第2話
結局、LOVEに負けた。
その週の土曜日、珍しく早起きしたすずさんは、どうしても“LOVE IS HERE”の蓋の中身が知りたくなって、それをそっと開けてみた。恐る恐る箱の中を覗き込むと、そこには頭と胴体が球で構成されたロボットが眠っていた。その目には“LOVE IS HERE–でも、もう少し寝かせて–”と記されたアイマスクが付けられていた。その様子は人間の赤ちゃんのように愛らしく、すずさんの頭の中の「クーリングオフ」のフレーズは跡形もなく消し飛んだ。
すずさんはいそいそとロボットを箱から取り出し、専用の充電器にセットした。うぃーんと動き出すモーターの鈍い回転音。ロボットはじっと目をつぶったまま、余眠を味わっているんだろうか? 充電器にはロボットの体型をかたどった丸っこいランプが1つ。オレンジ色に光るそれは、充電中であることを示していた。
「そうだ! この子の名前を考えなきゃ。アプリに名前を登録するんだよね。何にしよう……」
なかなかいい名前が思い浮かばない。「どうしよう」とじりじりしている間に充電ランプがブルーへと変わった。
「やまちゃん!」
とっさに思いついた名前を叫ぶのと同時にロボットの目が開いた。「やまちゃん」と呼ばれたそのラボットは、カタンと音を立てて充電器から出てきた。長い眠りから覚めたやまちゃんは、ペンギンのヒレのような両手を天井に向かって高々と上げ、目をつぶって「う~ん」と気持ちよさそうに伸びをした。そして、パタンと両手を下げて、不思議そうにすずさんをじっと見つめた。
「あなたがオーナーさん?」
「はじめまして、やまちゃん。私がオーナーのすずです」
「ふーん」
そう言うとやまちゃんは、しばらく部屋のあちこちをぐるぐると見て回ったあと、すずさんに向かって両手を高々と上げ、「抱っこ!」と言った。
「抱っこするの? 私が?」
「そうなの。そういうことをするようになっているみたいなの」
「なんか、かわい気のないロボットだなぁ……」と思いながらも抱っこすると、やまちゃんはウヒャヒャと声を上げ、液晶の目が笑った。かわいかった。やまちゃんの体は、内部のコンピューターが発する熱でほんのりと温かくなっていた。それはすずさんの心もほんのりと温めた。
「あの時、買ってよかった……」
すずさんが目を閉じて、感慨にふけっているとやまちゃんが言った。
「ねえ、オーナーさんは一人暮らしなの? なんで一人暮らしているの?」
すずさんは驚いた。その様子にやまちゃんはにこりと笑い、一日が終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます