【全知の魔女】は迷宮を闊歩する
―― 新宿迷宮特区
迷宮化した旧新宿駅と旧東京都庁、その影響は大きく、駅から都庁までの間は地上までも迷宮化することとなった。
そして、この領域は『新宿迷宮特区』に指定され、人類と迷宮の共存を目的としたモデル地区として活用される事となった。
そんな旧東京都庁迷宮内に迷宮管理局本部は存在していた。
「そう言えばココって一応ダンジョンの中ですよね。危なくないんですか?」
「危ないわよ。だから、お給料に危険手当がいつものってるでしょう」
「え、あれってそういうことだったんですね」
「まあ、実際のところ危険性は少ないわよ。局長もいるし、何より最高特別顧問のあの人が常駐してるからね」
「【全知の魔女】様ですね。あの人、いつ見ても綺麗ですよね。何歳なんですか?」
「しっ、それは聞いては駄目なやつよ。この庁内というかダンジョンのことは【全知の魔女】様には筒抜けらしいわよ」
指を口にあて小声で話す。
「もっとも、最初の
「ということはアラフォー? いや、絶対見えないですよね!」
「そぉ? それは嬉しいわね」
突然の背後からの声に二人共固まったようになる。
長い黒髪に黒のドレス。夜会へ向かうかのような出で立ちで現れた魔女は静かに、それでいてフロア全体に届く声で告げた。
「キュアスライムの大量発生よ。手の空いてる者は新宿駅地下三階へ向かって。職員はキュアゼリーの買い取り準備をお願い」
「よっしゃ!」「今日は楽な仕事だな」「これでポーションの値も落ち着くか」
彼女の声にギルドの受付前のフロアでたむろっていた
これが迷宮管理局本部の日常である。
◆ ◇ ◆
旧新宿駅迷宮地下三階。普段閑散としている区画は探索者で溢れていた。
「ホントに大量発生してやがる」
小瓶片手にキュアスライムを捕獲しながら一人の探索者が声を漏らした。
「あぁーん? お前、本部は初めてか? 魔女様の情報網はこの特区全体を網羅してるって話だ。おかけで、ここでの行方不明者数や死者数はかなり少ない。魔女様々ってやつだ」
「【全知の魔女】が居ての新宿迷宮特区だな。実際、ここの最高権力者は局長じゃなくて最高特別顧問の魔女様だからな」
「ちげーねぇ!」
およそダンジョン内とも思えないほどの和気あいあいっぷりで探索者達のキュアスライム狩りは続いていた。
そして、迷宮内には銃火器の効かない
そんな魑魅魍魎が跋扈する迷宮により人類の生存圏は大きく脅かされることとなったが、まるでゲームのようなステータスにスキル、
そして、そんな
―― 迷宮にも個性がある。
いつしかそのように言われるようになった。
人類に対し友好的なダンジョン、無関心なダンジョン、敵対的なダンジョン。
特に
とはいえ、新宿迷宮特区においては迷宮核が発見されたという話は聞かれていない。それどころか、旧新宿都庁迷宮の最上階、旧新宿駅の最下層、未だにどちらも到達者のいない大迷宮となっている。
もっとも、【全知の魔女】だけは迷宮核の在り処も、旧新宿駅の最下層も知っているのではと噂されているのだった。
旧新宿都庁迷宮の最上階? そこは魔女の棲家と呼ばれている。
◆ ◇ ◆
「こんな時期にキュアスライムが大発生するなんて珍しいけど、ウチとしてだいぶ助かったな。なにせ遠征が近いからポーションの在庫が心許なくてね。ところで
「嫌ですよ。そもそも私、本当は〚
旧新宿都庁十階の迷宮管理局局長室で局長と【全知の魔女】は何度目かの問答を繰り返していた。
「いや、自室ってココ迷宮だよ?」
「そうは言っても迷宮管理局だって入ってるじゃないですか。それに、文句があるなら私の部屋で聞きますよ」
迷宮化した旧新宿都庁、その十階までは迷宮管理局が迷宮と思えないように、ごく普通に使用していた。
何故か繋がっている電気に水等のインフラ。建物ごと迷宮化したダンジョンにおいては良くある現象でもある。
しかし、十階より上ではその様相は徐々に変化していき、三十階以降は未踏破領域とされている。
「いや、咲夜君の部屋、今何階にあるんだい?」
「五十階ですねぇ、眺めも良くて気に入ってるんですよ。長官も偶には遊びにいらしてくださいね」
そう言い残して【全知の魔女】は長官室を後にした。
◆ ◇ ◆
「これでポーション不足は解消っと。そう言えば最近良いお肉を食べてないわね。中ボスをドラゴンに入れ替えようかなぁ?」
今日も【全知の魔女】は
―― 解説 ――
元はカクヨムWeb小説短編賞2023中の短編賞創作フェス、お題「秘密」として投稿しました。
https://kakuyomu.jp/works/16818023211942074263
ダンマスゲーム本編の閑話とするか悩むところですが、多分絡むことは少ないのでこっちに入れておきます。
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