第5話 城の上空で

「ハルさん!今何歳なんですか?」

「わからない!生まれたばかりだ!」

「そうですよね!でも、他の人に聞かれたらちょっとややこしい事になるので、18歳ということにしておきましょう!」

「たしかに!わかった!俺は18歳だ!」

「はい!ちなみに、私も18歳です!」

「そうか!」

「はい!ちなみに、結婚は18歳から可能です!」

「そうか!」


 風魔法を使用して空を飛んでいる為、強風で聴き取りづらい中での会話になる。

 今も背中にカルテを背負いながら、大声で会話をしていた。


「あとは、何か聞かれたら田舎に住んでいたからわからないと言えば大丈夫です!」

「なるほど!」

「あと!きっと、父は褒美を与えようとすると思います!」

「いらないぞ!少しお金があれば生きていける!」

「えっと!ちょっと待ってくださいね!」

「わかった!」


 カルテは何かを考えているようだ。

 褒美を貰えるのは嬉しいが、何か見返りが欲しくて助けたわけじゃない。

 まずは生きられれば、それでいいのだ。


「ハルさん!」

「なんだ!」

「それでいいかもしれません!」

「どういうことだ!」

「何か欲しがると印象が悪くなるかもしれないので!」

「そうか!」

「あとは私の方で説得します!」

「ん?そうか!」


 説得というのは分からなかったが、事前に色々と決めてくれたのは助かった。

 話している間にも俺達はぐんぐん進んでおり、草原を越え、森を越え、畑が見えてきて、小さな村が見えてきた。

 家が数十件ほど集まっているその村の人々が、俺達のことを指差している。


「寄らなくても大丈夫か!?」

「大丈夫です!」

「わかった!このまま行く!」

「はい!」


 更に進んでいく。

 似たような村を幾つも越える。

 細い道が大きな道に変わる。

 人が増えてきた。

 俺達に気づく人も増えていく。

 俺の背中にいるのが王女だと気づいて「王女様だ」と叫ぶ人もいる。

 俺はあらためて自分の背中にいるのが王女だと思い知る。

 その役目に少しでも相応しくなるよう、気を引き締める。

 更に進む。

 川を越える。

 橋を越える。

 道が綺麗なものになる。

 そして、大きな街が見えてきた。

 街の中心には、大きな城も見える。


「あれがクールン王国の王都です!」

「大きいな!」


 建物が密集している。

 どこもかしこも建物だらけだ。

 その合間には道があり、沢山の人々が行き交っている。

 ぽつぽつと人々が俺達に気づき始める。

 気づいた人々が声をかけ、その周りの人が気づく。

 建物の中からも人が出てきてこちらを見る。

 それが瞬く間に広がっていき、道には多くの人々が賑わう。

 皆が俺達を見て、指を差したり、指笛を鳴らしたり、万歳をしたり。

 「王女様万歳」という声がよく聞こえる。


「さすがだな!」

「一応、王女なので!」

「ハハ!慕われてるな!」

「日頃の行いが良いので!」

「自分で言うな!」

「あはは!」


 なんだか愉快になって俺達は笑い合う。

 と、大きな城がそこに迫っていた。


「どこに降りたらいい!?」

「えっと!その前に!私を抱っこしてください!」

「抱っこ!?」

「はい!お姫様抱っこです!」


 よくわからないが城の上空でカルテを背中から動かしてお姫様抱っこに切り替える。


「ありがとうございます!ついでに一度もっと高くまで飛んでもらえますか!」

「わかった!」


 俺はカルテをお姫様抱っこしたまま城の上空を更に高く飛ぶ。

 街が一望できるほどの高さになった。

 あらためて眺めると、綺麗な街だ。

 周りをぐるりと川が囲い、要所要所で木や花が街を彩っている。

 もしかしたらカルテの意見も反映されてるのかもな。

 俺はカルテを見る。

 彼女はお姫様抱っこの体勢のまま眼下の街を眺めている。

 その少し頬を上気させた表情からは、誇りや街への愛が感じられた。

 静かに眺めたいだろうな。

 俺は風量を調整してなるべく音を出さないようにする。

 そのまま、ゆっくりと高度を下げていく。


「綺麗な街だな」

「でしょう?あそこのお花畑は私がお願いしてつくってもらったんですよ」

「ああ、綺麗だ」

「私、この街が大好きなんですよ」


 カルテが俺を見て微笑む。

 屈託の無い笑顔だ。

 その笑顔を見て、桜のことを思い出した。

 俺は、この子を笑顔に出来た。

 今度こそ救えたんだな。

 何とも言えない達成感に、俺も微笑む。

 と、下が何やら騒々しい。

 いや、騒々しいなんてもんじゃない。

 高度が下がれば下がるほど、街がすごい状況になっていることが見えてきた。

 城の周りが人で埋め尽くされていた。

 道は人でぎゅうぎゅうになり、屋根にもびっしりと人がいる。

 道の中央に大きな樽が何個も置かれ、そこから酒を周りの大人に配っている。

 子供は親の肩車に乗ってこっちに両手をブンブンと振っている。


「何かしてあげた方がいいんじゃないか?」

「と言いますと?」

「手を振ってあげるとか」

「なるほど!やってみます!」


 そう言うなり、カルテは人々に手を振った。

 すると――。


「うおおおおおおおおおおおおおおお」

「王女様ーーーーー!!!」

「王女様バンザーーーイ!!!」

「おめでとうーーーーーー!!!」


 街が揺れているんじゃないかと思うほどの大騒ぎになった。

 そんな中に、城の広場の中央に複数人と共にこちらをじっと見つめている人がいる。

 一人だけ格好が誰よりも豪華に見える。

 あの人が王様か。

 面倒なことにならないといいが。

 まあ、先程どう答えればいいか打ち合わせをしたし、何とかなるだろう。

 俺はゆっくりとその広場へと降りていった。

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