第6話 王都を冷房する

 広場に着くと、カルテをお姫様抱っこの状態から降ろした。

 すぐに俺の周りに兵士がやって来たが、王様が「よい」と言って制止する。


「ハルさん。少し待っていてくださいね」

「ああ」


 そう言うなり、カルテは王様の元へと歩いていった。

 俺はどうしていいか分からなかったので、ひとまずその場で立っていた。


「カルテ。これは一体どういう事かな?」

「お父様。ヴァイト伯爵との会合の帰り道でシュレヒトが裏切り、護衛が皆やられてしまいました。彼はそんな時に現れ、救って頂いた大恩のある方でございます」

「なんと!シュレヒトが……そうであったか。それは辛かったであろう。寄りなさい、カルテよ」


 王様はカルテを呼び寄せると、少しの間ハグをして、次いで両肩を掴んで顔を見る。


「無事なのかね?どこも怪我は無いのかね?」

「はい。私は大丈夫です。彼が命を賭けて救ってくれました」

「そうか。その恩には全力で答えねばなるまいな。わかった。さがるがよい。」

「はい」


 王様の元から帰ってきたカルテが俺の隣に並び立つ。

 王様が俺を見て口を開く。


「我が名はクール・クールン。クールン王国国王だ。其方、名前を聞かせてもらえるかな?」

「は!ハルカゼと申します」

「ハル・カゼよ。この度は我が娘カルテを窮地から救ってくれたとのこと、心より感謝を申し上げる」

「は!」

「ついてはその大恩に相応しい褒美を贈りたい。何か欲しいものは無いかね?」

「いえ!特には!」

「遠慮せずともよい。ここで褒美を贈らねば王としての沽券に関わるというものだ」


 と、そこでカルテが口を挟む。


「お父様。それについてですが、私からも彼に話したところ、何もいらないと言うのです。が、話を聞くとお金を持っていないとの事でしたので、少額の金銭を頂ければ、との事でした」

「そうであったか。それでは金貨10万枚ほど……」

「ですが、もうひとつ。彼は類稀なる風魔法の使い手なのです。その実力は、おそらくクールン王国でも随一のものでしょう。そのような方に対して少額の金銭では釣り合わないと考えます」

「ほう。それほどの者なのかね。どれ、ハルよ、よければその実力を見せてはもらえまいか?」

「は!」

「ただ、少し待ってくれ。おい、誰か賢者のヴァイズを呼んできてくれ」


 何やら話が大きくなってる気がするが、カルテがなんとかしてくれることを祈ろう。

 少しして、賢者と言われた人が城の中からやってきた。

 白髪の長い髭で、ローブを着ていて、大きな杖を持っている。


「ほっほっほ、王様から直接実力を測ってほしいと言われたことなど初めてじゃわい。楽しみにしておるぞ若いの」


 賢者は楽しげに俺を見ている。

 と言っても何をすればいいだろうか。

 とりあえず、何をするにしても周りに人のいるここでは危ないだろう。

 俺は風魔法で城の上空へと飛んだ。


「風魔法で飛んだじゃと!?それもあんなに綺麗な動きで!凄まじく精密な制御じゃ!」

「ヴァイズは城の中にいたから知らないだろうが、先ほどまでカルテをお姫様抱っこしながら城の上空を飛んでいたのだ」

「お父様、ハル様は18歳だとのことです」

「む?お、おう。そうかね」


 そんなやり取りがあるとも知らず、俺は城の上空で静止して、次に何をしようか考える。

 そういえば、日が昇ってきたからか、かなり暑くなってきたように思う。

 今の季節はいつなんだろう?

 少なくとも冬じゃないはずだ。

 貴族達はゴテゴテした服を着ているが、庶民は皆半袖だった。

 貴族達は暑いのを我慢しているのでは?

 皆に冷風を送ったら喜んでくれるだろうか。

 よし。

 冷房だ。

 俺はイメージで送風ファンと共に室外機を起動させる。

 設定温度は25℃。

 長時間だと人によっては寒いかもしれないが、まあ、すぐに終わるしいいだろう。

 街全体に風を送るには風量も必要だ。

 風量をこの世界で初めて4にしてみる。

 かなりの強風だ。

 城から距離をとっておいてよかった。

 俺はサーキュレーターの首振りのように城の周囲360度に冷風を送る。

 完了だ。

 あまり送っても寒いかもしれないからな。

 こんなものだろう。

 俺は高度を下げていく。

 下を見ると賢者が口を大きく開けてこちらを見ている。

 そこで気づいた。

 そういえばこの人に実力を見せるというのが目的だった。

 つい冷房してしまうあたり、やはりエアコンだな。

 俺は苦笑しながら地面におりる。


「ハルさん!とても涼しくて気持ちのいい風です!」

「ハルよ。心地よい風だ。感謝する」

「それはよかったです」


 どうやら思った通り貴族達は暑かったのだろう。

 周りの兵士達も心なしか表情が良く見える。

 そんな様子を見ていると、賢者が近寄ってきた。


「ハルとか言ったかの」

「はい。ハルカゼです」

「おぬし、その魔法はどこで学んだのじゃ?」

「どこで……い、田舎で」

「教えたくないというわけか。まあよかろう。あのような魔法は常道では決して辿り着けん。真似を出来るとも思えん。知るだけ意味の無いことじゃ」


 賢者はそう言うと王の元へと歩いていき、評価を下す。


「王よ。あの者の風魔法はわしすらも凌ぐ。あれは天才がその一生を風魔法に捧げてようやく追いつけるかどうかと言ったところじゃろう」

「それほどか!」

「あれほどまでに精密な風の制御、更に風の質も自由に変更でき、威力はまだまだ底が知れん。風魔法の神、風神と呼ぶに相応しい実力じゃ」

「ヴァイズをもってそこまで言わしめるとは……これは褒美どころの話ではなくなってしまったな」


 そこにカルテが口を挟む。


「お父様。その件ですが私に考えがあります」

「うむ、聞こう」

「ハル様のご事情もございますので、今は詳しくお伝えすることはできません。後ほど、説明させて頂きます。ひとまずは、ハル様が望んでいらっしゃる少額の金銭を差し上げたいと思いますが、いかがでしょうか?」

「ふむ……わかった。ハルのことを最も理解するカルテに後のことは任せようと思う」

「はい。お任せください」

「ハルよ。あらためて、娘を救ってくれたこと、一人の父親として心より感謝を申し上げる」

「は!もったいなきお言葉です」

「それでは、下がってよいぞ。カルテよ、あとは任せた」

「はい!」

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