ロボットやまちゃんと一日の終わり
@yamato_b
第1話
「一人になっちゃったなぁ……」
文具メーカーに勤める28歳のすずさんはこの日、残業を終えて帰宅するとコンビニの袋からガザゴソと缶酎ハイとプロセスチーズを取り出し、ちびちびと飲みながらテレビのスイッチを入れた。
テレビの画面ではお笑い芸人たちがワーワーギャーギャーと騒いでいる。何を言っているのかわからない。別に知りたくもない。ただ、無音でいるのが嫌だった。
スマホの電源を入れてメールを開く。この1カ月間もう何回見たことだろう。彼氏からの“ごめん、別れたい”というメッセージ。何度も電話したがつながらない。“なぜ?”のメッセージを送っても既読にはならない。もう、諦めた。体の中が空っぽになった感じ。空っぽの体に缶酎ハイを流し込み、プロセスチーズをかじる。ほんの少しだけ満たされた気分になる。逆に空っぽになる酎ハイの缶。また1本、プシュっと開ける。
こうして毎晩、テーブルの上が酎ハイの空き缶の山となる。3本目の缶酎ハイを開けた時、マンションのインターフォンが鳴った。モニターを見ると、宅配の男性がペコリと頭を下げた。
「お届け物です」
マンションのドアロックを解除する。やがて響く玄関のチャイム。鍵を外してドアを開く。
「こんばんは。お届け物です」
ドアの向こうにあったのは、厳重に包装された大きな2つの段ボール箱。「天地無用、精密機械」と大きくプリントしてある。
「これ、なんですか?」
「えっ、ご注文の品ですよ」
「あのう……注文した覚えがないんですけど」
「伝票を見るかぎり、ご注文されていますよ」
その伝票を見ると、送り主はベンチャー系の最近注目されているロボット開発メーカーだった。そして、注文の日付を見ると、1カ月前になっていた。
「あっ、あの日だ……」
すぐに思い出した。彼氏からの別れのメッセージが届いたあの日。缶酎ハイで泥酔していたので記憶が定かではないが、酔ったあげく寂しさに耐えかね、ネットで何か高額商品をポチっとした覚えが微かにある。
「そうか、これか……」
「毎度ありがとうございます!」
伝票にサインをすると、宅配の男性は風のように去っていった。で、どうしよう?
とりあえず、段ボール箱を開けてみた。“LOVE IS HERE”という文字がボール紙の蓋にプリントされていた。そのフレーズは乾ききったすずさんの心にすっと浸みこんでいった。
「どんな愛が入っているんだろう?」
胸が高鳴った。そっと愛の蓋に手をかけた瞬間、すずさんはその手を引っ込めた。
「これって確か、すごく高いんだよね……」
ふと、すずさんの脳裏にクーリングオフというフレーズがよぎった。
「まっ、まだ開けずに少し考えよう」
大きな箱をじっと見ながら、すずさんはグイっと4本目の缶酎ハイを飲み干した。そして、一日が終わった。
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