とある【飼育員】の一日
【飼育員】の朝は早い。それは、この動物園が
まずは一層にいる動物たちのための餌を用意する。餌を混ぜる手があかぎれやささくれとなるが、ポーションで治るようになったのはダンジョンのある世界になって良い点の一つだ。
開園時間を迎えて入ってきたお客さんにここの
「この動物園では動物と触れ合う事ができます。モンスターでもありますが、皆さんを攻撃することはありませんので、皆さんも攻撃をおこなわないでください」
ダンジョン内に生態系はない、近年の研究ではそのように言われている。つまりはダンジョンのモンスターは戦い合うことはない。
安全の保証された
そのため、小さな子供連れの家族から動物園デートのカップルまで多くの人が訪れる。時々、
数多くあるコーナーの中でも、家族客には『角なし角兎ふれあいコーナー』や『
触れ合うことはできないが、マンティコアや
怒涛の午前中が終わると戦場はフードコートへと移る。
「おすすめは迷宮ボアのハンバーガーですよ」
表立ってはいないがこのダンジョンでは迷宮ボアやコカトリス等の食材となりうるモンスターも多数養殖、いや、自生している。
同様に植物系モンスターも豊富であり、国内屈指の食料自給率の高いダンジョンとしても有名である。
「本日もありがとうございました。またのお越しをお待ちしています」
笑顔で帰るお客様、遊び疲れて背負われて戻る子供たち、皆を見送って閉園となる。
通常の動物園と違い、通常の動物の占める割合が低いここでは夜勤をほとんど必要としない。
また、動物園によってはナイトズーやナイトサファリと呼ばれる夜の動物園も人気ではあるが、ウチでは行っていない。
そんな深夜の動物園、ご近所迷惑にならないように静かに足を進める一団もいる。
「お客様、バックヤードへの立ち入りは禁止されています。それに、既に閉園時間を大幅に超えていますのでお帰り願いますでしょうか?」
私は招かざる客、いや、客でもない完全武装の
フィールド型のダンジョンはエリアによってモンスターの出現傾向が異なっており、ここバックヤードと呼ばれるエリアは普通のダンジョンで言うところの二層目にあたる。
「ちっ、【飼育員】か。まあ、俺たちに会ってしまったのが運の尽きだな。何も見なかったことにしてコアの場所を教えれば命ぐらいは助かるかもな」
探索者パーティは凶悪な笑みを浮かべ武器を構える。どうやら招かざる客で確定のようだ。
ダンジョンの奥にはコア、
「ここの
ダンジョンの性質、出現モンスターやドロップアイテム、資源は
そのため、この
それでもこいつらのような悪徳探索者が現れるのは
「バレなきゃいいのさ。たかが【飼育員】一人いなくなっても気づくま……」
叫びながら襲いかかってきた探索者達が横から殴り飛ばされた。
「ぐうぉっ、うあぁぁっ!!」
「兄貴! よくも兄貴をぉぉっ?!!」
―― グシャッ
地面をバウンドして転がっていく兄貴と呼ばれた探索者に、頭上から叩きつぶされた三下。
ありえない光景に固まっていた他のメンバーは態勢を立て直す間もなく地面に散らばった。
音もなく彼らの背後に忍び寄ったユニークボス『
「お疲れ様です。とっときの笹をどうぞ、あ、今日はさとうきびも付けましょう。働いた後には甘いものは効きますからね」
笹を咥えて転がる様が実に可愛らしいパンダ様、ダンジョン化する前も後も一番人気である。
―― 解説 ――
元は『ブラッディササクレー』として、KAC2024 第4回お題 「ささくれ」用に執筆しました。
まあ、お題有りの場合はネタというかダジャレになる場合がほとんどですが、一応普通?の「あかぎれやささくれ」とネタとしての「笹ちょうだい」のササクレーもクリアできたと思ってはいます。
https://kakuyomu.jp/works/16818093073511728964
KAC2024なので元の短編は800字丁度としていました。
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