第7話 ターゲットの特定と爆発阻止への準備

夜の闇はますます深まり、空には雲が垂れ込め、まるで嵐の前の静けさのような不穏な空気が漂っていた。デイリーファーストの関東配送センター周辺は、消防車やパトカーの赤色灯が不規則に点滅し、現場の緊張感を一層際立たせていた。救助活動が続く中、残り12時間というタイムリミットが刻一刻と迫っていることを、現場にいるすべての人々が肌で感じ取っていた。


エレナは冷たい夜風を感じながら、テント内で忙しく働くNDSラボのメンバーたちを見つめていた。解析が進む中、次の爆発を阻止するために取れるべき手段を必死に考え続けていたが、どこかで焦りと不安が心の奥底で蠢いていた。


「私たちには、まだ時間がある。」エレナは自分に言い聞かせるように呟き、深く息を吸った。自分が冷静さを保たなければ、誰も信頼してくれないという責任感が彼女を支えていた。目の前のデジタル画面には、都市部の重要施設が次々と表示され、ターゲットとなり得る場所が浮かび上がっていた。


「奈緒美さん、進展はどうですか?」エレナはテントに入り、前田奈緒美の肩越しに画面を覗き込んだ。


奈緒美は画面から目を離さず、冷静に答えた。「犯人が設定したターゲットの候補がいくつか浮かび上がりました。このリストにある施設のうち、どれが最も危険性が高いかを特定する必要があります。それに、犯人が使用している遠隔操作システムの一部を解読しました。今、私たちは犯人が通信を行っている経路を追跡しています。」


「つまり、犯人がいる可能性のある場所も特定できるかもしれないということですね?」エレナは希望を見出そうと、その言葉に耳を傾けた。


「その通りです。ただし、まだ完全には解読できていません。さらに深く掘り下げる必要があります。」奈緒美の声には焦りは見られず、むしろ解決に向けた強い意志が感じられた。


その時、テントの外で強い風が吹き、幕が音を立てて揺れた。エレナは一瞬、外の音に気を取られたが、すぐに気を取り直し、再び画面に目を向けた。都市部の地図が詳細に表示され、マーカーで指定された施設が次々と浮かび上がる。


「これらの施設のうち、どこかに爆弾が仕掛けられている可能性が高いわけですね。」エレナは画面を凝視しながら呟いた。「まずは、どの施設が最も優先されるべきかを判断する必要があります。」


奈緒美は頷き、画面を指差した。「電力会社、通信センター、そして水道局。この3つの施設が最もリスクが高いと考えられます。特に電力会社がやられれば、都市全体が停電に陥り、次の行動が取れなくなる可能性があります。」


エレナはその言葉に身震いを感じた。「それが狙いかもしれません…都市を完全に麻痺させることで、さらに混乱を引き起こすつもりでしょう。」


その時、テントの入口に伊吹と志摩が現れた。伊吹は深刻な表情でエレナに近づき、短く報告を始めた。「電力会社のセキュリティシステムに不正アクセスの痕跡が見つかりました。おそらく、犯人は既にシステムに侵入している。」


「やはり…」エレナは思わず拳を握りしめた。「私たちには、もう時間がない。今すぐに動かなければ。」


奈緒美もまた、解析を中断し、エレナに向き直った。「私たちもすぐに電力会社に行きます。現地で直接システムをチェックし、さらに詳しい解析を行う必要があります。」


エレナはその言葉を聞き、すぐさま決断した。「わかりました。私たちもすぐに移動します。犯人が次の一手を打つ前に、必ず阻止しなければ。」


テント内に緊張感が走る中、NDSラボのメンバーたちも準備を始めた。機材を素早く収納し、次の作戦に備えるために動き出す。外の空気は一段と冷たくなり、深夜の闇が一層濃くなっていくのを感じた。


エレナは一瞬立ち止まり、夜空を見上げた。雲に覆われた空には星一つ見えず、ただ漆黒の闇が広がっていた。しかし、その闇の中に、彼女は希望を見出そうとしていた。どんなに暗い夜でも、必ず夜明けは訪れるはずだと信じて。


「必ず、この危機を乗り越えてみせる。」エレナは自分にそう誓い、前に進む覚悟を固めた。彼女たちが向かう場所には、まだ見ぬ敵と、残りわずかな時間が待ち構えている。それでも、希望を捨てずに戦うために、彼女はその一歩を踏み出した。

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