第2話 勇者散華して

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「ぐっ……。こ、ここまでか……」


 うつ伏せに倒れ込んだ勇者フォルゼは息も絶え絶えだった。右手に握りしめた剣を杖代わりに何とか上半身を起こそうとしたものの刀身は鍔元で折れてしまっている。首をもたげる支えにするのが精々。


 目の前に転がっていた蒼き盾を見つけて左手を伸ばしたが掴む事は叶わなかった。彼の左肩から下は完全に失われてしまっていたのだから…。


 蒼き盾を挟んで更に視線の奥。今は一つしかない勇者フォルゼの瞳には暗灰色の衣に身を包んだ魔王ブルゼフの姿が映っていた。


「死に損ない逃す。己が死にかける。勇者愚かなり。」


 魔王ブルゼフが右腕を天に掲げて掌を開くと黒炎が噴き上げ黒き塊となって揺れていた。


「愚かなる。目障りなり」


「くっ、だけは何としても……。後は頼ん……」


 魔王の右手から放たれた黒き塊が轟音を鳴らす。やがて黒炎が爆ぜた跡には黒くすすけた人の形をした模様が遺るだけであった。


 だが、その直前の事である。膨れ上がる黒き爆炎に紛れるかの如く勇者フォルゼの身から一筋の青白い光が天に向かって駆け上っていた。そして、天上で激しくうねる様に躍った跡には。


『ブレイヴ・ソウルズ~受け継がれし者達~』


 その様な文字が青白い輝きを放ちながら浮かび上がっていた。そして、僅かに時をおいてそれは砕け散りいくつかの青白い光の球となっては四方八方へ飛び去った。




「そうだ、確かにこんな始まり方だったな」


 勇者フォルゼが後に続く者に託した【ブレイヴソウル】、それが天空にゲームタイトルを綴って締め括られるオープニングムービー。宙にふわふわと浮いた状態の俺はそれを約25年振りに鑑賞させてもらったところだ。


 だが、これは目撃したと言った方がいいかもしれないな。オリジナル版の頃の様にテレビ画面を通して見たのとは違って確かに俺の目の前で起こった様な感覚があるのだから。


 フルダイヴ化した事でキャラの息遣い、何と言うか体温を感じる様に確かにそこに人がいる気配まで伝わって来る臨場感。


 懐かしい様で、どこか初めて経験をしている様でもある不思議な感覚が胸の内に湧き上がるオープニングムービーだった。


 懐かしさの方に刺激されたか?記憶のどこかにこびりついていたものが騒ぎ始めた様な。


 俺だけじゃない


 君がなんで!?どうして!?


 ふざけるなっ!!


 ただただゲームで遊んでいただけの様で、何かと考えさせられたり、感情が爆発しそうになったりもあったっけ、12歳の俺は。


 この仮想空間型アミューズメントパーク『アナザー・ダイヴ・リワールド』でフルダイヴ型にリメイクされたレトロゲーム世界に入る事をなんて呼ぶ理由、何となく肌で感じられたかもしれない。


 さてと。いよいよ1主人公の旅が始まるか。あの頃と違って同級生たちとレベルの上がり具合とか、クリアまでにかかった日数を競っているわけでもない。


 「せっかく帰って来たんだ。今度はゆっくりと過ごそうか」



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「つうっ……。てててっ」


「オッ、オクラ!? 意識が戻ったのね!?」


「母ちゃん、俺、一体?」


 いや、ちょっとこれは驚いた…。ベースがレトロゲームなせいか、ストーリー上、どうしても言わなければ進まない台詞はオートで喋ってくれるみたいなのだが。


 自分で声を発しようとしなくても勝手に喋ってしまうのは、なんか憑依されたと言うか…、脳をハッキングでもされたとでも言えばいいか…。


 さて、今の俺の状態としては。畑で芋を掘っている最中に雷に打たれて気絶したまま寝込んでしまっていた子供。まあ、正確には雷じゃなくて勇者フォルゼが放ったブレイヴソウルの一つが直撃していた。


 で、ようやく主人公が目を覚まして母親が一安心。そんな感じで本格的にプレイ開始。確かそんなところだったな。


「それにしても目覚めるのが今日だなんて。あなたが憧れているよ」


 25年前の初見プレイでは思わず「へっ?」となったものだが、『ブレイヴ・ソウルズ』というゲームはこの様にして幕を上げるものだったな、と。

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