第45話 繋がる過去


♠信一side & ♡愛side



『信一今日一緒に帰れる?』


昼休みも終わりかけに珍しく愛からのメッセージが届く


『特に予定もないから構わないよ』


今朝の話しの続きだろうか?改まってこんなメッセージを送ってくる時、愛は悩みが有る時だと相場が決まってる


(本当に俺の事は気にしなくても良いのに・・・)



〇中学2年 地方大会準決勝&決勝当日



「だ、ダメだよ・・・これじゃ織田君が・・・」


「野球は一人欠けても補欠も居るし、試合は出来るけど、テニスは石川が居なきゃ棄権になるだろ?だったら迷う事ないよ」


俺は5千円札しか入って無かった財布を石川さんに渡すとバス停を後にして走り出した


何時も練習で15キロのランニングは欠かして無いのも有り、20キロ先の球場までは走って行っても問題ないと軽く考えていたが、流石に荷物を背負ったままだと走る姿勢も制約されるし何より重い


まだ半分の10キロも走って無いのに既に息が切れる


「はぁっはぁっ・・・うぐっ・・・はぁっ・・」


荷物を降ろして歩道橋の手すりにもたれ掛かり呼吸を整えるが、酸欠からか視界がグラつく・・・俺は目を瞑り頭を振る


「お嬢様ぁァァァァ」


歩道橋の上の方から女性の悲鳴が聞こえたと思ったら、人が歩道橋の階段と同じ角度で落ちて来るのが見えた


正にスローモーションだった・・・白いブラウスの背中と白いスカートがヒラヒラと揺らめき長い金色の髪の後頭部が俺の目前を通過しようとしていた


咄嗟だった・・・・


「うがぁぁぁぁ」


俺は右手を伸ばし金髪の女性を受け止めると、直ぐに左手を女性の体に回して抱きかかえる様にして体回転させ女性と体制を入れ替えそのまま地面に衝突した


【ズキッッ】


激しい痛みが右肩を襲う意識が飛びそうな中で慌てて階段から降りてくる黒いスーツ姿の女性が何やら叫びながら駆け寄ってくると俺の腕の中から金髪の女性を抱き上げ何やら後ろに控える数名に向かって怒鳴っていた


朦朧とする中で自分が救った女の子を見ると意識が無いのか青い顔をしており呼吸も荒い、少女は後方から現れた数名により口元に酸素マスクを付けらていた


「君っ!!大丈夫か!?おい聞こえるか!!」


最初に駆け付けたスーツの女性が今度は俺の上半身を抱き起し呼びかける・・・


「がぁぁぁっぁ!!」


右肩に強い痛みを感じ左手で右肩を押え前のめりになる、左手から伝わる感触が何時ものそれと異なるものだった・・・


本来有る筈の肩の筋肉が伸び切り異様な凹みが肩に出来ていた(脱臼)咄嗟に頭にその二文字が浮かぶ


「おい!!肩がどうかしたのか!?何してるぅお前等ぁぁ救急車はまだかぁ!!」


黒いスーツの女性は控えて電話をしてる女性に怒鳴っている、程なくサイレンの音と共に救急車が到着した、流石に騒ぎになっており野次馬達が集まって来ていたが、黒いスーツの女性達が撮影しようとする人たちを注意して回っていた


直ぐに金髪の女性はストレッチャーに移され数名の女性と共に救急車で搬送されて行った、その後続けて横付けされた救急車から救護の人が現れ俺の方へかけより


「どこか痛みますか?立てますか?」


マスク越しに俺の顔を覗き込みながら質問してくる救急隊の人を左手で押しのけ、ゆっくりと立ち上がると置いていた荷物を左手で持ちトボトボと球場の方へ歩いて向かう


「!?ちょっ・・ダメですよっ早く救急車に乗って下さいぃ!」


俺の目の前に立ちはだかり通せんぼをする為に両手を広げる黒スーツの女性


「そ、その肩・・脱臼してるんじゃ・・・」


不自然に長く垂れ下がった右腕を見て、後ろの救急隊の人の動きも慌ただしくなる


【ガンッ】「がぁぁあぁぁぁぁぁ!!」


俺は思いっきり歩道橋の手すりに自分に右肩を打ち付け強引に肩をねじ込んだ・・漫画や映画なんかで良く見かける方法だが実際にはそんな良いもんじゃない


「君は馬鹿か!!そんな無茶して二度と肩が動かなくなるんだぞ!!」


心配してくれるスーツの女性を無視して後方で心配そうに此方をみている救急隊の人に頭を下げお願いする


「俺に痛み止めを投与してください・・今日は大事な試合なんです」


「いい加減にしないか!!」


「・・・・・鎮痛用の注射を・・」


「なっ!?」


俺の様子を見て居た救急隊の一人が気持ちを汲んでくれ痛み止め投与に応じてくれた、俺は患部に直接注射してもらい、皆にお礼を述べて再び目的地に向かいゆっくりと歩きだした、後ろから待つように声を掛けられたが振り返らずにただ前に進む事だけに集中した


どの位歩いただろうか・・・右肩の痛みは取れたが体は重く頭がぼーっとするグラグラ揺れる視界に足が取られ倒れそうになって


「おい!!待てと言っただろ」


そういうと先ほどの黒いスーツの女性が俺の脇を抱えて怒っていた


「我々で送ろう」


理解の及ばない頭と力の入らない体を無理やり黒いワンボックスに押し込められ数名の女性に脇を抱えられながら、俺は球場に到着した


「我々が君の学校の関係者に事情を・・・」


「いえ・・それは止めて下さい・・僕のせいでチームの皆に心配をかける訳に行かないので・・・」


それだけ告げると心配そうに見送るスーツの女性達に送ってもらったお礼を告げチームメンバーの待つ控え室に到着する


「遅くなりました・・・・申し訳ありません」


開口一番で仲間と監督に頭をさげる・・・


「織田間に合ったか!お前の事はテニス部の監督から学校に電話があって俺の所にも話は届いてる、大変だったな」


「いえ・・・間に合わず・・申し訳ありません・・」


「?・・・信一?ちょっと顔を見せて?」


そっと愛が俺の顔を両手で挟み覗き込む・・・俺は愛の目を真っ直ぐに見る事が出来ずに目を逸らしてしまった


「信一・・体調が悪いんじゃない?少し体も熱いし・・それに眼も虚ろよ?」


「本当か!?織田!!大丈夫か?」


愛の一言に監督や誠也さんチームの皆が俺の事を心配してくれた


「いえ・・大丈夫ですここまで走って来たので少し息が上がってるのと疲れが出てるだけですから・・皆さん決勝頑張って下さい!!」


「信一・・・・・」


「愛・・・判ってくれ・・・」



5点同点で迎えた中盤、最初のバッターに投じた球を痛烈なピッチャー返しを頭部に受け3年の播磨先輩はそのままマウンドに倒れ意識を失った


試合中断中に監督がベンチを見渡すが今回の試合は3年生の最後の試合という事もありかなりの頻度で代打を送り交代の選手が残ってない、先の試合で投げた奥村先輩も高野連の決まりでこの試合を投げる事は出来ない


いまチームで残っているのは・・・・・・・・・






「監督・・・・俺行きます・・」


「織田!?大丈夫なのか?」


「ええ休憩させてもらったので・・・・いけます!」


「ちょっ!!信一ぃ!」「愛っ!!・・・・いいんだ・・」


「ダメだよ・・・信一・・」


俺のユニフォームの端を掴みながら涙ぐむ愛の目元をそっと拭い精一杯の笑顔で頷くと皆から泣いてる愛を背中に隠し、力強く頷く


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