第3話 変わらぬ故郷と、変わった故郷と
「すぅ~~~~っ」
ようやく自由に動ける様になって、レトロRPGにはおなじみの民家を訪ねて周ってアイテムをくすねる窃盗行為を繰り返したところで一息入れる。牧草地に寝転がって背伸びしながらの深呼吸。
今頃、このオルバ村から遠く離れたガルダン王国の王都では勇者フォルゼの凱旋パレードが盛大に行われて歓声が飛び交っているんだろうけど。
ここで聴こえるのは牛や馬の鳴き声、はしゃいで転んだ子供の泣き声に回る風車のきしむ音。そういったものばかりだ。
思いっきり間隔を空けてポツン、ポツンと建っている民家に畑とか井戸とか。村の中の配置は25年前のオリジナル版と全く同じ、あの時何回も行き来したからどこに行けば何があるか手に取る様にわかった。まるで、生まれ育った故郷を散策するかの様に。
「いよいよ帰省らしくなってきたな」
フルダイヴ化された懐かしいゲーム世界の中で思う存分くつろぐ、癒される。これが遥か昔の子供時代にどっぷりとゲームにハマったおっさんゲーマーだからこその醍醐味。
「ぐぅ~~、ぐぅ~~、ぐごっ!」
寝ころんだ俺の背の下でちょうど布団の様になってくれている牧草の柔らかさを感じながらゴロンとしていた時に聞こえてきた。
これは、いびき?立ち上がって周囲を確かめてみる。
最初に村の中を駆け巡っている時はモブNPCくらいに思ってあまり気にしなかった村のあちらこちらで横になって眠る人々だが、よーく姿恰好を見るに俺と同じく主人公の少年の様。そして、いびきのかき方にどことなく漂うおっさん臭…。
「あぁ、彼らも」
プレイヤーだ。そう言えば『ブレイヴ・ソウルズ』はフルダイヴ型のVRMMOとしてリメイクされたんだったな。残念ながら初めてそう感じさせてくれた光景がそれだった…。
懐かしさに浸って、横になって、心地よくなって。中の人が寝落ちしたら忠実にそれを表わす主人公アバター…。俺も危うかった、浸りたい気持ちはわかるがああはならぬ様に気を付けたいものだ。
さて、自分の家だけが個人スペースとなっているのを確認して今日はとっととログアウトしようと思ったところで。何やら話し込んでいる2人のプレイヤーの声が。
「それにしても、こんなスタート地点の辺りに新規追加のモンスターが用意されてるとはな」
「確かこの辺りってレベル5もあれば余裕で歩き回れたはずなんだが。レベル10の俺を一撃で即死させるモンスターを配置するってヤバいよな……」
「フィールドに緊張感でももたせようとしたのかね~~。まあ、遭遇したら逃げる一択だ」
「逃げても追いつかれるけどな……。なぜか、ザコモンスターごときに……」
思わずコンソールパネルのログアウトに触れようとしていた指を引っ込めていた。そして2人の話にずっと耳を傾ける事になった。
どうやら【旅立ちの祠】の辺りにそいつは現れるらしい。その名前が示す様に、冒険を始めて真っ先に行く様な場所。
高熱を出して寝込んだ母親の為に【極上の癒し草】を手に入れたい子供の願いを叶える。そんな、いわゆるおつかいクエで、やる事は定番中の定番である草摘み。
超簡単なクエストのはずだったが、新規追加で現れたモンスター1匹のお陰でまだ誰もクリア出来ていないらしい。
「大丈夫かな? まさかのクソゲー化してないだろうな……」
待望のリメイクされてみたら酷評乱舞なんてよくある話だけに、ちと不安が過る…。
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「【旅立ちの祠】か、懐かしい」
最後のプレイが25年も前なので何周目かははっきりしない。大体、これで4周目?5周目?になるはずの『ブレイヴ・ソウルズ』リプレイ。
フルダイヴ化したので本当に帰省感覚でゆっくりのんびり思い出の地を巡るつもりでいた。何なら最初のクエストだってしばらく放置でいいと思っていた。
だが、結局…。
謎の強いモンスターがいるからというだけで釣られて来てしまった。レベルだって、もう15まで上げてしまったぞ。
参ったな、これじゃ俺は小学生の頃と何ら変わっていない。37歳にもなるガキじゃないか…。
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