第41話 信一から影響を受ける人達
☘上杉 side
「信一もう一球スプリットぉぉ!!」
「はい!!」
信一のスプリットは少し右側に曲がりながら鋭く落ちる、これをアウトローに決めたら打てる打者はそうそう居ない・・
あの日監督に呼ばれキャッチャーへのコンバートを打診だれた俺は二つ返事で承諾した、あんな化け物みたいなピッチャーとマウンドを争うなんて無駄だと思ったし、何よりアイツの球を受る時に手に来る感触が病みつきになったのもあった
お陰で俺は3年の先輩を差し置いて2年でレギュラー捕手となり、信一も1年でエース恪の活躍を見せた
「それにしても、世界選抜のジュニアに選ばれるとかスゲーよ信一!!」
この日は久しぶりに信一の球を受けていた、信一は1年の夏の地方大会で途中から中継ぎとして登板した際に見せたその投球に球場がどよめき静まり返った
僅か3イニングだったが7,8,9を3者三振で抑えたのは勿論だが誰一人一球もバットにカスリもしなかった
そのあと、国際ジュニアチームの監督とコーチが控室に現れ、信一を強化選手として招集したいと申し入れしてきて信一も含めチーム全員が驚いていた
当然信一は喜んでいた、監督もチームメンバーも自分の事の様に喜んでいたし、俺も嬉しくて信一に思わず抱き付いた
この半年間で信一はチームに溶け込み最初こそ妬みや嫉妬交じりの目で見ていた先輩達も信一の真面目で奢らない誠実な性格を知ると自慢の後輩として可愛がる様になり1年にしてチームの中心選手として欠かせない存在となった
今日も強化合宿から戻ってくると先輩達に手荒い歓迎を受けて嬉しそうにしてる信一が居た
「ところでどうだ?世界選抜の合宿は?」
俺達は愛君達マネージャーの握ってくれたお握りを食べながら、遥高みの世界に足を踏み入れた信一の話しに興味深々だ
「そうですね・・・流石皆さんすごい人ばかりで勉強になりますね、でも俺の球を初見で捕れた人はやっぱり居ませんでした!やっぱ俺の一番の相棒は誠也先輩です!!」
「そ、そうかぁ?」
「はい!!」
信一はその後も世界選抜のジュニア強化選手として度々招集され戻って来る度にレベルアップしてる様だった、その中で見知った知識を惜しげも無く俺達に伝え練習方法やミートのコツ、変化球の握り、タイミングの取り方まで俺達は信一の話を熱心に聞き入り少しでも自分の力に出来る様に努力した
俺が2年、信一が1年で3年生最後の試合・・地方大会の準決勝まで勝ち進んでいたが3-2で迎えた9回裏2アウト1,2塁、前の試合で投げていて、その日はベンチスタートだった信一は監督から代打を告げられる
「信一~頼んだぁ~」「当ててけぇ~」
相手も信一が世界選抜の選手だと知っており内野手がマウンドに集まりベンチから伝令が加わり全員が頷き解散する
信一が「宜しくお願いします――!」と相手キャッチャーと審判に頭を下げると同時にキャッチャーは立ち上がり両手を広げホームベースから横にずれる・・・
敬遠だった・・・
信一は1塁ベースに進み次の打席に代打で入った先輩に必死で声援を送る「先輩ぃ~いけぇぇl」3年の先輩は信一の方を向き笑顔で頷くと真剣な表情で相手のピッチャーに向き直る
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
両チームはグラウンドに向かい合い礼をする・・・・・「うっうっ・・・すいません・・すいません・・・」
整列したチームの一番端で人目をはばからず泣く信一・・
俺は信一の肩に手をかけ軽く揺らして宥めてやる・・・バックスクリーンのスコアーボードを見る3-2・・・
あの後、初球をフルスイングした先輩の打球は外野まで飛んだがフェンス際で失速し、レフトのミットに収まった
「信一!泣くな、俺達はお前達と一緒に野球が出来て楽しかったぞ!俺達の無念は来年のお前等に託した!!」
そうキャプテンに肩を叩かれ泣きながら頷く信一の姿に俺も一筋の涙が零れる・・・
「信一・・俺達でもう一度この場所に来るぞぉ!今度こそ全国にぃ!」
「ば、ばぁい・・うっぐっ・・ううう」
それから俺達は進級し俺は監督からチームの新キャプテンに任命された
「俺達の目標は全国大会だぁ!去年の先輩達の無念を俺達で晴らす!!」
入部した一年のお目当ては全員が信一だ・・中学1年にして世界選抜の強化選手という肩書は去年まで小学生で野球少年だった者達からすれば憧れしか無いだろう
『おい、あれが織田先輩だ!!』『雑誌の通りマジでイケメンだな』『あれで145キロ超えるストレートに色んな変化球投げるんだろ?』
