第42話 上杉 誠也 決意の告白


☘上杉 side





「上杉、これから1週間私もマネジャーの手伝いをする、既に監督と顧問には了解を得てる・・慣れない身だがよろしく頼む」


「あ、あああ」


それから美空は愛君ともう2人のマネージャーに仕事を丁寧に教わりマネージャーの仕事をそつなくこなしていく


そして約束の一週間が経つ頃


「先輩・・あの俺のグローブメンテ頼んでいいすか?」


信一は何時も愛君にグローブのメンテを頼んでいたのに今日に限りは美空に頼んでいた


(ああ今日が美空の言ってた期限だったか・・・)ふと愛君の方を見ると、そんな信一の様子を見て悲しそうに俯いていた


【ズキッ】


その瞬間に胸が痛んだ・・・なぜ愛君に悲しい思いをさせる?なぜ愛君を大切にしない?俺なら・・・


俺なら?


俺だったら・・・どうするんだ?


「愛君・・・俺のキャッチャーミット・・・メンテ頼んでもいいか?」


愛君は少し驚いた表情を見せ一瞬だけ信一の方を見たが直ぐに視線を俺に戻し「はい!」笑顔で受け取った


【ズキッ】


駄目だ・・愛君の・・俺の惚れた女の笑顔はこんな貼り付けた笑顔じゃない・・・


そのあと再び開かれたタペストリーの構図審査会・・ここでは満場一致で3番が選ばれた・・流石に俺も3番を・・美空の絵を選ばざるを得なかった


審査会が終わり全員が退室する中、美空と信一が最後まで美術室の残っていた俺は出口付近ですっこし聞き耳を立てる


「凄いすね・・先輩の絵、前のとは全く違うタッチです・・・このタペストリーには俺達と一緒に頑張るっていう意思を感じます・・・俺このデザイン大好きです!」


「こ、今回は・・文句言わせないからな!」


声しか聞こえないが、明らかに美空は信一を意識して今回の作品に力を注いだのだろう・・・


(美空・・お前は凄い奴だよ・・・一度の敗北すらも糧に再びチャレンジして・・・お前は信一に勝利したんだな・・・それなのに俺は・・)



それから数か月・・・


いよいよ俺達3年の最後の大会が始まる、今日は監督から最終レギュラーメンバーとベンチ入りのメンバーが選ばれる


・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・


以上だ


レギュラーは何時ものメンバーだ、3年は全員レギュラーもしくはベンチに入る、2年は信一含め数人が選ばれる


美術部の応援タペストリーも完成し先日お披露目された所だった、流石に愛君もその間は美術部に付きっ切りだったし今日も手直し箇所で忙しそうだった


しかし出来あがった物は正に一級品で、これから幾年もこの大和中野球部のシンボルとして受け継がれるだろうタペストリーだった


「誠也さん!おれ尊敬する先輩達と思い出に残る大会にしたいです!!」


そう笑顔で俺に腕を突き出して来た信一に腕を押し返し答える


「ああ、後悔はしない様に誠意一杯行くさ!」


そう答えると笑顔で頷きグラウンドに駆けて行った・・・・(そう後悔はしない様にな・・・)


その日の練習は早めに切り上げ、明日からの大会初日に向け各々体を休める事になっている


「お疲れ~」「お疲れっす!」「お先ですキャプテン!」


俺は部員が全員帰るのを見送り、自分も身支度して戸締りを確認し施錠する、カギを職員室に届けると丁度3階の窓を見上げると美術部員が美術室から出来て行くのが見えた


「よし!」


少し緊張しながら再び野球部の部室裏に向かう


待ってる時間が永遠にも感じる、喉の渇きに激しい動悸・・昨日何度も確認した事を頭の中で反復する


俺は後悔をしない、俺は戦う前から敗者だった・・・・


気になる女の子に対しても最初から無理だと諦めた・・・


投手としての実力を目の当たりにして競い合う事も止めた・・・・


口下手だと言う理由でチームの精神的支柱にもならなかった・・・・


そんな事を考え苦笑してると、ついにその時が訪れる


「お待たせしました、上杉先輩・・・お話しって何でしょう?」


振り返ると最初に見た時より少し大人になり、ボブカットだった髪も制服の肩に掛かるまで長くなった彼女が此方を見て立っていた


すっと逃げて来た俺だが・・・・やはり好きな女の子を戦う前から諦める様な事はしたくない


だから・・・・・・



「今日は来てくれてありがとう・・・・俺は!君の事が好きだ!!俺と付き合って欲しい!!」


それは大事な大会を控えたセミの鳴き声の響く熱い昼下がりの放課後だった

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