内見担当内見さん

 今日のお客様は目つきの鋭い男女の二人組です。Cランク上位、いえ、Bランクかもしれません。

 四半世紀程前に迷宮ダンジョンが発見され、探索者シーカーと呼ばれる迷宮ダンジョンに潜る職業が一般的となった。

 危険な職業でもある探索者シーカーはその強さ等からランク分けされ、Cランクは中堅、ベテランであり、Bランクは一般的なレベルでの上位となる。

 ちなみにAランクはいわゆる天才と呼ばれる人だけであり、Sランクは人外だ。


「お待ちしておりました。わたくし内見ないけんを担当させていただく、『内見うちみ』と申します」


―― 内見担当 内見 当――


 そう書かれた名刺を渡すとお客様が一瞬固まる。

 あ、女性の方は口を押さえて横を向いたが肩が笑っている。


 ネタのような名前だが本名だ。ちなみに名前の方は『あたる』と読む。

 この名前で内見担当に抜擢されたのは間違いないが、このマンションのオーナーでもある社長が笑いを堪えつつ名刺を渡してきたのを思い出した。


「おお、本当に中庭にダンジョンがあるじゃないか!」

 男性がベランダから身体を乗り出して声をあげている。

 この部屋は六階建ての五階であり、実質最上階で眺めも良い。なお最上階はオーナーの自宅となっている。


「ええ、プライベートダンジョンはこのマンションの売りの一つです。三十層規模の中型ダンジョンと言われていますが現在の到達最深層は二十四階となっております」

 プライベートタンジョンとは私有地にできたダンジョンで、特に一般公開されていないダンジョンのことを指す。


「ねえねぇ、凄いよ。最新の魔導家電ばっかりだよー!」

 部屋の中を入念にチェックしていた女性が興奮した声で男性を呼んだ。


 魔導家電、要は電気でなく魔力、魔石で動作する家電製品です。電気を使用しないのに家電と呼ばれるのは違和感がありますが、よくある話です。

 なお、ここの魔導家電はダンジョンの宝箱に入っているダンジョン産のものだったりします。


「備え付けの魔導家電が充実しているのもこのマンションの売りですからね。それもこれもここのプライベートダンジョンでの魔導家電発見率が高いおかけです」


「マジかよ。このダンジョン、魔導家電でるのか」

「え、魔導家電が算出するダンジョンってかなりレアだし、入場制限かかってるところばかりよね?」


「ここのダンジョンも入居者のみ入場可能ですから、入場制限もかかっていると言えますね。それでは、ダンジョンの内見も行いましょうか――」


 ダンジョン付きマンション。本日も速攻入居者決定の希望者が後を絶たない人気物件となっております。




―― 解説 ――


元はKAC2024 第2回お題「住宅の内見」として投稿しました。


https://kakuyomu.jp/works/16818093073157273537


KAC2024用のため、元の小説は800字丁度となっています。


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