第33話 安祐美を救ったカレの優しさ
☘安祐美side & 優side
優ちゃんの話しを聞く限りで彼女の信一君への気持ちは本物で、その長年募らせた想いは愛情と呼ぶに相応しい
「確かに・・・優ちゃんの話しを聞くと、信一君への想いが本気だって分かるよ・・」
「そう・・有難う御座います・・でも安祐美さんの目を見る限り私の話しを聞いても全然諦めるつもりは無いみたいですね・・・」
優の真剣な表情を見て私は笑って見せる
「当たり前でしょ?優ちゃんも初恋だったかもしれないけど、私も初恋だった・・しかも初恋だって気付いた時には、信一君の隣には愛が居て、私は少し後ろからその二人の姿を眺めるだけだったのよ?」
私は朝焼けの空を見上げる
〇3年半前・・・春
私は小さな頃から好きなテニスを中学でも部活として続けていた、そして中学2年になると異例のレギュラーに抜擢されて大会でも何度か優勝して結果を残して行った
「ゲーム! セットカウント 2ー0 勝者 石川」
「「有難うございました!!」」
他校との練習試合で勝利した私は対戦相手とネット越しに握手を交わす
「ふふ・・流石、大和中の石川さん・・完敗ね」
「いえ、今日はたまたま練習の成果が出ただけです、海星中の三波さんも流石です」
「大会で貴方とは出来たら当たりたく無いけど、もし再戦するその時は全力で挑戦させて貰うわ」
「はい是非!大会までさらに練習頑張ります」
『きゃぁぁぁ安祐美せんぱぁぁい』『石川可愛いよな~俺の彼女になってくんねぇかな?』『馬鹿!顔見て出直せよ』『まぁ石川と釣り合うのは3年の上杉先輩か2年の織田くらいだろ?』
相変わらず、学校のギャラリーの見てる所は私の容姿やスタイルだけ、プレイの内容なんか二の次だ、しかし・・・
「皆さん応援有難う御座います」
笑顔で手を上げて挨拶して部室に戻る途中ベンチで少し休んでいると
「ふぅ―――っ」
「お疲れ安祐美」
そう笑顔で私にスポーツドリンクを手渡してくれる親友の瀬川 愛
「サンキュー愛・・キュ・・ゴクゴクゴク・・・ふぅぅぅ」
私は一気に半分を飲み干す域、喉が渇いていた様だ
「ところでぇ~?その恰好・・・また野球部のマネージャー応援?」
「あはは、まぁねぇ~地方大会も近いしね少しでも練習時間作れる様に雑用や相手チームの分析等を手分して手伝ってるよ」
愛はジャージ姿で、ボブカットの髪の毛がジャージの襟に掛かってる
「それにしても忙しすぎじゃない?折角可愛いボブカット伸びちゃってるじゃん」
すると、愛はえへっへと笑いながら髪の毛の先をクルクルと弄りだした
「うん・・ちょっと伸ばそうかな?ってね・・」
どういう心境?と尋ねようとした時、野球部の織田君がやって来た
「あ、ここに居たか・・愛、監督が呼んでるよ?」
「あ、やば!安祐美私行くね!!」
そう言うと愛は駆け足で野球部の部室に向かっていった
「たくっ・・・あ、石川さんも今日の練習試合よかったね、おめでとう」
ドロドロになった野球のユニフォームが輝いて見える程の笑顔で私に言ってくれるので
「織田君も見ててくれたの?ありがと、野球と地方大会の準決勝・決勝の日が被ってて応援に行けないけどお互い精一杯頑張ろうね」
「ああ!その為にお互い今まで練習して来たんだもんな、石川さんも頑張れよ、絶対優勝だ!」
織田君は私とお互いに拳を突きだし軽くコツンと合わすと笑顔で手を振りながら部活に戻って行った
〇それから数か月後の夏の地方大会当日
私はバス停の前でスマホで愛にメッセージを送っていた、愛は今日、野球部の準マネージャーとして特別にベンチに入れて貰えるらしくかなり張り切っていた
『私も今から試合会場に移動するね』
『うん安祐美もガンバだよ!!』
デフォルメされたミンクがウインクしながら頑張れ!と親指を突きだしてるスタンプが大量に送られてきた
私は少しだけ緊張がゆるんで、油断してたのかもしれない・・・カバンのチャックを開けてスマホを仕舞おうとした瞬間
「え!?」正に一瞬だった、私のポケットから財布が盗まれたのは
盗んだ男は数メートル先に停まっていたバイクの後部に飛び乗ると猛スピードで走り去った
