばした時。ここは事情を話して譲ってもらおうとガルザは身を起こそうとした、のだが。
祠の裏側の茂みから黒い影が飛び出す。大口を開けたそれは本来ならば男の1人にかぶりつくはずだったが、幸運にも草を引っこ抜こうと身を屈める最中だったのでかわす形となる。
黒い影はそのまま2人の頭上を飛び越え背後に回ると奇声を上げて威嚇し始めた。
「ギゲロッ~~~~!」
「ば、化物ガエルっ」
振り返った2人に『ハイケロガー』が迫ろうとしていた。2人は何とか左の腰にある鞘に手を伸ばし剣を抜いた。
「ひっ、ひぃぃ~~~~」
後退りしながらやたら滅多らに振り回すばかり。たまに斬るものと言えば、突き出た木の枝の先といった有様。
「あいつらマズいな……。アレ1匹だけなら、不意さえつけば俺でも仕留められるか?」
ガルザは周囲に他の魔物の気配がないのを確かめながら様子を見守っていた。
そうこうしている内に『ハイケロガー』が口の奥から舌を突き出して1人の身体をからめとろうとする。
ところが、偶然にもその男が振るった剣が舌先を斬りつける形となった。『ハイケロガー』が奇声を上げて後退りする。
「さて、俺はどうしたものだろうか…。今の内に頂いてしまえなくもないが」
ガルザは身を屈めたまま2人に目をやった。次いで、1本しか生えていない薬草に。
その時、旅人の一人が自分で振った剣の勢いに負けてよろける。そこ目掛けて、今まさにケロガーが躍りかかろうと後ろ脚に力を込めて跳び上がる姿勢に入っていた。
ガルザは反射的に動いた。背に両手を伸ばしそれぞれに狩猟用の弓といざという時の為に持参した特別な矢の羽根を掴む。猟師を生業とする者が弓矢を構えて狙いを絞ってから射るまでは僅かな時間だった。
「ギッ、ゲゲロッ」
鏃に魔力が込められた対魔物戦用の矢は跳び上がったばかりの『ハイケロガー』の腹に深々と。宙で姿勢を崩して仰向けとなり手足をばたつかせている。
鏃から徐々に染み出した魔力が魔物の身体を浸食し傷口の周りから煙が上り始めると一層苦しそうに悶え始めた。
「ゲゲッ、ギッ……」
その直後に茂みから飛び出したガルザは狩猟で獲物の血抜きをする際に使うナイフで『ハイケロガー』の首周りを切り裂いていた。
「ふぅ。俺の稼ぎじゃ1本しか買えないとっておきを使ってしまったが、何とかなった。君達、怪我はないか?」
2人組は腕や顔にいくつかすり傷が見られるものの大きな怪我は負っていないようだ。
「えぇ、何とか……」
「危ないところ、助かりました」
「いや……、ところで早速相談なのだが。君たちもあの薬草を求めて来たのだろう? 助けた代わりにというつもりはないが、その、俺に譲っては」
「あわわわわっ……」
「どうした? ん……」
頭上を何かが横切った。ガルザがそう感じた直後には目の前の男の脳天に何かが突き刺さり、棒で叩かれた西瓜の様に頭が爆ぜた。
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