第46話 壊れる
♠信一side & ♡愛side
【ピッチャー播磨君に変わりまして織田君・・・ピッチャー織田君】
マウンドをスパイクの裏で蹴って自分の好みに慣らし固さと形を調整する、ホームベースから誠也さんが寄って来る
「信一・・・本当に平気か?」
「大丈夫・・・行けます」
俺達は口元にミットをあてがいサインの最終確認をしていた、相手チームもベンチに集まりマネージャーが広げるノートを念入りに確認している
「播磨はお世辞にも球が速い方では無いからな・・ここからストレート主体で組んでくぞ」
「俺は誠也さんの構える所にサインを信じて投げ込むだけです・・・・」
そう言うとメット越しに微笑んだ誠也さんは俺の背中をポンポンと叩きホームベースに戻って行った、ベンチの端で両手を握り必死に祈る愛の方を見る
『神様神様・・どうか信一の事を助けて下さい・・・どうか・・・』
「プレイ!!」
審判が片手をあげ誠也さんの後ろで中腰になる、相手チームのバッターはヘルメットを取り誠也さんと審判に一礼すると右ボックスに入りバットをゆっくり振り肩の高さに構え此方を鋭く睨む
ノーアウト2塁、走られはしないと思うけど此処はクイックで投球する
全力で振った右手指先からボールが離れ風切り音と共に【バシッッ!!】誠也さんのミットに収まる
【148キロ】
『おおおおおおぉぉぉ』
満員では無いが集まっていた観客や相手ベンチからも驚きの声が漏れる、相手のバッターはジッと誠也さんのミットに収まったボールを見て放心状態だった・・・・
全員が俺の投球に驚き期待する中・・・・俺は・・・・俺の肩は・・・
(うぐぐぐぐぅぅ・・・いまので肩が・・・・)
初球を投じた時に右肩からブチブチと何かが切れる音が体の中を駆け巡った・・・痛み止めである程度緩和されていても痛みが無くなる訳ではない・・・
俺は誠也さんからの返球を受けとると、マウンドを背にして大きく一呼吸、誠也さんの方を向きサインに頷くと先ほどと同じ様にクイックから全力でストレートを投じた
「!?っ」
しかし俺の投じた球は誠也さんのミットどころかベースの半分も届かない内に地面を跳ね誠也さんの頭上を超え後方のネットまで転がった
メットを脱ぎ慌ててボールを拾いに行く誠也さんしかしランナーは3塁に到達、俺は暴投によりノーアウトランナー3塁のピンチに陥った・・・
すかさずタイムを取り俺の元に駆け寄る誠也さん
「信一どうした?らしくないぞ・・・」
「すいません・・・次はちゃんとミット目掛けて投げます・・」
誠也さんからボールを手渡しされ、再びホームで構える誠也さんのサインに頷くと今度はスライダーを投じた・・・・
が・・・・変化しないまま俺の球は外角へ大きく外れる
【108キロ】
スコアボードの下に掲示された俺の球速は先ほどから40キロも落ちてしまった・・・
(これが俺の全力のスライダー・・・・)
更にカーブの要求に対し投げ込むがやはり変化しないままど真ん中に・・・・【カキィィィン】軽快な金属と共に打球はレフトスタンドに吸い込まれる・・・
(・・・・・・・・・)
俺も誠也さんもその行く末を茫然と見送っるしか出来なかった・・
・・・・・・その後も投じる球全て打ち込まれ俺の体は悲鳴を上げる・・スコアは5ー14 ワンアウト、ランナー満塁
もはやベンチからの声も無い、相手ベンチはお祭り騒ぎだが俺の耳には届かない静寂だ・・・
チームのベンチを見ると監督が悲痛な表情で唇をか噛み締め状況を見守っている、仲間たちもベンチの中で俯いている・・・
そんな中で愛だけがベンチの奥から身を乗り出し涙でぐしゃぐしゃになった顔で大きな口を開け必死に何かを叫んでいる
「そんなに泣くなよ・・・愛・・・俺最後まで頑張るから・・・」
俺はクイックを止め大きく振りかぶると左足を後ろに大きくねじ込み体を捻る、そして左足を大きく前にスライドさせマウンドを踏みしめその反動を体の回転に加え背中右肩右腕右手指先と順番に力を加えて行く・・・
私は自分の幼馴染がマウンドで前のめりになり倒れた状況を見て気を失いそうになって後ろにふら付いた
「ボーク!!」
審判からのボークの判定により、ランナーが進塁し相手チームに15点目が入り
「ゲームセット!!」
無常なコールにより私達の地方大会は終了した事を告げられた・・しかし私にはそんな事はどうでも良い
怯えた表情で監督の顔を見ると、同じ様に怯えた表情で私に頷き返したのを見て一目散にマウンドに駆け寄る
「信一ぃぃぃ信一ぃぃぃ!!」
私の幼馴染はマウンドでボールを握ったままうつ伏した状態で気絶していた・・・直ぐにタンカーが用意され医務室へ連れて行かれる
私も信一のグローブを抱えその後を追いかける
医務室で診察を受ける間も信一の意識は戻らない・・が・・・
「おそらく・・肋骨を骨折していて右肩を脱臼してますね・・・」
先生からの言葉に驚きと後悔がこみあげる・・・後ろで聞いて居た監督も同じようだ・・・
「直ぐに救急車で近くの病院に搬送します・・今日はだれかご家族の方は・・・・」
「先生、私彼の幼馴染なんです!家族みたいなものなので私が付き添います!!」
医者の先生は監督の方を確認すると監督は小さく頷く
「分かりました直ぐに到着すると思うので荷物を纏めて裏口に来てくださいご家族の方にも連絡をお願いします」
私は先生の話しを聞き終わるのを待つ事無く医務室を飛び出し自分と信一の荷物を急いで纏めると裏口に駆けだした
流石にそんな直ぐに救急車が到着する訳でも無いが私はこのタイミングで信一のお母さんに連絡を入れる
「もしもし?愛ちゃん?どうしたの?信一の試合もう終わったの?」
「美野里さん!!信一が・・信一が・・・」
「愛ちゃん!?どうしたの?何かあったの?」
「信一が・・・怪我をして・・それで・・無理して投げて・・・そのまま・・倒れて・・・私が・・・私が止めてれば・・・美野里さん・・ゴメン・・ゴメンなさい・・」
その時救急車が到着し、私の後ろからタンカーで運ばれてくる信一が出て来た
救急隊の人に尋ねられたので丁度お母さんと連絡が繋がってますと私のスマホを渡した
何件か要件を確認しひかえてる救急隊と別の人が私に同乗する様に促す
信一の頭の横に座るように促されベンチの様な椅子に座り苦しそうな信一の額をそっと撫でる・・
「大丈夫・・大丈夫だよ信一・・もう直ぐ病院だから・・・すぐ良くなるよ・・・だから頑張ろうね・・・」
私には救急車が出発するまでの、この時間が焦りからかとてつもなく長く感じた・・・
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