第7話 王女との別れ
王様達と別れた俺はカルテに城の中を案内されていた。
後ろにはカルテの従者という女が三人ついてきていた。
一階は主に城に仕える騎士や魔法使い達の生活の場で、寮や食堂、座学の教室等があった。
昼時の今の時間はほとんどが出ていて、がらんとしていた。
二階には大きな図書室や資料室、また、大臣達の執務を行う為の部屋等があり、文官達が忙しくしていた。
彼らはカルテを見るなりその場に静止してお辞儀をしてくるので、俺はとりあえずカルテに倣って薄く微笑みをつくって軽く会釈してそのまま歩いた。
王女ともなると街中からこのように挨拶をされる身分なのだ。
自分ならとても疲れそうだなと思った。
三階には主に王族と従者の私室があり、王の執務室や貴族達を招く為の大きな会場もあった。
ここでカルテの部屋に寄るのかと思いきや、カルテは「見せたいものがある」といい更に階段を昇る。
すると、城の屋上に出た。
屋上には更に見張り台があり、その階段を昇る。
辿り着いた場所からは、前後左右、街の全景が見えた。
「ここは、私のお気に入りの場所です」
「カルテは街の景色を眺めるのが好きなんだな」
「ふふ、そうですね。何か嫌なことがあったりすると、ここに来れば忘れられるんです」
「なるほどな」
「今は夏ですから、色んなところに花が咲いてるでしょう?秋には外の山が赤や黄色に変わるんですよ。冬にはその山が雪山になります。春には夏とは違った花が咲きます」
そう話すカルテは愛おしそうに街を眺めている。
「でも、ハルさんがさっき見せてくれた景色は、今までに見たどんなものよりも綺麗でした」
「ハハ、大げさな」
「本気ですよ」
カルテは微笑みながら言う。
「ハルさん」
「ん?」
「あのですね……えっと……」
「どうした?」
「わ、わたし……と……」
「うん?」
「わた、わ、わた、綿菓子っていうお菓子が最近街で流行ってましてー!」
「綿菓子か」
「ご存知なんですか?」
「ああ、食べたことはないけどな。前世の家族がたまに買ってきていた」
「そうなんですね。そっか。ハルさんは生まれたばかりだけど、前世ではずっと生きてたんですもんね」
「まあな。でも人として生きるのは初めてだ。だから、色々なことを経験したいと思ってる」
「……ハルさんはこれからどうなさるおつもりですか?」
「まだ考えてないな。人をもっと知りたい。俺はまだカルテとしかまともに話してないんだ」
「そう……ですよね」
カルテはなぜか悲しそうな顔になったが、何かを決心したように真面目な顔になった。
「では、ひとまず王都で生活してみてはいかがでしょうか?」
「この街で暮らすということか?」
「はい。ここには様々な人がいますから、色々な人を見て、接するうちに、したいことが見えてくるかもしれません」
「……そうだな。その通りだと思う。ここで暮らす、か。うん。そうしてみるよ」
「それはよかったです。ハルさんがこの街にいるなら私も嬉しいですから。では、生活に必要なお金をお渡ししないといけませんね。また歩きますが、どうぞついてきてください」
「ああ、助かるよ」
そしてまたカルテが先導して見張り台から降りた。
屋上で待機していたカルテの従者達は何やらソワソワしていたが、カルテの顔を見るなり驚愕の顔になり、近寄ろうとしたところをカルテに制止されていた。
カルテは昇る時と違って歩くのが早く、後ろを歩く俺からは表情が見えない。
だが、カルテの様子が少し違うことに、俺も心配になった。
三階に降りてカルテの部屋の前に着くと、カルテは従者二人と共に部屋に入っていった。
従者の一人は俺と部屋の前で待機している。
「ご準備に少々時間がかかるかもしれません。お待ちくださいませ」
「ああ、問題無い」
十分ほど経ってカルテがいくつかの袋を持って出てきた。
「こちらが金貨の入った袋になります。合計で二十枚入っています。十枚もあれば王都の一般的な家が買えるかと思います。こちらには銀貨二十枚。こちらには銅貨が百枚入っています。ほとんどの店の料理は銅貨一枚で提供しているので、こちらを出せば大丈夫です。あとは色々なものがあるので、見比べながら相場を知ると良いと思います」
「わかった。こんなにたくさん、いいのか?」
「はい。もちろんです。少なすぎるほどですよ」
「そうか?まああまり遠慮しても悪いからな、ありがたく貰おう」
俺が三つの袋を受け取ると、従者が紐を使って、その三つを腰に括りつけてくれた。
「それでは、ここでお別れですね。この度は誠にありがとうございました。リューゲ、ついでに街をご案内して差し上げなさい」
「はい。王女様。お任せくださいませ」
「いや、大丈夫だ。街は俺一人で適当に歩くよ」
「いえいえ、ハルさ、ゴホン、ハル様は先ほど街中の人々から目撃されています。もしかしたら悪い人が狙っているかもしれません。王女様の恩人に対してそのような危険があっては国の名誉に関わります。どうぞ、私をお連れください」
「そうか。わかった。では、お願いしよう」
「はい!それでは王女様、行ってまいります!」
そうして、カルテと別れた。
思えば、この世界に転生してから、ほとんど一緒にいたんだな。
それに俺の秘密を伝えた唯一の人でもある。
そんなカルテとの別れは、少し寂しく思えた。
そして、やけに張り切っている従者と街を散策することになった。
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