第5話 新規追加ボスとの戦い
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「なっ!?」
思わず自分の目を疑った。開幕で『ケロガーEX301』の真後ろへ回り込み、デっぷりとした尻の辺りを斬りつけた時に跳ね上がったダメージ数値がそれだ。
当たった瞬間に刀身に感じた弾力、傷の一つも付けられずに刀身を押し返され、思わず俺も仰け反る羽目になった。
それでも体勢を立て直し2Hit、3Hitと続けてみたが同じモノが躍り続けただけ…。まだ序盤、出来る事が少ない中でそれなりに備えたはずだっが。
「さて、ここまでの化物だったとはな……」
他のプレイヤー達が口々に異様に強いとは言っていた。だが、レベル5もあれば充分なスタート点近くのエリアにレベル15でも全くダメージが通らない様な新規ボスが追加されるとは。
このトライがダメでも、せめて何かしらのヒントをつかんで次に活かす。そんな、ゲーマー心得に則ったボス戦の動きをするつもりでいたが…。
「まさかの、土産の一つも無しか……」
そう思った時、微かに感じた。俺の前の方で何かが風を切る様な音。
「がっ……」
気が付けば紫色のぬめっとした物が俺の身体にぐるぐると巻き付いていた。こいつには見覚えがあった…。
ここに来る前のレベリングで通常のザコケロガーを狩っている時、他のプレイヤーが食らっているのを何回も目の当たりにして固く誓ったものだ。
一択だ。あの攻撃だけは絶対回避の一択しかあり得ない、と。
牛ほどの体格を持つ化物ガエルの舌に全身をからめとられ、ヌメヌメとした舌の先端で顔を撫でまわされる…。フルダイヴ化した事で気持ち悪さが異様に際立つ攻撃手段だ…。
そんなのを身に受けてしまった…。何も考えず無心状態のままに締め上げられて、終わった…。
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「オーバーキルにも程があるだろ……」
俺の頭上に跳ね上がるダメージ数値を見上げた。まだ序盤も序盤、今の俺の最大HPは38ポイントしかないんだって…。
ヤツが俺に巻き付けていた舌をほどいたのと同時に、フワッと身体中から力が抜けていく様な感じがする。
そのまま前のめりに倒れ込んで地面とお見合い状態。後は、オルバ村の自宅の寝室まで飛ばされるのを待つだけだろうな。
「それにしても。こんなに序盤も序盤でロスするとは…」
全ては、わけのわからん新規ボスが追加されたからだが。25年のオリジナル版を思い出してみると序盤だから全てが優し過ぎて逆にロスするの難しかった。
そう言えば、25年前のオリジナル版の時って…。
ザコはともかく、ボスに破れた後は1人反省会だったっけ。何が足りなかった?どこかで何かを取りこぼさなかったか?次はどう挑むか?
その機会を積み重ねるくらい強いボスだと、手書きの攻略ノートに特徴が書き加えられる事になったっけ。
まあ、今回は門前払いみたいなものだから考える材料ないんだけどな…。
「それにしても長い…」
なかなか消えない、オルバ村の自宅ベットに強制送還されないままに時間が過ぎて行く。
「ん? これは?」
何かエラーでも起きたか?とコンソールパネルを開いてみたら、点滅を繰り返しているところがあった。
「プレイデータ特典? あぁ、そう言えばそんなものあったな」
25年前のオリジナル版『ブレイヴ・ソウルズ』のプレイデータが入ったメモリカード。それをVRゴーグルにセットしてここへダイヴしたプレイヤーだけがもらえるものらしい。
「中身はプレイしてからのお楽しみ、だっけか?」
レトロゲームがフルダイヴでリメイクされた仮想空間型アミューズメントパーク『アナザー・ダイヴ・リワールド』。その受付係のフェアリーがそんな風にもったいつけやがった。
最初に転生シークエンスなどというロクでもないサービスを押し付けようとしやがった堕フェアリーにつき期待値ゼロ。もらった瞬間には存在を忘れてしまった様な特典だった。
「D装備セット?」
その中にあった【Dソウル】とか言う黄色く光る水晶の球の様なものの中に82:79という数字が見える。いや、81:83、81:69、瞬きする毎に減っている。
「こいつは、カウントダウンか!?」
そして、D装備セットの中には【Dブレイド】なるものも。
「俺は、まだロスしていない」
今置かれている状況にゲーマーとしての直感が反応した。
ロスしたはずがロス扱いにならず、タイムカントを続けるソウルの名を持つ謎のアイテムに、どういうものかよくわからん剣を持っている。
D装備セットのDって何だ?気になる事は色々とあるが、それを考えるのはこの後でいい。カウントダウンはもう79:61だ。
俺はDブレイドの柄を右手で握ると同時に立ち上がり『ケロガーEX301』に躍りかかった。
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