第44話 各々の思惑

♦安祐美side & 勝side



〇大和高の最寄り駅前のマック2Fフードコートの隅の一角


「なぁ、俺達部活組は皆だいたいこのマックで腹ごしらえして帰んだからあんまり目立つような会い方は止めないか?」


そう不満な顔をして、両手で持ったトレーにビッグマックx2とコーラ、ポテトのMサイズ2個を乗せ銀髪の美しい女子高生、石川の元に歩み寄る


その様子に気付いて見上げた安祐美は呆れた様子で、サッカー部のイケメンエースFWに深く溜息を吐く


「なんで私が武田君と相席しなきゃいけないのよ、アンタは私の前の席よ」


そう言いながら目線を外し軽くコーヒーを口に運ぶ


「へ?」


間抜けな声を上げ、恥ずかしい勘違いしていた勝は顔を赤くして「ふん!」と安祐美に背中を向け前の席に座る


「まぁここなら死角になって私の事も皆気にならないし、それに木を隠すなら森の中って事よ」


「はぁ?何意味分からない「こっち向かない!」・・・ちっ!」


文句を言おうとして振り返ると安祐美に注意された


「簡単に言うと、此処は貴方の言う通り部活帰りに立ち寄る生徒が多いから、運動部の私達が頻繁に来ても怪しまれないって事よ」


「なるほど・・・それは分かった・・」


勝はトレーからポテトのMを取り後ろ手に椅子のしたの方で人からあまり見えない様に安祐美の方へ差し出す


「ありがと、遠慮なく頂くわ」


素直にお礼を言いポテトを受け取る安祐美はポテトをカジリながら話を始めた


「呼んだのは他でもない・・・前に言ってた通り今度の土曜に信一君を誘い出して欲しいの、勿論私も愛を連れ出す」


「まぁ信一次第になるけど、何で急に踏み込む様な事を・・・」


「愛だけに気を付けてれば良いって状況では無くなったの・・・」


「へぇ―――モグモグ・・つ・・つまり・・・・、ふぅ――つまり美空先輩辺りが感づいて動き出したって所か・・」


「食べるか喋るかにしてくれない?まぁそう言う事・・それに愛の妹の優ちゃんも参戦よ・・」


「ブホッ!!ゴホッゴホッ・・」


「汚いんだけど・・・つか皆に睨まれてるじゃん・・・」


「ゴホッ・・・イヤイヤ・・え?まさかの妹ちゃんが参戦?愛の妹って前に見たけどマジ愛ちゃんにソックリだよな!」


「そうね・・まぁ容姿でも私は負けてないけどね」


背中を向けたまま武田君は両手を上げてヤレヤレとジェスチャーする


「人の心配してる場合かな?美空先輩なら私が考えた様に協力者を見つけてこの情報をリークするんじゃないかな」


「へぇ―——つまり・・・上杉 誠也の登場って訳ね・・・」


「まぁそうでしょうね・・他に居ないしね」


「ところで・・・今週の土曜に駅前10時、信一のアポ取れたぜ?」


「へぇ早いわね・・・私も愛の土曜の予定確保したわよ、時間は後から連絡するって言っといた」


「と、言う事で土曜のデートプランは各々考えるって事で解散で良いかしら」


「ああ、先に帰って良いぜ・・俺チーズバーガーとコーラお代わりしてから帰るからよ」


そう言うと他の客にバレない様にテーブルの上で小さく手を振った



☘優 side & 市江 side



優は今市江の部屋に遊びに来てる


「へぇ――予想はしてたけど、おにぃ争奪戦は厳しいねぇ美空先輩って、一度おにぃに告白してフラれたって言う美術部の部長でしょ?」


「ええ、初めて話したけど迫力が半端なかった・・・すごい美人だし・・・」


市江はポテトをワシッと掴むと大きな口を開けて一気に頬張る、そんな姿にすこし俯きながら優が話す


「それに、美空先輩はかなり手ごたえを感じてるみたい・・・私の勘だけど」


少し考える素ぶりをしていた市江が何かを思いつく


「ねぇ私に良い考えあんだけど・・・・」


