第16話 誤解
ハ、ハ、ハ、ハルさんが、一緒に住まないかって。
一緒に住まないかって。
一緒に住まないか……一緒に住まないか……一緒に住まないか……。
その言葉が何度も頭で再生される。
その度にカルテの恋愛耐性皆無の脳は破壊されていた。
カルテは今ニヤけきった顔でハルと恋人繋ぎをして城に向かっている。
周囲の人々が心配になるほどの表情だったが、お構いなしだった。
ハルが歩みを速めてカルテの横に並び、その顔を見て目を見開く。
「カルテ!?」
「はい」
「大丈夫か!?」
「はい」
「そうか……」
「はい」
ハルは突然のカルテの豹変ぶりに違和感を禁じ得なかったが、ひとまずその言葉を信じることにした。
カルテの脳内で様々な未来へのハルとの人生設計が進んでいると、いつのまにか城の正門についていた。
「お待ち下さいお嬢さ、ま!?」
声に振り向くとリューゲの家の護衛が私の隣に立っていた。
「お嬢様、その、よろしいのですか?」
「よろしいのです」
「あ、あのー、体調などは大丈夫でしょうか?」
「だいじょうぶです」
「か、かしこまりました。それでは、私の任務はこれまでということで、通常業務に戻ります」
「はい。ごくろうさまでした」
「……本当に大丈夫ですか?」
「はい」
リューゲの護衛は門衛に変装の件を伝えると、そのまま先に城の中へと入っていった。
カルテがハルを三階の客間へと案内をする為に歩いていると、カルテに扮するリューゲと従者二人が待ち構えていた。
リューゲが口を開く。
「ハル様。再び城にお越し頂き、誠にありがとうございます。ただいま王は外出しておりますので、後ほど私の方でご案内させて頂きます。」
「ああ、その前に伝えておくことがある。耳を貸して欲しい」
「はい」
ハルがリューゲの耳元で小声で伝える。
「実はもうリューゲの正体を知ってるんだ」
そう言うとリューゲの目が見開かれる。
フレーガの偽装魔法が見破られるなど、かつてないことだ。
あまりにも驚愕的な発言だった。
しかしその次の発言はその上を行った。
「それで、家を買って一緒に住むことになったんだが、リューゲはそれでよかったか?」
「ええ!?」
思わず声が漏れた。
横で見ていた他の従者達もカルテに扮するリューゲのこのような狼狽を見たことは今までに無く、話の内容が気になって仕方が無かった。
だが、リューゲはそれでもすぐに頭を冷静に戻した。
そして自分に扮するカルテのことを見る。
その顔はフレーガの偽装魔法が失敗したのではと思えるほどの自分の間抜け面だった。
何かがおかしい。
そう直感したリューゲはハルから事情を聞き出す必要を感じた。
リューゲも二人だけで会話するように小声で話す。
「ハル様」
「なんだ?」
「なぜ一緒に住むことになったのですか?」
「……カルテの従者だから信用しているが、逆に聞く。そもそもなぜカルテはリューゲに偽装して俺の案内をすることになったのだ?」
「それは……」
リューゲは言葉に詰まった。
と同時に、大体の察しがついてしまった。
まず、カルテがリューゲに偽装しているのは人生で初めて恋をした相手であるハルを追いかける為だ。
褒美だの何だのはその為の屁理屈に過ぎない。
だが、そのことをハルに伝えるわけにはいかない。
ハルの存在は国家戦略に組み込まれるほどになるとリューゲは確信している。
カルテとハルの恋の行方は、支援こそすれ決して軽い気持ちで踏み込んではならないのだ。
代理告白など、出来るはずもない。
そして、今の状況に至った経緯は、次のようなものだろう。
カルテの偽装を見破ったハルは、なぜカルテが城外にいるか考えた。
ハルはそれが昨日の裏切りによって城の人間が信用ならないからだと考えた。
そこで住居を購入した際にハルの方から同居を提案したのだろう。
そしてそれを婚約と勘違いしたカルテはあのような状態になってしまったのだ。
そのように推測して、故に言葉に詰まった。
どのように伝えれば良いか。
「それは、後ほどお伝えさせて頂きます」
「……そうか」
「ハル様もご存知の通り、昨日の事件のこともあります。一度カルテ様と従者の私達でお話をさせて頂き、あらためて事情をご説明させて頂きます。申し訳ありませんが、少々お時間をくださいませ」
「わかった」
今はひとまずカルテと話した方が良いと判断したリューゲは、ハルを客間に案内してから、カルテの自室へと入った。
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