第8話 変装
城の正門から出ると、早速人々が俺に気づく。
「あんたさっき王女様と空を飛んでたやつだよな!?」
「見ない顔だがどっからやってきたんだい?」
「なんで王女様をお姫様抱っこしてたんだ!?」
「涼しい風を起こしてくれたのもあんただよな!気持ちよかったぜ!」
気づくや否や質問が飛んでくる。
すぐに人々が俺の周りに集まってきた。
そこをリューゲが俺の前に立って立ち止まらせてくれる。
「この方は王女様の命をお救いになった方です!ご無礼のなきよう!私は王女様の従者です!」
リューゲがそう言うと、騒ぎを聞きつけて集まった人々が顔を見合わせてざわつく。
「聞いたか?王女様の命を救ったらしいぞ」
「王女様を救ったって言うと、やっぱりすごいやつなんじゃないか?」
「そりゃあそうだ、あんな魔法見たことねえよ!」
静まったかと思いきや、話が拡散されて更に人が増えていく。
そうして後ろから押された人達が徐々に俺達に寄ってきた。
これは危険だ。
ひとまずここから退散しよう。
「リューゲ、飛ぶぞ!」
「え?あ!」
俺はリューゲの返事を待たず、お姫様抱っこにして空中に浮いた。
俺達がさっきまでいた場所はもう人の波で消えていた。
俺は5mほどの上空から集まった人々に向けて話す。
「俺はハルカゼだ!これからここに住むことになった!よろしく頼む!だが今はご飯が食べたい!すまないが質問にはまた後で答える!」
少し前からお腹がへこむような感覚があり、何かと思っていたが、お腹が減っていたのだ。
転生してからずっと飲まず食わずだったのだから当然だ。
だが、人に転生したばかりの俺はこれが食欲だということをようやく理解した。
人に転生して初めての食事。
それを思うと、ワクワクしてきた。
「そんなわけで、またあとで!」
そう言って俺はひとまず城の近くから離れて街の外れまで飛んでいった。
徐々に人々の反応も薄くなってきたので、人のいない路地裏を探して着地した。
「ふう。ここならひとまず大丈夫だろう。さて、じゃあ料理屋を探すか」
「ちょっと待ってください!まずは服を変えた方が良いかと思います。皆、ハルさ、ハル様が空を飛んでいた時の服を覚えていると思うんです。逆に、顔は遠くてあまり見えていないので、服さえ変えれば誤魔化せるかと」
「なるほど。それは言えてるな」
「私も今のままでは城の人間だとわかってしまうので、一緒に服を変えたいと思います」
「わかった。じゃあまずは服屋を探すか」
「はい!」
「ところで」
「はい?」
「リューゲはカルテの姉妹なのか?」
「え!?な、なぜですか?」
「なんか、話してる感じが似てる気がしてな」
「そ、そんなことはありませんとも!わ、わっはっは!」
「そうか」
「そうですとも!」
リューゲはたしかにカルテの従者の一人だったと思うが、話してみるとどこかカルテに似ているように思えた。
勝手に重ねているだけかもしれないな。
とりあえず、服屋を探そう。
路地裏を出て適当に歩いてみる。
城の付近とは違って、人自体が少ない場所で、見られても反応が無い。
落ち着いて探せそうだ。
そして、数分ほど歩いたところで服屋が見つかった。
「ここで大丈夫か?」
「はい。一般的な王都民向けの服が揃っているようです。ここにしましょう」
「わかった」
そのこじんまりとした服屋に入ると、女が一人暇そうにカウンターに座っていた。
リューゲと共にずらりと並ぶ服を見ているが、正直俺には何を着るのがいいのかさっぱりわからない。
ここはリューゲに任せてみよう。
「リューゲ」
「はい」
「すまないが俺の分も選んでくれないか?何を着たらいいのかさっぱり分からないんだ」
「はい。もちろんです。喜んでお選びいたします」
「すまない。まかせた」
すると、リューゲがほいほいほいと勢いよく選んで片手に乗せていく。
「すいません!試着したいのですが!」
「そこの奥の部屋を使いな」
「はい!さあ、ハルさん、こちらです!」
「あ、ああ」
リューゲのあまりの勢いに押されて部屋に入る。
「それでは、まずはこちらからお願いしてもよろしいでしょうか?」
「わかった」
リューゲに上下の服を渡されたので早速着替える。
リューゲは着替えている最中は後ろを向いている。
「これでどうだ?」
「素晴らしいです。買います」
「そ、そうか。じゃあこれで決まりだな」
「あ……いえ、すいません、念の為にいくつか他の服の試着もお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ん?構わんが」
「ありがとうございます!それでは、次はこちらを……」
結局、五回試着したところでリューゲによる服の選考は終わった。
どれを買うのかと聞いたら念の為に全てを買うということになった。
そのリューゲは自分の服は試着もせずに購入して着替えていた。
そうして、俺達はありふれた王都民の格好になった。
余った服は一緒に買った大きな袋に入れてある。
服屋を出て少し歩いてみたが、まるで気づかれる様子が無い。
「上手くいったみたいだな。誰も俺に気づかないみたいだ」
「ですね!」
リューゲも満足気に微笑む。
「よし、じゃあ料理屋を探すか!」
「はい!」
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