第4話 空を飛ぶ
「それで、これからどこに向かうんだ?」
「まずは城へ帰還をしたいと思っております。状況の説明をしなければなりませんので」
「それはどれくらい歩くんだ?すまない、この辺りの地理について詳しくないんだ」
「そうなのですね。馬車で残り丸一日かかる予定でしたので、歩くとなりますと三日はかかるかもしれません」
「そうか。それは少し遠いな。カルテも野宿はきついだろう。すぐに行けるような魔法は無いのか?」
「転移魔法というのはあるのですが、私には使えず……。わ、私はたまにはのんびりと野宿したりもいいかな~なんて、あはは」
「そういうわけには……あ、そうだ。さっきの風魔法を使って飛べないだろうか」
「風魔法で、ですか?空を飛ぶことに特化した飛行魔法というのはありますが、風魔法でとなりますと風の扱いに相当長けてないと難しいかと思います。出来たという人は聞いたことはありませんが……」
「それなら大丈夫だ。俺は生涯をかけてずっと風を使ってきたんだ。なんとかなるはずだ」
「生涯をかけて、ですか?」
「あ」
カルテが不思議そうな顔でこちらを見ている。
前世のことは話してしまってもいいんだろうか。
まあいいか。
これも何かの縁だ。
一人くらい、俺の秘密を知る人がいたっていいだろう。
「実は俺はついさっき転生したばかりなんだ。前世では人に風を送る道具だった」
「ええ!?!?」
「このことは秘密で頼む」
「い、いや、と言いますか、本当ですか?とても信じられませんが……すごい自然に人ですよね」
「ああ、ずっと人を見てきたんだ。ずっと人になりたくて、そう願っていたら、俺が道具としての命を終えた時に神様が俺を人にしてくれたんだ。だから、人に見えるなら嬉しいな」
「ええもう、とても人ですよ。完璧です。最高です」
「お、おう?そうか、それはよかった。まあそんなわけだから、風魔法には自信があるんだ」
「なるほど。私も魔法には多少の心得がございます。二人で力を合わせればなんとかなるかもしれません」
「それは助かるな。じゃあ、とりあえず、空中に受けるか試してみる。少し待っていてくれ」
「はい」
俺はそう言ってカルテから少し距離を取った。
再びイメージで送風ファンを回転させていく。
風量は1。
風が体の周囲から発生し、前方に向かって吹き付ける。
その風向きを真下に変える。
体が少し浮いた。
「浮きましたね!」
「ああ。だが、まだだ」
そのまま風量を2に上げる。
今度は浮くだけでなく上に向かって加速する。
一気に10mほど上空に浮いた。
少し強すぎるようだ。
風量を0から2の間で高速切替をして調整し、更に逆風を加えたり風を体の横を通り抜けさせたりして位置を調整する。
速度や位置の調整は問題無さそうだ。
俺は地面に着く。
「すごいです!風魔法でこんなに自由自在に飛んでしまうなんて!」
「ああ、思った以上に俺の思い通りになるようだ。ほら」
俺はカルテの周囲に風を起こし、少しだけ浮かせてみせる。
「きゃ!って、浮いてる!」
「ハハ、大丈夫だろ?このくらいなら簡単にできるみたいだ」
カルテを地面にゆっくりと着地させる。
カルテは俺のことを見て目をパチクリさせている。
「本当に転生したばかりなんですか……?」
「ん?ああ、体は大きいけどな」
「こんなに風魔法を上手に扱う人なんて見たことありませんよ。城に着いたらぜひ皆に紹介させてください!」
「あ、ああ」
カルテがグイっと前に出てくるので、つい応じてしまった。
王女ということは当然王族に紹介されるということだろう。
面倒なことにならないといいが……。
「まあとにかく、無事に帰ってからだな。よし、じゃあ俺に掴まってくれ」
「はい。掴まらないと一緒に飛べませんからね」
そう言ってカルテは俺の背中からきつく抱き締めて密着する。
「強くないか?」
「いえ、念の為です」
「そうか?」
「はい」
「そうか。じゃあ飛ぶぞ。方向は指示してくれ」
「はい!」
風魔法を起動する。
風量と風向きを調整してまっすぐ上空に飛ぶ。
100mくらいまであがっただろうか。
遠くの景色まで見えるようになってきた。
山と森が遠くに見えて下には草原と湖が広がっている。
上を見ると、さっきまで朝焼けだった空はすっかり青空になっている。
空気がとても澄んでいる。
気持ちのいい風が俺とカルテを包む。
「とても気持ちいいです!」
「そうだな!」
「こんな景色は初めて見ました!」
「俺もだ!」
二人で景色を眺める。
少しして、カルテが俺の背後から指を差す。
「ハルさん!あちらの方角です!」
「わかった!いくぞ!」
カルテの指し示した方角へ二人で加速していく。
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