(信一・・・悪いがお前からも一言なにか言葉をかけてやってくれ・・・)
(え?俺すか?・・マジか――)
「えっと2年ピッチャーの織田 信一です、新しい後輩たちはまず基礎的な体作りから頑張ってもらって、とにかくケガの無い様にチーム一丸となって野球を楽しみましょう!!」
【パチパチパチ】疎らな拍手も何人かが始めると全体に広がって行く・・不思議な現象だなと思いながら俺も拍手をする
それから直ぐに美術部に入ったはずの愛君が野球部のマネージャーの応援してくれるようになった
元々マネージャーは居るが2名だけ、しかも一人は1年の新人、3年マネージャーはピッチャーの谷と付き合っているので2年や1年の部員からは谷への遠慮からか何処かマネージャーにお願いしにく空気が有ったらしい
そこに学年で1,2位を争う美女の瀬川 愛が臨時のマネージャーとしてお世話してくれることに信一以外は大いに沸いた
「瀬川先輩マジで女神です!!この間なんか俺の臭いタオルを手洗いしてくれてぇ!!」
「はぁそれ言うなら俺はこの間膝を擦りむいた時消毒してフ――って息をかけてくれたしぃぃ」
「いやいや、俺なんかこの間ファインプレーしたら手を叩いて喜んでくれたぞ!!」
部室では愛君にどれだけお世話してもらったかで1年と2年が盛り上がっていた
「はぁ~信一お前からも何か言ってやれよ」
本当は自分が愛君の事で盛り上がってる後輩にイライラしていたのに信一に代弁を頼むあたり、自分が姑息だなと自己嫌悪する
「いいんじゃないですか?別に悪口言ってる訳でもないし、この場に愛が居たら、きっと嬉しくて照れるんじゃないですか?」
表情を変えずに愛君のメンテナンスしたグローブのチェックをしてる信一は軽くそんな事を言う、
しかし俺は口惜しさと羨ましさしか感じない
(やっぱ二人は特別だな・・・でも信一に聞いても付き合ってないって言うしな・・幼馴染ってこんな感じか?)
そんなある日、監督が美術部の顧問と釣り仲間とかいう事もあって、愛君の所属する美術部に野球部の応援タペストリーを製作依頼する事になった
「上杉達3年は審査員をしてもらう・・・それと・・・織田お前もだ」
当日案内された美術室にそれぞれのイメージしたデザインが展示してある、皆30分の持ち時間で順番にデザインを見て回る・・
(ここは愛君のデザインを選んであげたいな・・・てこんなの忖度も良いところだな・・)
俺の選択は「5番」だった、信一は「2番」を選び同数になった為5番と2番で決選投票になり1票差で5番のデザインが採用となった
本日は監督も上級生もタペストリーの審査が有り練習が休みになっているので、そのまま帰宅する為、下駄箱で靴を履き替えてると美術部部長の美空が信一を呼び止め何か話をしてる様だ
「美空と信一?珍しい組み合わせだが・・・あの二人は知り合いか?」
俺は不謹慎と思いながらも(もし美空と信一が付き合ってくれてれば・・・俺にも・・)と邪推する衝動を抑えきれず二人の後をこっそりと付け美術室のドアの隙間から覗くと、あの冷静な美空にしては珍しく感情的に荒げた声が聞こえてくる
『先輩・・俺はそうは思いません・・大会で結果を残す為に野球を頑張った訳じゃ無く、野球を頑張った積み重ねが大会での結果に結びつくと考えてます』
『で、では2番を推した理由はなんだ!?やはり幼馴染の作品だからか!?』
(なっ!?2番の方が愛君の作品だったのか・・・)
『すいません、2番が愛の作品だというのは直ぐに分かりました、5番が先輩の作品だという事も・・・』
(っ!!信一はそこまで・・・)愛君の事を何でも知ってるとでも言いたげな信一答えに嫉妬にも似た感情が胸を締め付ける・・
『やはりそうか、君がそんな人間だったなんて幻滅だよ!』
『・・・美空先輩は野球が好きですか?』
『はぁ?それが今なんの関係が『野球部の事は?野球部に好きな人はいますか?』・・なに?!何が言いたい!!』
あの美空が年下の男に言い負けて、あんな陳腐な台詞を言うなんて・・
『愛がこういう作品を画けたのは俺達の事を間近で見て、感じて、一緒になって体験してたからじゃないでしょうか』
信一は愛君がマネージャーを手伝ってることを当たり前と思っている様だったが、ちゃんと見て居る事に驚いた
これ以上は此処に居てはイケないと思いその場を立ち去った、帰宅は信一と美空の会話を思い起こしながら家路についた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます