第47話 病院のロビーにて
♡愛side & 美野里side
救急車が病院に到着し信一はそのまま処置室に搬送される、私は係りの人に此処で待つようにと処置室の見えるロビーの片隅で信一のバッグを抱えて座って待つ
「私が・・・私だけがあの時信一の異常に気付いていたのに・・・何で止めなかったの・・・」
自分自身があの時躊躇した自分を許せない・・自分の足を何度も何度も握った拳で叩く
ボロボロと涙が零れあずき色のジャージに丸い染みを作る・・・
「はぁっはぁっ・・・愛ちゃん!!」
どの位経ったのか・・・美野里さんが来てくれた・・・
「美野里さん・・・私・・っ私ぃぃ」
美野里さんは私の横に座りそっと肩を抱いて頭を撫でてくれる
「心配しなくても、信一は大丈夫、母親の私が言うのも可笑しいけど運の強い子だから」
「うん・・・」
私は美野里さんに今日の信一の様子を分かる範囲で伝えた
「そう・・・きっとあの子の事だから何か仕方ない事情があったんでしょう」
「私もそう思います・・・誰か困ってる人を助けたとかじゃないかな・・・て」
そう呟く私の手にそっと自分の手をのせて私の目をみて微笑む美野里さん
「ふふ、流石、愛ちゃんね私以上に信一の事判ってるのね・・・」
そう・・・信一の事は私が一番わかってる・・あの時・・自分の体がボロボロなのに無理を押してマウンドに上がった理由も・・
「信一は先輩達との最後の大会を不戦勝なんかで終わらせたく無かったんだと思います・・・例え負ける事になっても最後まで戦ったと・・そう先輩達に思って貰える様に・・・」
「・・・・・そう・・あの子らしいわね・・」
美野里さんと私は二人で目の前にある処置中のランプの灯った表示を見上げ早くこの時間が終わる事を願った
【ガチャ】
どの位経っただろうか・・・いつの間にか処置中のランプは消え中から緑の手術服に身を包んだ先生と思われる男の人がビニールの手袋を外しながら私と美野里さんの元に来て軽く頭を下げる
私も美野里さんも先生以上に深々と頭を下げる
「ご家族の方ですか?」
「はい」
美野里さんは答えるが
「私は・・その友人で・・」
先生は私の方をちらっとみて直ぐに美野里さんに視線を戻す
「織田 信一君の容体についてと今後の事について説明したいので、彼方の談話室までお越しくださいますか?」
「あ、あの!!私も良いですか?」
先生に必死に食いつくと、先生は再び美野里さんの方に許可を求める様に視線を向ける、美野里さんは黙って頷いた
「分かりました、では・・」
そう促され美野里さんと一緒に先生の後に続き談話室に入る
〇談話室
先生が机の前に座り、パソコンを操作し部屋の中にある大きなモニターで信一の右肩のCTスキャンと肋骨の写真を表示する
「先ず肋骨についてですが、この部分の2本が折れています」
先生がカーソルを動かし画像の骨の部分をクルクルと強調する
「ですが、幸いにも骨折だけで骨がズレたり欠けたりしてないので、固定し安静にしていれば3週間程度で痛みも治まると思います。」
一先ず私と美野里さんは安堵の溜息を漏らすが、次の先生の言葉に背筋が凍る
「深刻なのは右肩の脱臼です、脱臼の際に肩の筋がほとんど断裂していました、その後無理やり外れた肩の関節を押し込んで無茶な使い方をした事による影響でしょう」
「そんな・・信一・・・」
「先生・・息子の肩は元に戻るのでしょうか?」
先生は画面を見ながら少し考える素ぶりをしていると、ピッチに着信が入り私らに断ってから電話に出ていた
「分かりました・・・お待ちください」
そう言いうと電話の通話口を手で軽く押さえながら私らの方を向き直り
「お話しの途中ですが、息子さんに危ない所と助けてもらったという方の代理の人が見えですが、お通ししても宜しいでしょうか?」
美野里さんと顔を見合わせて、予期せぬ来訪者に戸惑いながらも頷き了承した
【コンコン】
「どうぞ」
先生が返事をすると、黒いスーツに身を包んだ凛とした女性が入口からこちらに深々と頭を下げていた
「この度は、私共がお世話になっている方の危ない所を、織田 信一さんに救って頂き・・誠に有難う御座います、そしてその事で信一様には大変つらい思いをさせてしまい、誠に申し訳ございません」
そう言うと再び深々と頭を下げ私らに謝罪した
「私共は天童財閥に所属する都 清美(みやこ きよみ)と申します、信一様がお救い下さった方は天童財閥のご令嬢アリサ様で御座います」
「あ、あのそのアリサさんは?」
都さんは頭を下げた状態で申し訳なさそうに告げる
「本来で有ればお嬢様本人がこの場にて謝罪とお礼を申し上げるはずですが、お嬢様も階段から落下する直前に持病が悪化し意識不明になっており、緊急で実家であるイギリスに帰国しております」
「私では役不足荷ですが、こうして代理で謝罪に寄せていただいた次第です」
「そうですか・・・そのアリサさん?も大変ですが・・早く良くなると良いですね」
そう複雑な表情をする美野里さんの背後で「先ほどのお話しで信一君の肩の事で・・・」と先生が説明を再開する所で
「先生、我々から先に宜しいですか?この度の信一様の治療費やその後のリハビリに関わる費用全般は私共、天童家で全額負担させて頂きます、また信一様の肩の治療について東京医療大学のスポーツ医学の権威でもある先生方に此方の病院にて一度専門的な診察を頂く様にお願いさせて頂いてますが、宜しいでしょうか?」
都さんはテキパキと段取りを説明してくれた
「なるほど・・・判りました我々の病院の規模では出来る事は限られてます、もし都内の大学病院で専門のスタッフに治療頂けるのであればそれに越した事は無いでしょう」
「有難う御座います」
都さんは頭を下げると、私らに断りを入れ退室する
その後先生から入院に関しての事等の説明が有り、一通り話が終わり退室すると少し離れた場所で都さんが直立のまま立っていた
「お待ちしてました、これからお二人とも少しお話しするお時間を頂けますでしょうか?」
私らは頷き都さんの後を付いて行くと、病院の近くの喫茶店に案内される、中に入ると都さんと同じ様な黒いスーツを着た女性が数名待っており、店の角の席に座っていた
都さんの合図で女性達は席を明け手前の席に移るとその空いた席に座る様促される
「ご足労いただき恐縮です、お呼びしましたのは信一様がどの様な経緯でお怪我をされたのか詳しくお二人にお話しする必要が有ると思ったからです」
店員に飲みものを注文すると、都さんは順を追って今日あった事を話だした
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