第9話 志摩と伊吹の決断
夜の深みが増す中、廃工場の周囲は冷たい風が吹き荒れ、まるでそこに潜む危険を知らせるかのようだった。志摩と伊吹は、NDSラボの前田奈緒美から受け取った座標を頼りに、犯人の居場所を特定するために廃工場へと急行していた。二人の背後には、数名の警察官が静かに従っていたが、現場に向かう車内は緊張に包まれていた。
「廃工場…まさか、こんなところが犯人のアジトだったとは。」伊吹が低い声で呟いた。
「やり手の犯人だ。都市のインフラを狙うだけあって、警戒すべき相手だ。」志摩が応じる。彼の表情には、いつも以上の鋭さが感じられた。時間がない。犯人が仕掛けた爆発物を阻止しなければ、都市全体が暗闇に沈む。それが彼らの目の前に突きつけられた現実だった。
廃工場に到着した二人は、無言のうちに目配せを交わし、即座に行動を開始した。工場の周囲を見渡すと、割れた窓や錆びついた鉄骨が異様なまでに不気味な雰囲気を醸し出している。足元に積もった瓦礫が、踏みしめるたびに嫌な音を立てる。
「行こう。」志摩が先に歩み出した。伊吹はその背中を追いながら、注意深く周囲を見渡した。いつ何が起こってもおかしくない状況だ。彼らは廃工場の入口にたどり着き、静かに扉を開けた。
中に入ると、闇が全てを包み込んでいた。彼らは懐中電灯の明かりを頼りに、慎重に歩みを進めた。工場内は広く、機械や廃材が無造作に放置されていたが、その中には何か異様なものを感じさせる空気が漂っていた。
「奴はどこかに隠れているはずだ。」志摩が低く呟いた。伊吹は頷き、周囲の影の中を鋭く見据えた。
突然、工場の奥から微かな光が漏れているのに気づいた。二人はその光源に向かって慎重に進み、息を潜めたまま様子を伺った。そこには、古びたデスクとノートパソコンが置かれており、その画面には複雑なコードが流れていた。
「見つけた…」伊吹が小さな声でつぶやいた。
しかし、その瞬間、二人の背後でかすかな足音が聞こえた。二人は瞬時に動き、銃を構えた。その音の主は、フードを被った男だった。彼の姿は闇に溶け込むように見えたが、その目は二人を冷酷に見つめていた。
「やはり来たか。」男は静かに口を開いた。「お前たちがここに来ることは想定済みだ。」
「お前が犯人か。」志摩が冷静に問いかけた。「今すぐに手を上げて投降しろ。これ以上無意味な抵抗をするな。」
しかし、男は口元に冷たい笑みを浮かべただけで、何も言わずに懐からリモコンを取り出した。
「やめろ!」伊吹が叫び、男に向かって飛びかかった。しかし、男は素早くリモコンのボタンを押そうとした。その瞬間、志摩が銃を発砲し、リモコンを弾き飛ばした。
「お前なんかに、この都市を壊させはしない!」志摩が怒りを込めて叫んだ。
男は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに冷酷な笑みを浮かべ、「まだ終わっていない。」と低く呟いた。その言葉を聞いた瞬間、志摩と伊吹は次の動きを予感し、同時に男に飛びかかった。
二人は男を押さえ込もうとしたが、男は予想以上に力強く、もつれ合いながら激しく床に転がった。工場内に響き渡る金属音が、彼らの激しい格闘を物語っていた。男は必死に抵抗し、再びリモコンに手を伸ばそうとしたが、志摩がその腕を強く押さえつけた。
「諦めろ!」志摩が力強く言い放った。
「この都市は…私たちが守る!」伊吹もまた全力で男を押さえつけた。リモコンは遠くへ転がり、男の手から完全に離れた。
「くそっ…!」男は歯ぎしりしながらも、ついに抵抗を諦めたように息を吐いた。
その瞬間、廃工場の入口から突入部隊が駆け込んできた。彼らは素早く男を取り囲み、手錠をかけた。志摩と伊吹は、ようやく男を押さえ込み、息を整える余裕を持った。
「終わったか…?」伊吹が息を切らしながら尋ねた。
「いや…まだだ。」志摩は険しい顔をして答えた。「奴が言っていた通り、他にも仲間がいる可能性がある。この都市を完全に守りきるまでは、まだ安心はできない。」
「だな…」伊吹は頷き、周囲を警戒し続けた。「だが、今は一つの危機を乗り越えた。次の戦いに備えよう。」
志摩はその言葉に無言で頷き、夜空を見上げた。暗い空には、まだ何も見えない。しかし、彼の心には確かな決意があった。どんなに困難な状況でも、彼らはこの都市を守り続ける。志摩と伊吹は、静かに次の行動を考え始めた。
そして、夜が明けるその時まで、彼らの戦いは続くのだった。
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