「ど、泥棒————!!」
パニックになりその場にへたり込む私の代わりに周りの誰かが声を挙上げてくれた
そんな時・・・彼は現れた
「ん?石川さんどうしたの?そんな所で座り込んで?」
私に声かけて来たのは織田君だった、真新しいユニフォーム姿でバットとスポーツバッグを担いでいた
「あ、お兄ちゃんその子の知り合い?その子さっき此処でスリにあって財布を取られちゃったの・・知り合いなら後は任せるわね」
そいうと親切なお祖母さんは到着したバスに乗り込んで行った
「マジか!おい!石川とりあえず警察に連絡するぞ!!」
そう言うと織田君は警察に電話をしていた、警察はバス停の近くの派出所から直ぐに駆けつけてくれた
「えっと・・・盗まれたのは財布だけ?他には?身分証みたいなのは?」
警察の聞き取りに淡々と答える・・・ふと時計を見る・・・・
「じ、時間!!試合に間に合わなくなる!!うっうううっ・・なんで・・なんでこんな目に・・」
なんの為にここまで頑張って来たのか・・・大会で三波さんと再戦する約束も・・・ああ・・・私の中学2年の大会・・・ここで終わるんだ・・
涙が溢れ、地面に蹲る・・・ポンポン私の頭を軽く叩く織田君は黒い長財布を私に差し出して笑顔で頷く
「え?でも・・これじゃ織田君が・・間に合わない・・」
織田君は笑顔で首を振る
「ああ、俺は走って行ける距離だし、ここは石川さんが使うのが正解だよ」
嘘だ・・地方球場まで20キロはある・・・それに試合は第3試合で、後3時間程で始まってしまう・・
「だ、ダメだよ・・・これじゃ織田君が・・・」
「野球は一人欠けても補欠も居るし、試合は出来るけど、テニスは石川が居なきゃ棄権になるだろ?だったら迷う事ないよ」
そう言うと、へたり込む私の手に無理やり自分の長財布を握らせて、振り返りもせずに走り去った
「ごめん・・織田君・・・有難う・・・・」
私は織田君の厚意を無駄に出来ないと、涙を拭い次のバスに駆け込む、電車とバスを乗り継ぎなんとか会場に間に合った
「はぁはぁはぁはぁ・・・監督遅れて申し訳ございません・・・はぁはぁはぁ・・・」
バス停から会場までを全力で走って来たので息が切れるが
「ああ、事情は学校から連絡が有って聞いている・・良く間に合ったな・・・しかしゆっくりは出来ない次、試合だからな!!」
「はっはっはい!!」
選手控室で準備を済ますと、三波さんと出くわす
「開会の時に居なかったから心配したの・・貴方に勝つために努力してきたんだから・・間に合ってくれて良かった」
キツイ言い方の中にどこか優しさを感じさせる三波さんに無言でうなずく
私は織田君の長財布をそっと胸の前で抱きしめ目を瞑る、思い出すのは織田君が財布を差し出し笑顔で頷いている顔
胸が苦しい・・キュウーと締め付けられる・・・ドキドキが収まらない・・・体が熱い・・・苦しい・・・
『その為にお互い今まで練習して来たんだもんな、石川さんも頑張れよ、絶対優勝だ!』
何これ・・・織田君の事を考えたら苦しいのに・・織田君の事しか頭に浮かんで来ない・・・でも・・すごい力が漲る
〇地方大会決勝戦
「石川、良くここまで頑張ったな、いよいよ決勝だ相手は練習試合で前に対戦した海星中の三波だ!油断せずに全力で行け!」
「はい!!」
私と三波さんはコートの前で見つめ合う・・・
「あの日からこうなる気がしたけど・・・私にとっては大会の優勝よりあなたに勝つ事が大事・・今日は負けない」
「三波さん・・私がここに立ててるのはある人のお陰なの・・・その人に絶対優勝って言われてる・・だから私は負けない」
「へぇ―――そんな顔出来るんだ・・なるほどねぇ」
「?なに?」
「今はお互い試合に集中する時ね、いい試合をしましょう」
そう言うと三波さんは右手を上げて私に向ける、私は苦笑し頷くとその手を軽く叩きハイタッチを交わすと二人同時に背を向けてコート端に移動する
【ピィィィィ】
審判の笛の音と共にゲームが始まった
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