第8話 そこに刻まれし勇気②
「なっ、なんだ……。こんなのがどこに隠れていやがった……」
ガルザが振り返ると象を3頭ほど横並びにさせた様な巨躯を揺らす大蜘蛛。用心に用心を重ねて気配を探ったはずなのにこれほど大柄な相手を一切感じ取れなかったのである。
大蜘蛛は身体の右側の一番前に付いている歩足の爪で頭から串刺しにした男を持ち上げ、口元まで運びバリバリと音を立てて嚙み砕く。
「グォッ、グォッ、思った通りよ。どんな病にも効く薬草があると噂を振り撒けば食い物の方からやって来たわ」
「なっ……、なんだと!?」
「奇蹟、これこそ人間を釣る最高の餌よのぉ」
2人組の残った1人とガルザはたちまち大蜘蛛が尻の辺りから放った黒く粘々とした糸でからめとられ、張り巡らされた巣へと放り上げられた。
「くっ、こ、これではマリは……。何としても帰って俺が側にいてやらなければ……」
骨が砕かれる不快な音が止んだ。大蜘蛛は先にからめとった方の餌を食べ終えると、糸を伝ってガルザの方へのそりのそり。
「くそっ、俺はもうダメだ……。だが、マリを、マリの病だけは。神よ、いや、もう悪魔でも何でもいい、俺にチカラを!」
僅かばかり時を置き大蜘蛛の牙がガルザの喉に触れようかという寸前。天が眩い青白い光に包まれた。
大空に亀裂が走り眩い青白い光が降り注ぐと巣を形作る糸を完全に消し飛ばしていた。ガルザと大蜘蛛は大地に向かって落ちてゆく。
地面に叩きつけられた大蜘蛛が何とか身体を起こした途端、身体を震わせ始めていた。
「こっ、この輝きは、まさか…。あの者は魔王様が始末したはずではなかったか!?」
ガルザは青白い光に包まれ地面すれすれのところで仰向けに宙に浮いていた。額の上の辺りには同様の輝きを放つ光の球が浮いていた。
「え? 今、なんと? あなた様がチカラを貸して下さると」
光の球が幾度かチカチカと小さな輝きを発したのに合わせてガルザが言葉を発した。
「この輝き、確か昨日も?」
再び球が瞬く。
「そうでしたか、我がオルバ村にあなた様のチカラを受け継ぎし者が。では、その者に全てを託して、我が願いはっ」
青白く光る球が一際強い光を辺りに振り撒く。それが鎮まった時には球はいずこかへと消えていた。
その後に残ったのは、使い慣れた1本をナイフを逆手に構えたガルザだった。その表情はどこか幸福に満ちていた。
「頼むぞ、我が子、マルユ」
それから…。
大蜘蛛『デスタランテッド』は残った右側の歩足の爪で空間を斬って裂け目を作ると、右側の4本を巧みに操り身体を引きずる様に裂け目の奥へ消えて行った。
裂け目が閉じるとすぐの事。天から青白い光を放つ稲妻が落ちては1本の草を打った。そこらの草と何ら変わりのないただの草であったが、青白く眩い霧の様なものを吹き始めた。
この時、名も無きただの草は初めて名を得た。
【極上の癒し草】と。
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ブレイヴソウルに刻まれた記憶を見終えた。目を開いてすぐに、手に握りしめたものを見た。
「そうか、ブレイヴソウルを継承したのは草だったと」
RPGの基本中の基本でしかないお使いクエ。その中でも練習レベルの様な草摘みクエでしかなかったはずだが。
妻の病を癒すのは夫の願い。なんだかよくわかんほどの治癒力を持つ【極上の癒し草】誕生秘話みたいなものがあったか。
フルダイヴ化のリメイクに際して、単純に新規にボスを追加しただけというわけでもなかった様だな。
「ふっ、ゲームに帰省してみるもんだな」
さて、それはそうと、だ。
「少しばかり話が噛み合わないんだよな……」
俺が倒したのはカエルでムービーに出て来たヤツは蜘蛛だった。こいつは一体どうなってるんだ?と。
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