「・・・・・・・・・・」


「・・・・・・!?」


「・・・・・/////・・ほ、本当にぃ~市江ちゃん・・私恥ずかしいよぉ~」


「はぁ~そんな悠長な事言ってたら、おにぃ他の二人にもってかれるよ!?」


「うううう・・それは嫌だぁぁぁ」


「だったら覚悟しなさい!女は度胸よ!!」


そうサムズアップしてフンスと鼻息を荒くする市江にタジタジの優はその後も色々と市江にアドバイスされ終始顔を赤くしていた




♦美空 side & 上杉 side


〇美術部部活終了後・・・美術室にて


「すまない!!遅くなった!」


上杉は息を切らし美術室の入り口に手を掛け、眼鏡をはずしてユニフォームの袖で額の汗を拭う


「時間にルーズな男は嫌いよ・・・まぁ良いわ、取り合えず中に入ってくれるそんな所に立たれてるの誰かに見られたら、又変な噂されるでしょ」


そう言われた上杉は苦笑いして肩を竦めるとハイハイと言った感じで美術室の中に入り扉を閉めた


中は油絵具独特の匂いが充満しており、備え付けの換気扇は回っているが追い付いてない様だ


「貴方の汗臭いより、何万倍もマシな匂いよ」


何も言って無いのに、表情に出ていたのか美空に感づかれた様だ


「ずいぶんな言われようだ・・これが信一の汗ならそんな事言わないだろ?」


子供じみた嫌味を敢えて言ってみるが、美空の表情に変化はない


「信一君と一緒にしてくれたら困る、私は彼のすべてが欲しいの匂いとか汗とかそんな次元の話しじゃないの」


誠也は美空の言葉に少しだけ恐怖を感じた、昔後輩が読んでいた漫画のヒロインが「ヤンデレ」とか言っていたが、今の美空にその呼び名がピッタリの様な気がしたからだ


「ところで、貴方はさっそく愛に接触したみたいね・・・」


どこかで見られていたのか、愛君との事はすでに美空の知る所の様だ、まぁ元々美空に協力すると誓った身だから隠す事も無い


「ああ、臨時でも良いからマネージャーをしてくれないかと頼んだ」


美空が筆を止めキャンパスから顔を覗かす


「ずいぶんと無謀な話ね、そもそも愛にとっての野球は信一君の好きな事の一つって認識だぞ?」


「ああ、勿論わかってる・・・中学最後の大会以降、信一が部活に来なくなってから直ぐに愛君も顔を出さなくなったからな」


「それが判っててどうしてそんなお願いをしたんだ?」


「そうだな・・確かに無謀だ・・でもお前が言ったんだ挑戦しなきゃ敗北も無いと、俺はかつて投手として信一と競う事無く逃げ出した、初恋も最初信一に遠慮してとか言い訳して挑戦する事無く逃げ出した」


美空は表情を変える事無く俺の事をジッと見て話に耳を傾けている


「そんな俺が大会を控えた前日にようやく愛君に気持ちを伝えた・・・そして俺はフラれた、俺はある意味自分の気持ちに正直になって相手に伝えれて満足していたのかも知れない」


「だが、美空・・お前の言葉で俺は気付いた、俺は愛君に振り向いて貰う為に何かしたのか?と・・・俺は何もしてきてない、ただ信一を羨むばかりの外野の一人だったそんな俺が気持ちを伝えても愛君に届く訳ない」


「ほう、それでお前は今回はどうするのだ?」


「俺は愛君を甲子園に連れていく」


その言葉に僅かだが美空の目が大きく見開かれた様な気がした


「甲子園の切符を手にもう一度、愛君に気持ちを伝える・・・愛君にもその事を伝えた」


「無謀過ぎて、呆れたな・・・フフフまぁそういう馬鹿は嫌いじゃない、それで?流石のお前も無策でそんな提案をしたんじゃないよな・・」


「俺達が全国に行くために・・・・」





「信一を野球部に引き込む」

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