第38話 美空 雀のリベンジ
☘美空 side
「先生、私の我儘をお許しくださり有難う御座います・・・」
職員室のドアの前で頭を下げる
●美術部部活
「もう一度仕切り直しぃぃ?」「ええええ」「なんでぇ?」
「はいはい、静かに!今、美空部長が説明してるでしょ!」
「ええ、でもぉせっかく美空先輩の作品で決まったのにぃぃ部長悔しくないんですか!?」
「ははは、すまない実は仕切り直しを先生にお願いしたのは私だ」
「????」
皆がポカーンと私を見てる・・・仕方ない私自身も自分の決断に呆れてる
「実は私の作品にケチを付けて来た人物がいてねぇ♪」私はそう言い愛の方を見る
「!?」愛は驚き自分の顔を指さすとブルブルと全力で否定した
「いやまぁ誰がとかは良いんだが、私としてはその人物にどうしても参ったと言わせたくてね、皆巻き込んですまないがもう一度、皆で仕切り直しをしないか?」
「私もう一回やりたい!前より良い物描きたい!!」「わたしもぉぉ」「あ、部長合作でもいいですかぁ?」
「おお、合作でも構わないよ、皆で良い物を作ろう!」
「「「「おおおおお!!」」」」
こうして、再び一週間、デザインの案を再選考する為、部員は想い思いの作品に全力を尽くした
「ところで・・・・美空先輩はここで何してるんですか?」
「ん?何とは?あっ愛ここの汚れが取れないから石鹸取ってくれ!」
「はい、どうぞ・・・って何で野球部の玉を洗ってるんですかぁ!?」
「ん?」私は愛と色違いのジャージに身を包み麦わら帽子をかぶり首からタオルを掛け、カゴの中に積まれた野球の玉をゴシゴシと洗ってる
「いやな・・・ある人物に言われてな・・・(美空先輩は野球が好きですか?)まぁ気にするな!1週間だけの臨時お手伝いだ、分からない事は聞くから宜しくな愛」
そう言うと洗い終わったボールを乾かす為、校庭の隅に張ったレジャーシートにボールを並べて行く
「美空先輩、頑張ってるね・・・」「まさか信一が何か言ったの?」
「まさか・・・彼女の意思だよ・・先輩は凄いな、ひた向きだし何より自分を高める事に対して手を抜かない・・」
そう信一の見つめる先には熱く焼けたレジャーシートの上で綺麗にボールを並べる美空先輩の姿があった
「愛・・今度の美空先輩は・・手ごわいぞ・・」
「・・・・・・」
そう言い残し信一はグラウンドのでの練習に戻って行った
「いよいよ明日か・・」
私は直前まで、こうやって絵に向き合う事はせずに野球部のお手伝いに専念した、時にはグラウンド整備時に草むしり、時にはスコアラー、時には用具の保全・・中でも信一君が何時も愛に頼んでるグラブの補修を私に頼んで来た時は本当に驚いた、ふと愛を見ると少しだけ悲しそうな顔をしていたのを私は見逃さなかった
以前であれば気にも留めない他人の感情の起伏に興味がもてる様になっていた、そして自分の心の中の気持ちも・・・
私は野球部の手伝いを通じ多くの部員に毎日お礼を言われる、それは部活外でもだ、そして・・
「美空先輩、この間のから揚げ美味しかったです!!有難う御座います」
そんな信一君の声に私はそっと手を振る
そう私は野球が好きなのでは無く、野球が好きな信一君が好きなのだと気付く・・信一君が嬉しそうにお礼を言ってくれる度に胸が苦しく熱くなる、指先の大量の切り傷も信一が美味しそうに唐揚げを頬張り喜んだ表情に掛かれば痛みも消し飛ぶ
そんな私の様子を見て居た他の生徒が有ろうことか私と上杉君が付き合ってるなど言い出したが私は信一君以外の男に興味が無いので、気にする事なく無視をする
そして一夜で描き上げたデザイン画・・・・
「では満場一致で3番のデザインに決定します」
【パチパチパチ】
私のデザインが15票全てを獲得した
「有難う御座います」皆にお辞儀でお礼を伝える
●放課後部活終わり間際の美術室
「部長お疲れ様です!」「また明日からタペストリー作成で忙しいからゆっくり休めよ!」
全員を帰宅させ私は自分の作品を見上げる、青い空と土をイメージした背景にボールをイメージした輝く球体を構図全体に散りばめて、真ん中にグラブとバットが立てかけてある絵、グラブもバットも細部まで拘った・・信一君のグラブにバット汚れ方にも凝った・・・
「凄いすね・・先輩の絵、前のとは全く違うタッチです・・・このタペストリーには俺達と一緒に頑張るっていう意思を感じます・・・俺このデザイン大好きです!」
信一君の大好きという言葉に胸の高鳴りが止まらない・・・「こ、今回は・・文句言わせないからな!」口から出るのは別の台詞・・・なぜ「信一君の事を応援したくデザインした」と言えないのか・・
そうして完成した応援タペストリーは野球部のシンボルとなった・・しかし地方大会、準決勝、決勝のダブルヘッダーの試合当日
信一君は開会の時に現れなかったらしい、そして信一君抜きで準決勝を何とか勝ち進み迎えた決勝の相手、しかし先発していたピッチャーが4回に突然のトラブルで交代・・人数がギリギリの中で間に合った残り唯一の投手である信一君にマウンドを託したが1アウトしか取れず10失点でコールド負けとなった
その後、信一君は救急車で病院に運ばれた、詳しい状況が分からないが、そのまま即入院
付き添っていた愛にその事を尋ねても「御免なさい・・信一からキツク口止めされてるので・・」と一切教えてはもらえなかった
そうして、退院した信一君は、その後の在学中でマウンドに立つ事は一度も無かった
そして年が明け肌寒さに震える季節に移り私の卒業が迫る中、私は信一君を呼び出した
「急に呼び出して申し訳ないね」
「いえ・・・平気です」
信一君には以前の様な覇気が無い、あの自信に満ち溢れていた面影は無い・・大会の事は色んな人から話を聞いてある程度は把握してる
当日、信一君は財布をスリに取られ困っていた2年の石川さんに自分の交通費を渡し、自らは走って球場に向かっていた様だ
その道中で歩道橋の階段を踏み外した女の子を助ける為に右肩を脱臼、女の子を救急車に乗せてから一緒に病院へ搬送される事を頑なに拒否して制止する隊員を振り切り、満身創痍の状況で球場に向かったとの事だった、それから色々有ったのだろう
すっかり変わってしまった彼だったが、私の心には既に彼しか居ない、今更この気持ちは止められない・・・寧ろ昔の輝きを取り戻す為に寄り添って一緒に歩んで行きたい
「信一君、君の事がどうしようもなく好きだ、私・・美空 雀には、この世で唯一君だけが必要だ、君に私のすべてを捧げるから私の彼氏になって欲しい」
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