第37話 第10階層へ
「ここで逡巡していても、あの者達との差は開くばかり」
ヘルは僕らのやり取りを見て、言った。
「いずれにせよ、あなたは進まなければならない。私に告げる名はその先にある」
「う、うん……」
ともかく、僕らは第4階層の先へと進む。
次の抜け穴、第7階層まで通じている穴のある場所へ向かうために。
そこは第1階層から第4階層までを貫いている抜け穴と同じく、大長虫が第4階層から第7階層までを食い破ってできた穴だ。
そこへ至る道順には例外なく、ロイン達の通った痕跡が残されている。
すなわち、モンスターや悪魔の残骸だ。
血と暴力の跡。
虫みたいな外見の悪魔達が山のように滅んでいる、石造りの回廊。
そこをパキペキと踏みしめて先を急ぎながら、僕は呟いてしまった。
「……ロイン達こそ化け物染みてる……」
この階層の悪魔達は全滅してしまったのだろう。
もしくはロイン達のあまりの圧倒的強さに、自分達の属する地獄へ退避してしまったか。
「……随分、先を行かれちゃったんじゃない?」
ラットが僕からちょっと離れた所を歩きながら言った。
今、僕とラットはマジックミラー号に乗っていない。
僕とラットが近くに居過ぎてマジックミラーが発動したりしないように用心してのことだ。
えっちなことはいけないからね。
マジックミラー号は誰も口の中に入れず、ゲコゲコ言いながら僕らの後をついてきている。
「……確かに僕たちはこの第4階層ではロイン達に置いていかれてる」
僕は正直なところを言った。
「……でも、第7階層ではこうはいかないから。そこで追いつけると思う」
「……そうだね。あそこはモンスターを倒すだけじゃ先に進めないもんね」
ラットも頷いた。
第7階層はただ強いだけじゃ先に進めない。
罠を解除したり、謎解きをしなければ先に進めない階層だ。
罠はミャーンが外すだろうし、マミアナの知識があれば謎も解けるだろう。
ただ、ここ第4階層みたいにサクサク進めはしないはず。
うまくいけば、追いつくだけでなく出し抜けるかも……。
「……ただ、追いついちゃったら……ミャーンに見つからないよう、やっぱりマジックミラーは使わないとだよ?」
「それは……」
ラットの言葉に、僕は口ごもる。
「……そうなっちゃったらしょうがないよね? マジックミラー……使おうね?」
「……使わないで済むように、ロイン達とは適切な距離を取って頑張ろう!」
その適切な距離がどれくらいなのかわからんけど。
僕は適当なことを言った。
◆
そして、罠と謎かけの第7階層へ。
全部、ロイン達に先を越されてしまっていた。
罠も、謎解きも、封印された扉も全て。
落とし穴は、その壁面が力任せに破壊され、穴から抜け出せるようになっていた。穴の底に仕込まれていた槍はへし折られている。
毒矢の噴出孔も穴毎潰されていて最早用をなさない。
天井から突然降ってくる刃も全て弾かれていて、辺りに散乱するばかり。
元は底なし沼のように泥水の溜まっていたらしい深い穴ぼこは、周囲に中身の泥水を撒き散らして枯れていた。
謎を解かねば先に進めない廊下は、その隣の壁が破壊され抜け道を作られていた。
「ある者は誰からも相手にされず
またある者は全く旅をしない
そしてまたある者は結婚せず
ある王は税を上げた
なぜなのか? 彼等に共通する理由を1つだけ述べて先へ進め」
「この世で最も邪悪な食べ物の名を唱えよ。されば扉は開かれん」
などと、どこか鼻につく得意げさで書かれた謎解き看板が無益に揺れている。
……きっとこの謎かけを見てみんな頭を悩ますんやろうなあ、という顔がちらつく。
全く無視されてるけど。
と、まあ。
僕らの前には、そんな罠なんかが全部破壊されている、第8階層までの一本道ができていた。
破壊の後はまだ修復されていないままだ。
よくは知らないけど、ここは黒龍から漏れる力を利用して維持されているらしい。
一度作動した罠が再填されていたり、破壊されたダンジョン内施設がいつの間にか直っているのも、黒龍の力のおかげだって聞いたことがある。
黒龍は自分を閉じ込めているダンジョンの維持にその力を使われているのだそうだ。
「……まったく、力業じゃないか」
あまりに脳筋な第7階層突破方法に、僕は呆れる。
そして、それは続く第8階層、第9階層でも同じだった。
闇とアンデッドの支配する第8階層。
そこを支配するエリアボスのリッチは配下の死者達と共に粉砕され、復活待ちになっていた。
人造の機械人形などが黒龍への最後の門を守っている第9階層。
そこのエリアボスの巨大ゴーレムもばらばらに破壊されている。
彼等が守っていた下の階層へと続く門も力尽くで破壊されており、僕らはエリアボスたちの復活・討伐を経ずして先へ進むことができた。
「……ロイン達のお陰で、僕ら何もしないでここまで来れちゃったけど……」
僕は悪い予感でいっぱいだ。
「……これ、ほんとにロイン達に黒龍も先を倒されちゃってるかも……」
こんなに強いなんて予想外だ。
噂では、第10階層はただただ延々と続く一本道だとかいう話だ。
その道が黒龍へと繋がっている。
なら……ロイン達にその一本道を先に行かれたら、もう途中で追い抜くことはできないんじゃないか?
そして、この強さじゃさすがの黒龍も……。
「行けばわかる」
ヘルは短く述べ、第10階層へと続く、破壊された門を指し示した。
僕はラットを見た。
唯一第10階層を経験したことがあるラットに助言を求めるように。
「大丈夫だよ」
ラットは僕を励ますように言った。
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