迷宮絶滅危惧種探索者記

水城みつは

【蒐集家】は綴る

 宇宙そらには無数の人工衛星が打ち上がり、世界は丸裸にされた。

 1999年7の月、人類は滅亡しなかったが前人未踏の地を求める探索者は絶滅危惧種となった。


 そんな科学の発達した世界に混迷がもたらされたのは四半世紀程前のことだった。


 2025年、迷宮ダンジョンの存在が公式に確認されたのを皮切りに世界各所で発見された迷宮ダンジョンは徐々にその数を増やしてきた。

 迷宮内には銃火器の効かない魔物モンスターが溢れており、当初は劣勢を強いられていたが、まるでゲームのようなステータスにスキル、役職ロールが発現したことにより、魔物モンスターを迷宮内に留めることには成功した。


 迷宮ダンジョンという前人未踏の地の台頭により、絶滅危惧種と思われていた探索者はシーカーと呼ばれる役職ロール持ちとしての復権を果たすこととなった。


 とはいえ、依然として探索者シーカーは絶滅危惧種である。彼、彼女らは甘い蜜の香りに吸い寄せられる虫のように迷宮ダンジョンという食虫植物に吸い寄せられ数を減らしているのだ。

 そんな探索者シーカーの生態と探索者シーカーを惹き付けて離さない迷宮ダンジョンについて綴ろうと思う。



 ◆ ◇ ◆



「ふう。これが秀歌しゅうか先生の遺品ねぇ」

 男は分厚い革表紙の本を閉じ、丁寧に留め金を留める。

 見た目は中世の羊皮紙で作られ教科書に出てきそうな豪華な本ではあるが、今の世ではダンジョンから稀に発見される魔導書スキルブックの存在もありそうめずらしいものでもない。

 もっともそのせいで男がこの本を手にするまで一年以上待たされることになった。


「その本が【蒐集家コレクター】からの形見分けですか? まあ、本ですし担当編集者の先輩が受け取るのが妥当だと思いますよ。それにしても秀歌先生が亡くなられたのは一昨年おととしですよね。なんで今頃になって受け取ることになったんですか?」


 コーヒー缶を手にした男の後輩が近くの空いている椅子に座り、興味深げに装飾された革表紙の本を眺めている。


「まあ、【蒐集家コレクター】が残した遺品がクソほど多かったのが一つ。ダンジョン産の魔導具も多かったらしく、迷宮管理局がプロジェクトチームまで組んで対応したそうだ。それで、コイツだが――」


 男は留め金で留められた分厚い本を後輩に手渡した。


「うわっ、やっぱり結構重いですね。え、あれっ? 先輩、これどうやって開けるんですか?」


「どうやら俺だけが開けられるらしいんだよ。迷宮管理局の人も首を捻ってたよ」

 返された本の留め金を軽く外して開いて渡す。


「は? え、手品ですか? いや、普通ですねこの留め金」


「機能としては魔力による個人認証のようなものと言われたが詳細は不明。おかげで魔導具ではなく遺物レリック扱いになった。まあ、実際に遺品ではあるんだがなぁ」


 ダンジョンで発見される魔力によって駆動する各種道具は魔導具と呼ばれる。また、それらを参考にして人工的に作成された道具が魔道具であり、遺物レリックとはそれら以外のよくわからない物の総称である。

 なお、遺物レリックに関しては迷宮管理局への届け出と登録が必要となっている。


「ところで、この本ってあかね秀歌しゅうか先生の遺作でもあるわけですよね。やっぱり出版するんですか?」

 ぱらぱらと本をめくっては確認している後輩が編集者の目になっている。


「中身は見ての通り探索者シーカー迷宮ダンジョンに関する話を集めた短編集だ」


「このフィクションとノンフィクションの境界線ぐらいのネタは流石秀歌先生ですねぇ。あ、年末の蜃気楼迷宮の話もあるじゃないですか。これは、旬の話題だし出版しましょうよ」


「ふぅ、呑気なもんだな。世の中には出して良いネタと出したらヤバいネタがあるんだよ。ちなみにその本の中身については俺が全ての権利を貰っている」


「え、秀歌先生といえばベストセラー作家ですよ。遺作ともなれば言っちゃなんですがバカ売れ確定じゃないですか。先輩、奢ってくださいね」


「まあ、どこかで短編集としては出してやりたいよな。ちなみに、その昨年末の蜃気楼迷宮の話は特級の厄ネタになるから出せないし、他言無用な」

 何もわかっていなさそうな後輩にはしっかりと釘を指しておかねばならない。


「えぇ、どこに厄ネタ要素があったんですか、ウチから出す分には特に問題なさそうな話でした……よ?」


 首を傾げる後輩から本を取り上げる。


「まあ、それがわかるようになったら一人前だろうよ」

 挑戦的な含み笑いを残して男は取材へと出かけていった。




―― 解説 ――


本短編集は『ダンマスゲーム』の世界観や設定、小ネタを書いた短編を一箇所にまとめるために用意したものです。

なお、本編にあたる『ダンマスゲーム』は探しても書かれていないのでありません。ごめんなさい。


また、もう一つの目的としては、「カクヨム夏の毎日更新チャレンジ」用です。ええ、ネタが尽きてしまったのでリサイクルしてお茶を濁すのです。

濁さずに書いたほうが、

https://kakuyomu.jp/works/16818093078503610584

の『TRPG風ダンジョンはじめました ~ミリしらTRPG β0.5~』です。

役職ロール』の概念とかはかなり似たもの(なお、同一世界線とかではありません)ですのでよろしければどうぞ。


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