交差する二人 ~空港は運命の交差点~

ふもと かかし

交差する二人 ~空港は運命の交差点~

 男は30歳独身のビジネスマンだ。都内に本社を構える大手企業に勤めている。


「夏木君、来週の出張の件だが、木村君に別件が入ってしまった。申し訳ないが一人で行ってもらえるか」

「分かりました。資料は出来ていますし、プレゼン自体には支社の方も同行してくれるので問題ありません」

 上司から告げられれば、否応もない。ただ、幸いにも一人で大丈夫そうだったので、男は快諾した。


 女は25歳。つい先日彼氏に振られ独り身になったばかりである。


「あのね、優子。いつまでも落ち込んでちゃダメよ」

「それはそうだけど……幸せな由美には、振られてどん底の私の気持ちは分からないわ」

 親友の励ましも、3年付き合った彼氏と別れたばかりで、胸にぽっかりと穴が開いた女には伝わらなかった。

「確かに他人ひとの気持ち全ては分からないわよ。でもね、わかる部分もある。優子もこのままじゃ良くないと思ってる事とかね」

「由美……でも、パッと切り替えられないわ」

 自分を分かって貰えるというのは嬉しいものだ。親友の優しさに絆されて、女は本音を語る。


「そこでね、今週末こんな物を用意したわ」

 女の目の前に、沖縄旅行のパンフレットが差し出された。

「沖縄は惹かれるけど、一人旅はちょっと」

「バカね。私と二人に決まってるじゃん」

 女は驚いて親友の顔を見る。

「大丈夫、彼も理解してくれたし、何より優子に少しでも元気になって欲しくて」

「由美……」

 女は親友の気持ちを有難く頂く事にした。


 男は日曜日の夕方に、空港へ現れる。福岡出張の時は、いつも前乗りするのだ。宿泊代は自腹になるが、支社に仲の良い友人もいて最早一つのルーティーンと化している。

「一時間半前か」

 手土産も買って一息ついた男は、ベンチに腰を下ろした。


 女は少し浮ついている。楽しかった旅行の終わりを誤魔化す様に、空港に着いてからも親友と沖縄での思い出話をしていた。夢中になりすぎた女は、足を縺れさせてしまう。


 出発の一時間前になったので、男は保安検査に向かおうと腰を上げた。

「キャー」

 叫び声と共にバランスを崩した女が、男の方へ倒れこんで来る。何とか女は受け止めたものの、彼女の荷物はばら撒かれてしまった。

「すみません。ご迷惑をおかけしました」

「気にしないで下さい」

 男が荷物を拾うのを手伝うと、女達は謝罪をしてその場を立ち去る。


 男の手土産に女のスマホが紛れ込んでいて、繋がりが出来る事をまだこの時の二人は知らない。

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交差する二人 ~空港は運命の交差点~ ふもと かかし @humoto_kakashi

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