第6話 ブレイヴソウル
真正面にどっしりと腰を下ろしていた『ケロガーEX301』。間近に俺が迫るのを見るなり、口の奥から紫色の舌を突き出してきた。
「また、あれでからめとるつもりだろうが。いや……、待て。」
今度は見えたな。
最初はその挙動が全く見えぬままに9999ポイントなどというふざけたダメージをもらってしまったが。
今はふらふらと宙をのたうつ鞭の様にゆっくりと、はっきりと見える。
「コイツのお陰、なんだろうな? 多分」
ついさっきまでの俺と今の俺に違いがあるとすれば、特典アイテムの【D装備セット】とやらを使っている事くらいだ。
だとしたら。
「あの受付の堕フェアリーめっ」
「プレイしてのお楽しみ」などと抜かすだけでどういうものか全く説明がなかったぞ。この感じだと新規追加のボス戦に必須アイテムの様な気もするんだがな。
79:21
その中の一つ、【Dソウル】の中に浮かぶ数字のカウントダウン。今わかる事があるとすれば、それがゼロになる前には蹴りをつけた方がいいだろう、と。
のろのろと目前まで寄って来たヤツの舌を半身を開いてかわす。舌先がそのままどこかへ伸びて行ったのを見送る。
俺の動きに気付いて舌先を戻すわけでなく、無防備に大口を開いたまま。つまり、今度はヤツの方が俺の動きを捉えられていない。
間合いを詰めてヤツの目前に立つ。ダラりと伸びた舌の上側に【Dブレイド】を水平に載せ、そのまま一気に口の奥に向けて横殴り。
━━ 0 ━━
「なっ……」
ヤツの頭上に躍り上がったダメージ数値はゼロポイント。そもそも俺が持っていた初期装備で斬りつけたのと全く同じでしかないのだが。
「ギゲゲ……、グゲッ~~~~!!」
「なっ、何なんだ、この剣は……」
斬ってから少しばかり遅れて顔半分が消し飛んだ。
【Dブレイド】の刀身に触れた部分が黄色く光って上顎の方がきれいさっぱりに…。残るは下顎の部分だけが乗っかった胴体、っと…。
レベル15に達するまで散々にザコモンスターを狩って来たが。このエグい感じになってしまうエフェクトは初めてだった。
「ギゲローーッ!」
その姿で動き回られるとこれまた不気味な…。
上顎のない口から舌を思いっきり伸ばした。自身の身体を軸にしてハンマー投げのスイングの様に舌をぶん回してやがる。
あちらこちら歩き回るもんだからまるで草刈り機状態だ。それに当てられた辺りの草木が千切れて宙に舞い始めた。
上顎と一緒に目玉も消し飛び見えないのかもしれない。適当に辺り全てを薙ぎ払うつもりか。
「いや、止まった?」
何の前触れもなかったが急にピタりと動かなくなったのは、弱り始めた?と視るべきか。
こうなったら相手の見た目で弱り具合を測るしかなさそうだ。取り敢えず、この隙は衝かせてもらう。
━━ 0 ━━
舌は中ほどで切断され先っぽ半分の方が消し飛んだ。ダメージ数値は相変わらずからっきしだが。
「なるほど。ヤツのHPを削り切るのではなく、ヤツそのものを削れと」
58:41
【Dソウル】のカウントダウンに目をやる。思う事は色々とあるが、全ては終わってからだ。
18:85
『ケロガーEX301』の胴体をほぼ等分で輪切りにしてやったところで、吹き飛んだ両方が消えた。
「終わったか……。なんだ? くっ、この光は」
ヤツの身体が完全に消え去った後、そこに青白い光を放つ球が現れた。
この輝きは。
よく知っている。
「ブレイヴソウル」
【魔王ブルゼフ】に破れた【勇者フォルゼ】が散り際にいくつもの欠片に砕いて四方八方に飛ばした自身のチカラの源。
俺が操る主人公の少年も欠片に選ばれた1人。
主人公はブレイヴソウルの欠片を持つ者を探しながら旅をする。その者を仲間に加えつつ、時には欠片を受け取りながら。ってのが『ブレイヴ・ソウルズ』のストーリー進行のコアの部分ではあるんだが。
俺は宙に浮くブレイヴソウルに手を伸ばしてみた。これで、こいつがここに現れたわけがわかるはずだ。
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